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かっこわるい編集後記(平野レミさん『家族の味』)

本づくりの裏側には、いつだってドラマがあります。
でも、かっこいいドラマばかりあるわけではありません。
編集者は「作家さんといい本を作りたい」という想いだけ抱いて、愚直に仕事をしています。それは実はあんまり派手ではなくて、もしかしたらちょっとかっこわるく見える部分もあるかもしれません。
でも、本づくりって、けっこうそんなものなのです。

このコーナーでは、そんなかっこわるい部分もお見せした編集後記をお届けしてまいります。
なお、かっこわるさは編集者によって異なりますので、温かい目でお読みください。

第一回は、企画編集部の辻敦さんによる『家族の味』(平野レミ)の「かっこわるい編集後記」です。

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平野レミ『家族の味
はじめて料理を作った思い出から、和田誠さんとのなれそめや子育て方針まで、家族と料理への愛情がぎゅっと詰まったエッセイ集。


ぼくはいまとても嬉しい気持ちです。
大好きな人の本が作れたからです。
その大好きな人とは平野レミさんと和田誠さんです。

ぼくはよく、実現できないかもしれないことを口にします。この本のきっかけもそうでした。「レミさんのエッセイ作りたいなあ。イラストは和田誠さんで、ふたりのなれそめとか生活を書いてもらって。帯には上野樹里さんからコメントもらって……」
そんな夢みたいなことが、ほぼ叶ってしまったんだから、それはもう嬉しい気持ちになりますよ。それも一般書の編集部に異動して初めて作る本で。

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『ド・レミの子守歌』(平野レミ著・中央公論社刊)。この本はぼくがいちばん好きなエッセイです。いっさい気取らない等身大のレミさんの言葉で、出産、子育てのエピソードがみずみずしく書かれています。こんな本を作れたらなあ、とぼくはずっと思っていました。

不意に、ほんとうに不意に『笑ってお料理』というレミさんの新書を見つけました。レシピも収録されていますが、通底するテーマは「家族」。その内容は、ぼくがこんな本を作れたらなあ、と思っていたこととかなり近かった。和田誠さんのイラストもたくさん入っています。そしてそれはいわゆる「品切れ重版未定」状態。そのときぼくは決めました。これをポプラ社で出そう!

さっそく手紙の準備です。
ラブレターさながら(ラブレター書いたことないけど)、熱意と魂と心を込めて一生懸命書きました。できあがった手紙を編集長に見せたら、笑いながら「長いね」と一言。でも「心がこもっていていいね」とも言ってくれました。無事レミさんに届くよう祈りつつ手紙をポストに投函。

数日たって、そろそろ一度電話してみようかな、と思い始めたとき、会社の携帯が鳴りました。出るとそれはレミさんでした。

「手紙をくれたの辻さんだけよ。だから辻さんに決めました」

このとき、ぼくはもうすでにしあわせでした。

はじめてお会いする日は、それはもう緊張しました。
できうる準備をすべてして事務所まで伺いました。
ぼくの目の前に座って、ぼくの話を聞いているレミさんは、ぼくがイメージしていたレミさんとおんなじでした。本で読んだレミさんともおんなじでしたし、テレビで見るレミさんともおんなじでした。とびきり明るくて、元気で、なにより自然体で。

それから、本作りの作業にとりかかりました。
細かな作業が一段落し、さて本格的に打ち合わせしよう!と久々にレミさんにご連絡したら、
「ぜんぜん連絡来ないから、もうやらないのかと思った」
と言われてしまいました。それからは密に連絡をとりました。

デザイナーさんへの依頼や他の出版社へ権利関係の確認をするときは、自信がなくて話が絶対にしどろもどろになるので、誰もいない場所に移動して心を落ち着かせてから電話しました。そんな様子を会社の人に見られたくなかったし。デザイナーさんにおかしな修正依頼をして、その依頼がおかしいことをやさしく指摘されて顔から火が出るかと思ったり、本作りの超初歩的な質問を何度もして、先輩にあきれられたり。

他にも書ききれないくらいの恥と幸運と会社の先輩方の助けがあって、『家族の味』ができあがりました。ほんとうにすてきな本になりました。ぼくにとって大切な本にもなりました。もともと大好きだったレミさんのことを、もっと大好きになってしまいました。


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