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「メロディが出てこないときは、何回も脚本を読む」 ~劇伴ができるまで~

『アニメおしりたんてい』制作の舞台裏に潜入する本連載。今回はアニメおしりたんていの音楽を作る作曲家の高木洋さんのお話を伺いました。劇伴制作とはどんなお仕事? なかなか聞けないお話がたくさんです。どうぞお楽しみください!

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高木洋
1976年、福岡県生まれ。
東京音楽大学作曲専攻(映画放送音楽コース)卒業。
鮮烈な音楽性と印象深いメロディラインが特徴で、
劇伴、ポピュラーソング、テレビ番組、CM、コンサートでのオーケストラアレンジなど、様々な分野で活躍中。

作曲に制約はあまりない

――劇伴作曲家というお仕事を、簡単にご紹介をお願いしてもいいでしょうか。

高木:アニメとか映画とかドラマとかで、声優さんとか俳優さんが演技している後ろで流れている音楽を作る仕事ですね。

――どの場面でどの音楽が流れるというのは、どなたが決めるんですか?

高木:選曲の方と監督の方が、こういう曲がこのアニメには必要だろうということでリストを作って僕と打ち合わせをしまして、僕は色々なシーン、楽しい・悲しい・嬉しいみたいな感情のときに、それに合わせた音楽を作るというのが仕事ですね。

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▲毎回の放送で印象的なおしりたんていの必殺技には、おなじみの印象的なテーマ曲がそえられる。

――このおしりたんていのアニメシリーズだと、何曲くらい作っていらっしゃるんでしょうか?

高木:何曲くらいありますかね……毎年映画に合わせてテレビの曲に足しているので、テレビだけを全部集めると、80とかそれくらいですかね。また映画に合わせて、ちょっとずつ足していくっていう感じですね。

――週に一本ずつ放映されるテレビアニメとして、その数は多いんでしょうか、少ないんでしょうか、それとも普通なのでしょうか。

高木:最初の一回目として40いくつ作ってるんですけど、それは平均的だと思います。

――おしりたんていに限らず、色々な制約があると思うんですけど、苦労されていることとか心がけていることって何でしょうか?

高:制約はあまりないですね(笑)。尺とかでいえば、例えば僕が一分半の曲を用意したとして、アニメのシーンが二十秒だとすると、選曲さんがいい感じにこれを20秒につまむんですね。なので、実際の尺合わせをするのは選曲さんという職業の仕事です。映画だと何分何秒に合わせてぴったり作るんですけど、テレビは回によって悲しいシーンは1話に30秒、4話くらいに15秒あるいは1分の悲しいシーンがあるかもしれないので、実際の尺合わせは選曲の方の仕事なんです。一応僕が気を付けているのは、繋ぎやすいようには作ることです。どこからどこに飛べるようにとか。例えば短いシーンだったら真ん中端折って最初から最後に飛んですぐ終われるようにとか、そういうことは気をつけて作るようにはしています。

――では、同じ「〇〇のテーマ」とかでも、1話と5話と7話ではいろんなつまみ方があるということでしょうか?

高:そうです。そこは選曲さんの腕なので。僕はここで飛ばせるよみたいなポイントをいくつか必ず仕込むようにしてます。

材料となるのはキャラクターと脚本

――おしりたんていの場合、音楽を作るタイミングはいつだったんでしょうか? 最初のパイロット版を作った時ですか?

高木:そうですね。パイロットのときの音楽がわりとそのままアニメの方に来てるので。メインテーマとか、かいとうUとかのキャラクターテーマとか、わりとあのままですね。最初に鷲尾さんとかと打ち合わせをして、こういう世界観がいいという話をしてたので、基本的にはあの世界観を守ってテレビの音楽を作ってますね。

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▲かいとうUが登場するシーンに出てくるフラメンコ調の曲も、印象的で楽しみな1曲だ。

――先ほどのお話からだと、テレビシリーズは本番の絵を見ないで作ってしまうということですが……。

高木:基本的に何分で作ってくださいというのは、打ち合わせの時に言われるんです。アニメはだいたい1分半で、と言われることが多いんですけれど、僕はその1分半のものを基本的には1個ずつ作っていきます。脚本を頂けることが多いので、ああこのシーンにはまりそうかなとか、そういうのは事前に脚本を読んで、そこから曲を作ったりもしますし。

材料となるのは、脚本とキャラクターの設定資料で、それを見て自分のなかでどういうアニメになるかなというのを想像するというか。だいたいこういう風に台詞を喋ってこういう風に動いてる。で、そこにどういう音楽が合うのかな、って想像すると思います。だから、メロディが出てこないときは何回も脚本読みますね。

――手元に楽器を持ったりはしないんですか?

高木:そういうときもありますし、意外とトイレに入ってるときとか、お風呂に入ってるときとか、なにも出てこなかったなってときに、ふと思いついたりすることもありますね。あとは寝る前とか、起きたときとか。
忘れてしまうこともありますが、忘れたならその程度の曲なのかな、とも思っています(笑)。

デスメタルの回は「子ども泣かないかなーって、見てました(笑)」

――おしりたんていに限った難しさや、工夫・苦労した点があれば教えてください。

高木:最初に打ち合わせをしたときに、児童書ですけど、お話としては上品な大人たちの話で、僕も読んでてそう感じましたし、こどもこどもしい音楽にはしないでほしいと言われました。本当にいいのかな?って思ったんですけど、音楽としてはすごく大人向けというか上品に映えるような音楽を作っていますね。逆にクイズでちっちゃい子も楽しめるようなつくり方をしています。ブラウンたちの視線から見て繰り広げられる素敵な大人たちのお話と、クイズや迷路の場面をすごく分けて作ったのが工夫した点ですね。

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▲楽しいクイズシーンの一方で、大人たちのシーンもちらほらと。(14話「ププッ いせきからのSOS」)

――「ププッおもいでのまねきねこ」では、すずの母・YUKIのバンドの曲を書かれていますよね。原作は本なのでメロディがないですが、どう曲を作られましたか?

高木:原作で明らかにデスボイス出してそうだったので(笑)、デスメタルになりました。
最高でしたね。演出が素晴らしくて、やり切った感がありました。子ども泣かないかなーって、見てましたけど(笑)。

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▲高木さんが「やり切った」と語るデスメタルソング「TSUME」を歌うYUKI。(56話「ププッ おもいでのまねきねこ」)

――高木さんご自身では、得意ジャンルはあるんでしょうか?

高木:僕は子供のころから邦楽ばかりを聞いていて、あとはオーケストラの映画音楽が好きだったので、その二つですね。歌とオケが僕の一番得意なところだと思います。
YUKIの曲のデスメタルは別に得意ではないですが(笑)、でもちょっと前にメタル系の音楽が好きになった時期があったので、そういう意味では全く興味がないというわけではないんです。こういう仕事をしているので、引き出しはそれなりにあると思います。

――1つの作品でこれだけいろんなジャンルに手を出すというのはなかなか珍しいのではないでしょうか?

高木:そうですね、それはあると思います。アニメによっては同じような感じでいくときもありますからね。なかなかバラエティーに富んでいると思います。

――映画でも新しいチャレンジをしているということですが。

高木:そうですね、はい。どんな変化があるのか楽しみにしていただければ(笑)

――作曲家ご自身でお勧めするおしりたんていの曲はありますか?

高木:メインテーマは聞いてほしいですね。そのメロディーを実はいろんなシーンで使っています。明るいシーンも暗いシーンも、ありとあらゆるところで出てくるので、覚えてもらえると「ああこの曲だな」となってもらえていいかなと思います。最初の打ち合わせで、大人向けドラマを例にとって、『ベン・ケーシー』みたいにと言われたのもあって、ビッグバンド・ジャズをおしています。アニメでビッグバンド・ジャズでやっているのはそんなにないと思います。

オンエア時には喜びも悲しみも……

――高木さんはキャリア20年以上とのことですが、このお仕事のやりがいを感じる時はどういったときでしょうか?

高木:テレビで自分の曲が流れるのは、とても嬉しいですし、特に新しいアニメの1話のときとかすごくドキドキして見ますね。上手くいってるのかなーって。なにかしら自分のなかでうまくいったなと思うときがあると、それはすごく嬉しいですね。

――1話はともかく、その後続いているものはオンエアで初めて見るんですか?

高木:だいたいそうですね、基本的におうちで見ます。

――ある意味劇伴って絵と重なって放映されて初めて完成っていうところがあると思いますが、オンエアを見られたときに、イメージ通りだとか「えっ」ということもあるんでしょうか?

高木:そういうことが常にあります。色々、喜びも悲しみも……(笑)。

――これまで放送された5期までのもので、特にお気に入りのエピソードなどありますか?

高木:たくさんありますよ。2話くらいだと思うんですけど、ブラウンとマルチーズしょちょうが廃墟に入っていって、おしりたんていは狭くて入れないからっていうときに、めちゃくちゃ演出が面白くて、クッキー使ってメッセージを……。あれ最高だなって思いました。あとは、ブラウン物語とかもいい話でしたよね。本を読んだ時から大好きだったんですけど、あれがアニメになるとどうなるかなって思っていたらすごくいい話にまとめていただいて。校歌も作ったんですよ。

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▲名曲「ワンコロけいさつがっこう校歌」が生まれた7話「ププッブラウンものがたり」。涙なしには聴けない曲。

ずっと作曲家になりたいと思っていた

――高木さんは76年、福岡県生まれ。どのようなお子さんでしたか?

高木:えーと、ふつうの…(笑)、どこにでもいるような普通の子です。ピアノは幼稚園から小学校くらいまで習っていました。音楽は好きでしたね。ちっちゃい頃、お家にオルガンがあったんですね。僕は覚えてないですけど、幼稚園くらいのときずっと弾いてて、作曲家になりたいと言っていたらしいです。

――ピアノはご両親が習いなさいと?

高木:いや、僕がやりたいって言ったらしいです。オルガン弾いてて。ピアノ習いたいって言ったんでしょうね、幼稚園から、小学校六年までやってました。ピアノの練習自体は途中から飽きてきちゃって、曲を書いてたんですよ、小学生の時にちょこちょこ。大した曲じゃないですけれど、クラシックピアノをチクチクやるっていうのが途中から飽きてきちゃったのかもしれないです。

――その後、音大に進まれたんでしょうか?

高木:そうですね。ずっと作曲家になりたいと思いながら適当に曲とか書いて過ごしてたんですけど、高校くらいの時に、ふと「なりたいなりたい」って思ってるけど、どうやったらなれるかもよく知らないし、大丈夫かなって思って調べて、入ったっていう感じですね。

――作曲家になりたいって思ったきっかけって何だったのでしょうか?

高木:なんなんでしょうね。もうずっと思っていたので。

――ミュージシャンでなく、作曲家。

高木:そうなんですよ。幼稚園の頃からなりたいって言ってたので、なぜなりたいと思ったかはわからないですね。なるもんだと思ってました。よくわからないけど、大人になったら。

――理想の方がいらっしゃったとか?

高木:たぶん、ちっちゃいころはアニメとか、ジブリとかも大好きだったんで、久石譲さんの音楽とか大好きでしたし。あれはちょうど僕が小学生くらいの時だったんで。あとはゲームも好きで、ファミコンで流れてくる音楽とか大好きだったんですね。ちょうど菅野よう子さんがファミコンの音楽いっぱい書いてる時期で、大好きなゲームの音楽を後から調べるとこれも菅野さんだなってわかったりとか。そんな感じで、自分も作る側になるもんだと思っていました。

これまでの作曲数は1000曲以上

――お仕事されている中で、つらいこともあるかと思うのですが、その中でも大変だなと思われることはありますか?

高木:好きでやっていることなので、基本的にはないんですけど、若いときは1か月で50曲とか作らなきゃいけなかったので、それは大変だったし、もう絶対間に合わないなこれ、みんなどうやってるんだろうって。特に最初の1作目は大変で、すごく派手な1曲を作るのに4、5日かけちゃって、残り25日で49曲。あれ?計算が合わないな?と思って(笑)。でも、それは回を重ねるとペース配分がわかってくるし、嫌とかつらいとかは全然ないですね。

――二十数年間で何曲書かれたんでしょう?

高木:いやあ、ちょっとわからないですけど……1000は超えてると思います。2000ないかもしれないですね。

――大変失礼な質問になってしまうのですが、そんなにたくさんの曲があると、「またこのメロディーつかっちゃった」なんてことがあったりするものなのでしょうか?

高木:あー、それがですね、ないんですよ。20代の頃から、毎年毎年自分の知らない音楽を好きになるんですね。それがないまま40歳になっていたら、同じようなメロディーになると思うんですけど。25の時に好きになったものがあれば、30で好きになったものがあって。今一番好きな音楽と二十代の時に一番好きだったものも違いますし。そういう意味では、自分が大好きなものからしかメロディーは出てこないので、自分が大好きなものが増えていったり変わっていったりすれば、出てくるメロディーは変わってくるんですね。だから、新しいものが自分の中に入ってこなくなったら、ヤバイと思います。今のところ大丈夫です。

――もう一つ失礼な質問なのですが、1000曲以上書かれていて、今それがどこかでぱっとかかっていても、ご自身の曲とわかりますか?

高木:僕らの音楽ってけっこうバラエティー番組とか関係ないところでかかるんですけど、絶対わかりますね。20年前の、テレビであんまりかからなかったような曲がぽんとかかっても、あっ、て思いますね。それが何の曲か思い出すには時間かかったりしますけど、やっぱり覚えてるんでしょうね。

――この先の目標のようなものがあればお伺いしたいです。

高木:劇伴としては、NHKの大河ドラマが大好きなんで、やりたいなあとは思いますね。あれが書けたらいいなっていうのは学生の頃からずっと思っていたので、1つの大きな目標としてはありますね。あとは、35を過ぎてからオペラにはまっちゃって、オペラの勉強ばっかり今してるんですけど。いつかオペラ書けたらいいなあって思うんですけど、それは本当に夢の話で、まだ全然勉強が足りないなと思います。外国語の勉強もしてて、50、60くらいで書けたらいいなあとは思いますけど。まだまだ夢じゃん、みたい感じで、階段も見えてないですし。でも、目標としてはありますね。

――尽きない目標で…すばらしいですね。本日はたくさんの貴重なお話、どうもありがとうございました!

高木:ありがとうございました。

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続きはまた次回をお楽しみに!(インタビュー:尾関友詩(ユークラフト)/構成:長谷川慶多、大村崇(ポプラ社))

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