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星めぐる旅 #5 人と神をつなぐ場

前回のお話

 2023年夏。筆者(伊地知奈々子)は山陰の愉快な仲間たちと連れ立ち、隠岐をめぐる旅へと出かけた。隠岐・島後の総社、玉若酢命神社、隠岐の原始信仰を感じる祠に続き、不思議な海に抜ける穴を一行は目撃する。


滝へ向かう、緑の道のり

 海に抜ける穴と奇岩風景。抜けるような青空。爽やかな景色だが、流石に炎天下がたまらなくなってきた。われわれは、涼を求めて滝の方へと向かった。しばし、木陰をドライブしていく。濃い緑が、日差しに疲れた目に優しい。

 林に目を向けると、多様な植物が層を成しているのに気づく。隠岐は、植生が豊かな日本列島の中でも、特に多様性に富むエリアと言われている。実に1800種以上の植物が存在し、本来なら複数の気候帯にまたがるものが共存しているというのだ。緑の濃さは、植物たちの層の厚さ、種の多さが感じさせる、エネルギーそのものなのだろう。

石と植物、無機物と有機物。多様性がさらに増す隠岐の風景

 面積が決して大きいとは言えない隠岐諸島だが、形成される歴史の中で、周辺と地続きになったり、離れたり、火山活動があったり、海流の影響を受けたり…複雑な要因がいくつも重なって、奇跡の植生となったのだという。

 異なる世界のものが、交差し、離れ、また交差し…その結果生まれた生態系だからこそ、神の島、人と神をつなぐ場としての機能が自然と生まれたのかも知れない、そう感じた。

 緑の道のりを進んでいくと、なぜか猛烈な眠気が襲ってきた。後少しでとある滝のある神社…というところまで来たのに、睡魔は激しくなるばかり。わたしは車でお留守番させていただくこととし、大下さん、ヤブちゃん、久美子さんが向かう。

 ややあって、久美子さんが帰ってきて、日除に布を貸してくれた。そのままうとうととしていたら、結構な時間が経ち、ようやく大下さんとヤブちゃんが帰ってきた。

崩落した神社

 帰ってくるなり、「いやー、危うく遭難するところですよ」と大下さん。

 なんでも、崖伝いに登っていったらしい。ロープを頼りに岩場を登っていくのだが、数年前山陰地方を襲った豪雨の影響か、随所が崩落していて非常に足場が不安定とのこと。

足場は安全とは言えない(撮影:ヤブちゃん)

 先に何があるか、全く読めない。それでも、ずんずん進んで行ったそうだ。

2人が目撃した奇岩風景

 やがて鳥居が現れ、2人はさらに進んでいく。(この2人のすごいところは、とにかく進んでいくということだ!体力もすごいし、探究心もすごい。だからこそ、人の見ぬ景色を目撃するのだろう…。)

いにしえ的な鳥居を進む大下さん。(撮影:ヤブちゃん)

 「でもね、その先は朽ちていたんですよ」

 大下さんは、ここまで話して、ため息をついた。

 「朽ちていた?」

 「そうなんです。なんというか、氣が枯れていた。やっぱりね、聖地って、人と場がエネルギーに交流してこそ、聖地なのかも知れません。もちろん、その場の素晴らしさというのもあるし、自然の力もあるよね。でも、聖地を聖地たらしめているのは、それを聖地と認知する、人という存在があってのことなのかもしれない。」

 そこまで聞いて、不思議と腑に落ちた。

 人と場が関わることで、人と神は関わっていく。
 もしかしたら、その場に感じたインスピレーションを、いにしえ人は「神」と呼んだのかも知れない。

 いにしえの誰かが感じたインスピレーション。それは連綿と繋がれてきた。なんらかの理由でインスピレーションの伝達が途絶える時に、人と場の繋がりも途絶え、エネルギーは変化する。

 現実的に言えば、豪雨であったり、あまりにたくさんの神社(しかも、簡単には行けないような場所も含む)を管理するということだったり、人口減少だったり…様々な要因が絡んで、「朽ちた」という現状になる、それは仕方のないことだ。しかし、インスピレーションが高まっていた時期のつくりが壮麗であればあるほど、インスピレーションが失われた後の落差は大きく見えるだろう。

 そこまで考えて、ふと氣づいた。
 では、あの海の穴は?
 簡素な祠の横であり、漂着物が大量にあってもおかしくない環境。
 しかし、穴の中はとても綺麗になっていて、神秘的で気持ち良い心持ちがする…。

 もしかしたら、海に続くあの穴は、人知れずインスピレーションが今日も動き続けているのかも知れない。

 海の穴に見られた、「人と場」の、個人的かつそれでいて濃いつながり。
 その現場を目撃してから、また違う角度から「人と場の関わりとエナジー」について気づきを得るために、われわれはここに来た。そう思わされるようなひと時だった。
(つづく)


隠岐編の記事まとめはこちらから

筆者について

伊地知奈々子
a.k.a POP/木田時輪(ペンネーム)

セラピスト。アーティスト。星をめぐる旅をしています。
主宰しております新神戸・サロンCENOTEのページはこちらです。

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