「火球」
長 : あれです。「反逆の星。」
宇宙の法則、全てに反する星。
画面に映った青い球体を見ながら
私は黙って話を聞いていた。
長 : あれを放置すれば、宇宙全体がいずれ滅ぶ。
あれを撃てば、宇宙もろとも破滅する。
あれを支配しようとすれば、報復が襲い、宇宙は滅ぶ。
我々はあれを改善させようと試みましたが、叡智を与えても、導いても、結果は出ませんでした。
それどころか向かった者が皆取り込まれてしまいました。
何をしても超低速のままで間に合いません。
そして、この宇宙に存在する全ての可能性から、方法は無いとわかりました。
私 : 創造主がそう言ったのか。
長 : その通り。
どの方法でも不可能だと。この宇宙の創造主には対処できないバグが起きてしまったようです。
本来なら、別の可能性が存在するはずです。万物には全ての可能性がある。しかし、「反逆の星」に限ってはどの可能性においても「反逆の星」に変わりなかったのです。全てのパターンで同じ「反逆の星」が観測されています。寸分の狂いもなく。
何の手を使っても変えられない。我々には覚悟が出来ています。最期が来たなら、本当にやりたい事をするのです。
私 : その「本当にやりたい事」というのが、無い可能性の創造だと言うのか。
長 : ええ。
そのためにあらゆる座標からエネルギー、そして生命体が集まってきています。
この我々の不可能な試みに、可能性というしずくを与えられるのは。存在しないものを生み出し、無い可能性を選びとってきた、貴方の他にいないのです。
私 : そうか。残念だな。
長 : 我々は貴方様がかつて諦めたことのある宝を集めることに成功しました。
私 : そうか。
長 : 他銀河を旅しても見つけることが出来なかった出逢いもご用意致しました。
私 : そうか。
長 : 集うはずのなかった者たちが一点に集まる、それは貴方が夢見てきた瞬間です。
私 : そうだな。
長 : それは貴方の求めた未知の冒険に溢れています。
私 : そうだな。残念だ。
長 : そして我々は密かに追っていた宇宙の外の世界の糸口を発見したのです。
それは一瞬だった。
たった一瞬だけ、私の心が動いた。
その隙をつかれた。
しまった、そう思った時にはすでに落下していた。
急落下!
目標「反逆の星。」クソ!不時着するしかない。その星は目の前に迫っている。考える猶予はない。意識を飛ばして星に共鳴させる。
急加速!
まずい、私の魂はこの星に耐えられない。全ての力と記憶をなくしてゼロに戻さなければ着陸不可能だ。
大気圏突入!
成功!全ての力と記憶を星の外に緊急保存した!
着陸!
そこには、まるで今この瞬間に生まれたような、世にも珍しい初期状態の魂が不時着していた。
新しい何かが生まれる。その予感に大地はそっと震えていた。
「火球」・・・END
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