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成人式の前撮りをしてきた話

 以前から予約していた、写真館での成人式の前撮りをしに行ってきた。

 わたしはまだ19なので成人式をするのは来年の1月なのだけれども、「和装撮影+洋装撮影+当日和装貸し出し+メイクやら小物やら諸々ぜんぶ込のプラン」的なのがあって、「前年の3月末迄に撮影すると少しお安く!」なるようなのでこんなにも早々に撮ってきたのだ。(といっても数十万円はするらしい)

 初めての他人によるメイク、初めての和装だったので、めんどくさそう半分と好奇心4分の1と期待4分の1で写真館に入った。待ち合わせていた母と一緒だ。すぐに4階にある四畳半ほどの部屋に通された。三方を鏡に囲まれ、和装のためのグッズが床に置かれ、ドレスが3着かけてあるさまは、「いかにも」といった感じだった。ベリーショートにしっかりメイクで少し凝った眼鏡を掛けた格好で揃えた、よく似た3人のオバチャンズに「お待ちしておりました!」と迎えられ、いよいよ支度が始まった。

 オバチャン「それじゃあお嬢さん、早速脱いでいってください!」
 えっ…?母がいるんですが…?もう数年下着姿さえも見せるのを拒みまくった母がすぐそこにいるんですが…?旅行先の温泉でさえも抵抗があるのに…?そんな覚悟なんてしてきてませんよ…? と言いたいのをぐっと堪えてブラとショーツだけの状態になった。

 いやあ我ながらシルエットは良い、畝のように割れてた(ちょっとそれは盛った)腹筋は今じゃすっかり脂ちゃんの後ろに隠れてしまったけど…。

 いやそんなことはどうでもいいので置いておく、(ほぼ)あられもない姿になったわたしはすぐに肌襦袢(和装用のガーゼ地でできた肌着)と散髪のときのアレ(ポンチョ状のツルツルした後ろ開きのアレ)をオバチャンに着せられて鏡の前の椅子にかけるように促された。

 オバチャン二人がかりでヘアメイク、残りのオバチャン一人で顔面のメイクを同時進行でチャチャチャと施していった。

 おお、芸能人っていつもこんな感じなんやろか
 毛量多くて直毛な上1000円カットで適当に済ませた髪型で申し訳ないな〜
 えっそのリキッドファンデの明るさ、わたしの「健康的な小麦肌」じゃ浮いてません…?
 ああそんなにガッツリアイライン描いたらわたしの繊細な()二重幅が無に帰すんですけど…?
 ちょちょちょちょっと待ってねぇそれ眉毛触りすぎじゃない?????
 など、色々とツッコミどころはあったが無事に(?)髪と顔のメイクが済んだ。

 次はいよいよ着付けだ。昨夏級友と浴衣で天神祭に行った際、きちんと着付けてもらい、快適に回ることができたので「まあちょっとアレより枚数が多くてキツイくらいかな〜」と思っていた。

 正直ナメてました。すみません。もうね、浴衣なんてね、カワイイ。そりゃもう湯帷子(ユカタビラ=蒸風呂で着られた服)からの江戸時代中期の「ちょっとした外出着」にもなりますわ。(出典 NPO法人 日本ゆかた文化協会HP『和の服装文化 浴衣の歴史』)

 本当エグいのよ。下部肋骨からくびれ(あることにしといてくれ)の辺りに、誇張抜きにして紐6本くらいをギューーーーっと巻きつけるわけですよ。オエエエエエエエエエエエエですわ。呼吸をして肺に酸素を吸い込ませて膨張した分の体積を、下腹部にしか逃がせないのです。つまりあまり吸えないのです。このとき母に(恐らく和装の心地について)「どう?」と訊かれ、間髪置かずに「ム…虫の息…」と答えたことを覚えている。

 こうして仕上がったボンレスハムは出荷を前にお歳暮用のパケ写撮影の為に撮影ブースへと輸送され…

 コホンコホン

 着付けを終えたわたしはオバチャンたちが内線で連絡をとった担当スタッフに連れられ、母と共に3人で上階のスタジオへ行き、撮影に臨んだ。幼少期の七五三の記念撮影などでも利用した、見覚えのあるスタジオだ。

 カメラマンと、アシスタントらしきスタッフと、大学や部活についてなど、さまざまな雑談を交えながら緊張を解してもらっていく。並行して彼らに言われたポーズを取り、人工的に作られた「ナチュラル風な」ポーズでパシャパシャと写真を撮っていく。ときたま「流石陸上部!体幹がしっかりしてるね!」「足首が柔軟だからこんなポーズもできるんだね!」的なことを言って褒めてくれる。ふふん当たり前じゃないの、伊達に8年陸上部捻挫パート長務めてないわよ、失礼しちゃうわ。

 カメラマンは終始「はいもっと笑顔で!」「歯を見せて笑って!」なんて仰っていたが、これは難しい注文だった。こちとら生粋のインキャなので中学時代にはありとあらゆるキラキラ女子たちのツーショット自撮りをビュンビュンと避け、偶然写真に写り込んでしまうことさえをも厭い、ピン状態でカメラをこちらに向けられようものなら画角からはみ出るように身体能力すべてをフル稼働させて愚図る赤子の如く、精一杯反り返らせるような人間だったのだ。

 そして別談にはなってしまうがインキャには作り笑顔に関してトラウマがあった。中学生の頃いい子ちゃんインキャだったわたしが、同じマンションに住む同級生の母親とロビーで偶然出会い、他愛ない雑談をしたときの話だ。彼女は決して笑うことがなく、物言いがきついため苦手な人だったが、敵に回さず無難な関係であろうと100%の営業スマイルを繰り出してお応えしていたときのことだ。「ぽんちゃん今日なんかめっちゃ笑顔やん、なんかええことあったん?」『いえ特に…^^;』「絶対嘘やんめっちゃわろてるやん」「なあ教えてぇや」「なあ」「どしうしたん?」「なあ?」「教えてや」「絶対なんかあったやん」トラウマのあまりか記憶はここまでで止まっている。どう切り抜けたかは覚えていないがとりあえず未だ心の傷は癒えていない。ぴえん。

 今ではインキャもJKを経てそれなりに青春時代を堪能し、女子まみれのキャンパスに進学したり接客業のバイトをしたりするなど、豊富な経験を積み、丸くなったため、多少の笑顔を作り写真に写るようにはなったが、相変わらず2秒ほどで口角の痙攣が始まる。しかしまあできません笑えませんなんて屁理屈を言ってられないのでどうにか営業スマイルの作り方を思い出して過ごした。この間もずっと死戦期呼吸である。
 もう本当まじでね、早朝からこんな重装備で成人式に出て、恩師の所訪ねてッウェーーイwせんせーひさしぶりーwってニコニコキラキラの写真残してるお姉さん方ってみんな超人だったんだなって心底尊敬しましたよ。

 途中給水&休憩タイムをとってもらったり後からドレスにも着換えて撮ったりと、全部で恐らく1時間半ほど撮影していたのだが、なにせ和装の間はお腹がずっとボンレスハム状態だったためにほとんど「苦しかった」という記憶しかない。途中考えていたことといえば、あとどれくらいでこれから解放されるのか、中世ヨーロッパでコルセットを巻いて苦しさのあまり失神したという貴族はこんな気持ちだっただろうか、なんてことである。ちなみにドレスは下着の上に直接ドレスだったのでノーストレスでした。もうわたしドレスで成人式行きたい。

 紆余曲折した前撮りもやっと無事に終え、写真の現像を待っているいま、手元に残されたのはオバチャンに整えられて眉尻を失ったマロ眉、ただそれだけだった。

 アイブロウペンシルを買った。

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