見出し画像

岡山・牛窓 acca「シェフの魔法にかけられて」

岡山・牛窓『acca』林冬青シェフは、魔法使いである。
昨年夏のこと。僕は、林シェフの魔法にかけられた。「魔法にかけられた」としか言えないほどの、深く余韻の長い感動を覚えたのである。
グルメでも何でもない僕が、日本屈指のイタリア料理人である林シェフの料理を語るのは、おこがましい。でも語らずにはいられない。感動を分かち合いたい。料理を食べてそんな気持ちになったのは、久しぶりである。

『acca』の料理は、地物の魚介類をシンプルに調理。最新の技法を駆使する訳でもない。見目麗しいプレゼンテーションもない。むしろあけすけと言っていいほどの無骨さ。かつて東京・広尾で「天下を取った」料理を期待すると、肩透かしを喰らったと思う人も多いかも知れない。

料理に流行があっても良いし、食の流行を追い掛けるファンがいても良い。だけど流行と一線を画した料理があっても、それもまた良し。
林シェフの修行僧のように純粋で邪念のない求道心。イタリアの郷土料理志向。瀬戸内の地魚の美味しさを活かすベクトル。『コート・ドール』斉須政雄シェフへのリスペクト・・・。
しかし、そんな言葉をかき集めて書き連ねても、昨夜の感動が蘇る訳ではない。
『acca』の料理の美味しさは、僕にとって「魔法」としか言いようがない。淡くはかない。口では言い表せない。それほど微細で玄妙なイメージなのだ。かつてマルタ・アルゲリッチのピアノを聴いて、人間技を超越した天女が奏でる音楽だと感じたように。

牛窓の美しい自然に抱かれて、林シェフの世界観に身を委ねる至福のひととき。
自然の持つ慈母のような優しさと、職人の持つ厳しい完璧主義。そんな相反する価値観の融合こそ、林シェフの世界観。そんな世界観を味わうことは、料理の本質へ肉薄する得難い経験。
料理の本質は、僕がいくら手を伸ばしても掴めないもの。けれど、料理の本質って、広く深い海のような愛、静かではかない愛である、と朧げながら感じた。

サポートエリアは現在未設定です。サポートしたいお気持ちの方は、代わりにこの記事へのコメントを頂ければ嬉しいです。