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PONKOTU MAGAZINE! Vol.1

2020年!!様々な変化を乗り越えて2021年を迎えました。
”PONKOTU MAGAZINE”とは、ぽんこついんずがエディターを務める「ファッション・グルメ・生き方」をより良い方向へシフトするアイディアや大切にしたい「コト・モノ」を発信するメディアです。

今日のお昼なに食べる?? :
人形町VOL.1「ここも捨てたもんじゃない!」

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「ちょっと、中村さん。取引が始まったとたんに、気が緩んでんじゃない?次は気を付けて。」

「大変申し訳ございませんでした。すぐに、修正をしてお送りします。失礼します。」

エレベータで深々と頭を下げるとすぐに扉はしまった。古い雑居ビル特有のボタンを押した途端に締まる扉は、1秒でも早くこの場を立ち去りたい私の気持ちの表れのように慌てるように、ぎこちなく早々と動きを進めた。


「ふーっ。やっちゃったな…。」

雲ひとつないスカイブルーの空とは逆に、重い気持ちでため息をつくと、外に出た。画に描いたような文字通りの青い空が広がっていた。

憧れだった広告代理店に入社し、3年目。始めは先輩について向かうクライアント先も、気が付けば自分一人で任される立場になっていた。最近は、トントン拍子に新規のクライアントを開拓し、今月はインセンティブが出るかもなんて調子にのった矢先のことである。

クライアントからの修正依頼に対し、反映箇所の漏れが複数あったのだ。クライアントは、出版社。文字綴りのプロを相手にしているから気を引き締めて。と入念に確認し、提案書を作り最初の取引にこぎつけたばっかりで痛恨のミス。朝から電話で謝罪するものの、電話口の担当者とのやり取りは歯切れが悪かった。咄嗟に、オフィスを出ると私は、人形町へ向かっていた。

A5と書かれたエレベーターを上がると、いかにもサラリーマンの街らしいビジネスパーソンで溢れていた。メイン通りをまっすぐ数10メートル。古い建物をリノベーションした出版社のオフィスへ行くのは実は2回目。初回のアポイントの時以来だ。

「いやー、御社みたいな恵比寿の一等地にあるオフィスと違って、うちは小さな出版社だからね。恥ずかしくてお招きしたくないんだよ。僕が行くよ。」

担当の坂口さんは、毎回訪問したいと伝えるたびになぜかこの文句で、断るのだ。恐らく、アポの日程を金曜日の夕方に設定しているところを推測すると、そのまま広尾や六本木へ繰り出す為だろう。40歳をとうに越してるが、見た目は30歳の私と同世代。自分より遊んでそうな、”独身貴族”だ。

出版社のあるフロアへ着くと、ブルックリン風のインテリアが目を引く受付があった。受話器で呼び出しをしようとすると、たまたま坂口さんが出てきた。まさか、直接謝罪をしにくるとは思わなかったのだろう。𠮟咤激励と言わんばかりの言葉とは裏腹に、若干居心地が悪そうだった。怒りなれてないのだろう。

期待を裏切ってしまった申し訳なさと、上司への報告を考えると自分が嫌になる。グルグルと考えていても良い方向には変わらない。急いで会社に戻ろう。来た道を小走りで引き返す。大きな交差点。日比谷線の改札口へと続くエレベーターに差し掛かった時だった。まだ、お昼の1時にはそぐわない炭の香ばしい香りが鼻腔を刺激した。

「焼き鳥だ!え、でもこの時間に?」
キョロキョロと周りを見渡すと、香りの正体はエレベーターの隣。朝からバタバタで気が付けば、今日は何も口にしていない。こんなに落ち込んでるときでもおなかが減るのかと、懲りない自分のカラダにも腹が立つ。「江戸路」と書かれた店の前でメニューを眺めていると、行きつけらしいサラリーマンの二人組がメニューも見ずに引き戸に吸い込まれていった。引き付けられるように、私は後を追った。

「いらっしゃい、おひとり様?ここどうぞ!」

カウンターのみの店内に大将らしい風貌のおじさんの声が響く。さっきの二人組はどこへ?と周りを見渡すと、2階から食事を済ませた仲良しOL3人組が下りてきた。2階もあるようだ。いかにも一見らしい、雰囲気を感じたのか、大将が声をかけた。

「今日まだ、限定残ってますよ!」

「じゃあそれでお願いします」と答えた後で、メニューに見をやると、「おススメ!数量限定!江戸路丼」と書かれたどんぶりには、様々な鶏肉の部位がタレと塩の2種で焼かれご飯を覆い隠していた。上質で新鮮な鶏を扱っているからなのだろうか。じっくりと火入れされた鶏の油が炭に落ち、香ばしい香りを漂わせた店内はいつも金曜日の仕事終わりに通う焼き鳥屋とは、全然香りの質が違う。いや、そうじゃない。いつもの焼き鳥は、ビールというパートナーがいて成り立っている。酔っていないとこんなにも焼鳥の焼ける香り違うものなのか。初めての体験に胸が躍る。

ひっきりなしにお客さんが入ってくると既にカウンターは満席になった。ピークタイムが、数回あることが繁盛しているお店の条件。昔、学生時代にバイトしていたビストロの店長の口ぐせを思い出した。人気店なのか…。

ほどなくして、威勢のいい掛け声とともに、丼ぶりが目の前に現れた。

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香ばしい焼鳥の香りに加え、ご飯の下に綺麗に敷かれた刻み海苔の磯の香りが後から追いかけてきた。すぐにがっつきたくなる気持ちを抑え、低温でふっくらとやきあげられたムネの部分を一切れ、そおっと口に入れた。噛むほどに、じゅわっと肉の旨味が溶け出してきた。こんな美味しい鶏肉は食べたことがない。次は、ネギ塩だれを絡めて食べてみる。

「んーーーーっ。」

あんなに上品だった塊が今度はガツンとしたキレのある味わいに変化した。後味も旨い。我慢が出来ずに、タレの絡まったモモ肉をご飯と一緒に頬張ってしまった。そこからはアクセルが全開。無我夢中で、ご飯と鶏を交互に口に入れては幸せを噛み締める。

「そんなに、急いで食べなくても鶏は逃げないよ。」

横から、誰かに話しかけられて我に返った。

「坂口さん!!す、すみません。帰ったらすぐに対応しますので…。」

「ちょっと言い過ぎたかなって思って気になってたんだけど、その食べっぷりを見る限り大丈夫そうだね。安心した。」

いつから隣にいたんだろう?恥ずかしさで顔が赤くなっているのが、鏡を見なくても分かる。とにかくさっさと、ここを出ようと焦ってどんぶりに手を伸ばすと、坂口さんが切り出した。

「ここはね、1760年創業の鶏料理専門店”玉ひで”の姉妹店なんだよ。親子丼ってあるでしょ。あれを日本で最初にお店で出した所。人形町は、老舗の名店が沢山ある。でも、玉ひでさんはこのお店みたいに時代に合わせて企業努力もしているんだよ。いい仕事とは、一度や二度の成功によって創られるものじゃないんだよ。日々の積み重ねのものだからね。失敗も一度や二度でへこたれてもいけない。この街は古いお店が多くてね、お店を続けている人たちも、一度や二度の失敗でへこたれず、成功にも奢らず。だからこの街が好きなんだよ。」

続けるということ、そして常に良いものへと探求し続けるコトか…。数日間のクライアントとの仕事内容に自分の詰めの甘さを痛感した。

「人形町、古くを温め、新しさへの挑戦もする町」か…。ふと、心の声がだだ洩れた。

「そう、温故知新。まさにこの四字熟語がピッタリな街。でもあまりにもここが好きすぎて最近は、ほかの街にも積極的に出向くようにしているんだよ。」

食べ終わったどんぶりが離れがたいと感じたのは、もしかしたら坂口さんの意外な面を知ったからなのか…。一緒にお会計を済ませ、会社へ戻る、エレベーターが締まる刹那、

「坂口さん!次は人形町で、アポしましょう♪」

次回へ続く!

◆今日ご紹介したお店は、こちら!◆
「江戸路」
人形町駅交差点という好アクセスで拘りの鶏料理が堪能できるお店。ランチは、コストパフォーマンスの良さを実感できるはず!
場所:中央区日本橋人形町1-19-2
アクセス: 地下鉄日比谷線・都営浅草線人形町駅A5出口 徒歩1分
地下鉄半蔵門線・水天宮前駅 徒歩3分 
人形町駅から48m
電話:03-3668-0018
ランチ時間11時20分〜13時30分 ※2019年10月時点での情報です※





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