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【夢中になって絵をかいている感覚を、こどもたちにも味わってもらいたい】驚きの新作を刊行した絵本作家・中垣ゆたかさんインタビュー!!

画面いっぱいに圧倒的な描きこみを施すスタイルで多くのファンを持つ絵本作家・中垣ゆたかさん。そんな中垣さんの新作絵本『人体ジェットコースター』が、ポプラ社より刊行されました。
今回の作品は、これまでとは一味違うタッチに挑戦した、中垣さんにとっての新境地と言えるような絵本となりました。
そのインパクトある表紙や内容に、各方面で驚きの声があがっています。
作品の発想の源や、独特な制作スタイルなど、担当編集者が中垣さんにお話を伺いました!

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【A】人体ジェットコースター本文-1

【B】人体ジェットコースター本文-5

『人体ジェットコースター』内容紹介
家族4人が人間型アトラクション「人体ジェットコースター」にやって来ました! 口から入ったジェットコースターは、超高速でからだのなかをかけめぐります。そして、最後にたどりつくのは……。さあ、さあ、どんな大冒険が待っているのでしょう?! お楽しみに!

中垣ゆたか (なかがき ゆたか)
絵本作家、イラストレーター。1977年福岡県生まれ。東京都町田市在住。2005年からフリーイラストレーターとして活動を始め、その年に音楽雑誌よりデビュー。主な絵本に『ぎょうれつ』、『UFOのつくりかた』、『ひらいてびっくり! のりもの のりもの』(以上、偕成社)、『よーい、ドン!』(ほるぷ出版)、『さがしてみつけて なんじゃこりゃ!まつり』(ひさかたチャイルド)、『にんじゃなんにんじゃ』(赤ちゃんとママ社)、『宇宙オリンピック』(くもん出版)などがある。
https://www.nakagakiyutaka.com/
(聞き手)ポプラ社 齋藤侑太
1985年、茨城県生まれ。2012年、ポプラ社入社。営業職、社内デザイナー、幼児向け書籍の編集を経て、2020年から絵本の編集を中心に担当。『人体ジェットコースター』の担当編集。


🧠人体×絶叫マシン 誕生の瞬間🧠


――やっと本が出来ましたね!

中垣ゆたかさん(以下、中垣) いやあー、出来ましたね! 嬉しいです。

――まず初めにお聞きしたいのですが、人間のからだのなかをジェットコースターでかけめぐる、という突拍子も無いアイデアは、どのように出て来たのでしたっけ?

中垣 齋藤さんと打ち合わせを始めたころ、最近こどもに絵本を読み聞かせする時に、あまりに文が長いと読むのが大変! というような雑談をしていましたよね。笑
その流れで「ざああああ!」とか「びゅーん!!」とか、効果音だけで進んでくような絵本を作りませんか? というアイデアが出たんです。いろいろな案があったけれど、ジェットコースターの絵本で行きましょう! となって。
当初はスケールを大きくして、地球を一周する、みたいなことを思いついたような気がします。

――ジェットコースターで世界中をめぐる、みたいな内容ですね。

中垣 で、そのアイデアの続編として「人体とかも良いですね~」って軽く話して、打ち合わせが終ったんですよね。

――人体をテーマにして本を作るの、すごく面白いけどめちゃくちゃ大変そうですねー、って話してましたね。

中垣 なのに、その後齋藤さんに会った時には、人体にしましょう! となってた。笑

――会社に帰って、編集部の人たちの前でアイデアを話したら、みんな満場一致で「絶対人体のほうでしょ!」って言われて。作るの大変だよなーとか思いながらも、やっぱりインパクトあるよなーと思い直して、覚悟を決めて中垣さんに相談しました。笑

中垣 この本って、縦にページをめくっていくという珍しい形ですけど、当初は普通に横開きで考えてましたよね。幾つか横のパターンでもラフをかきました。

構成案(仮)

▲当初のジェットコースターのコース案。
完成版とけっこう違います。


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▲横開きで検討していた時のラフ。


――絵に合わせて、たまに縦になるページも入れましょう、という感じでしたけど、途中から、読むスピード感を損なわないように、やるなら全部縦にしようとなりましたね。「ごめんなさい! 全部縦にして、やり直しをお願いします!」と結構謝って。

中垣 そうでしたね。打ち合わせが始まったら、いきなり神妙な面持ちで謝られたので、あの時は企画自体がボツになったんじゃないかと、内心ドキドキしました。笑


👀スピード感を追求し、ラフの手法が本番に👄

――スピード感を出すために、いつもの中垣さんの作風よりもラフなタッチでかくことを提案させていただいて。というのも、すでにいただいていたラフの段階の線が、作品にすごく合ってると思ったんですよね。

中垣 なので今回の作品は、ふだん編集者の人にカラーのラフを出すときの手法で作ることにしたんです。
ふだんの制作では鉛筆で下絵をかいてから、それをイラストボードに写して清書して、コピックペン(油性のマーカー)などで色を塗っていきます。
けれど、ラフの時は配色のパターンを探るために、一度鉛筆の下絵をモノクロでコピーして、その上に色を塗って試すというやり方をしていたんです。その方法が、今回は本番になりました。

手順説明

▲①鉛筆による線画
②線画をモノクロデータ化して出力
③その上からコピックペンで着彩


――自分もそのような進め方が初めてだったので、試行錯誤しました。まず印刷所さんにお願いして、いただいた鉛筆の線画をモノクロのデータにしてもらい、それを出力した紙を中垣さんに送って。

中垣 その出力の方法も、こだわりましたよね。

――最初は印刷所さんに、インクジェットプリンターで出力をしてもらったんですけど、なんか違う! となって。

中垣 なんか、コンビニとかでコピーするような、トナーのインクの感じが良かったんですよね。ちょっと黒色が艶っとしている感じが。

――紙も、少し質の良いものに印刷したんですが、もっと安くて雑なコピー用紙のほうが良いです! と言われて、驚きました。笑
それから、今回の本ってページのサイズが大きいから、普通のコピー機だと絵が収まらないんですよね。どうしようと思っていたところ、たまたま社内に1台だけ、A3より一回り大きいサイズが印刷できる機械があって。

中垣 いやー、そのコピー機があって良かったですね。笑

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▲線画の出力テストの様子。
社内にあったコピー機で出したもの(右)と、
インクジェットプリンターで出したもの(左)を、
それぞれ色を塗ってチェックをしました。


🦴人体を洞窟に見立て、想像してえがいた💪


――中垣さんの絵は、密度の高いかきこみが特徴的ですけど、それはどの段階で決めていくんですか?

中垣 ラフの時点では、ここに人がいたほうがいいな、くらいは決まってるんですが、本番の線画をかいていく過程で、細かい動作などがかきこまれていく感じですかね。かき進めていくと、その人が何をやっているかが分かってくる。

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▲ひとりひとりが生き生きと動いていて、
眺めるだけで楽しい!


――このようなかきこみの多さは、中垣さんのサービス精神の現れなんでしょうか? それとも、かきこむこと自体が快感とか?

中垣 いや、不安だからだと思います。笑

――そうなんですか。笑

中垣 たぶん空間を埋めたい、という願望があるのかも。ぽかんと地面が空いてると、誰かいなくて良いのかな? と思ってかいてしまう。空とかだと、物理的に無理なんですが、風船で人を飛ばしたりとかして、なんとか埋めてしまう。笑

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――今回は、人体をテーマにかいてみて、どうでしたか? 苦労などはありましたか?

中垣 医学系のいろんな資料を見たりしたんですけど、今回の本みたいに、小さくなって人体を内側から見た視点の資料って、あんまり無いんですよ。

――確かに!

中垣 本当に見ることは出来ないので、想像しながらかくのが大変でした。でも、人体っぽいものを参考にしたところはあります。例えば、洞穴や鍾乳洞を下から撮っている写真だったりを、からだの器官に見立てたりして。

――なるほど。絵全体に冒険や、探検のようなワクワクする雰囲気があるのは、そのせいかもしれませんね。

中垣 あと、からだのなかって本物に忠実にかいてしまうと、どうしても似たような絵になってしまうのが、難しかったです。赤やピンク色の管を通っているような絵ばかりになるというか。

――今回ページをめくるとしっかり印象が変わるように、配色を考えたり、構図を変えたり、という部分は意識をして作りましたよね。

中垣 色の塗り分けのパターンも、本番の着彩に入る前にいくつも試しました。

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▲それぞれ配色のパターンを考えてもらい、検討をしました。


👃ひとつの作品を、同じ熱量の絵で仕上げたい👂


――前段階で準備をしっかりやっているとは言え、中垣さんって絵をかきあげるスピードが、めちゃくちゃ早いですよね。ふだん、いったいどんなペースで絵をかいてるんですか? ちゃんと寝てるんですか?笑 

中垣 今回の本番に関して言えば、10日間ぐらい、ずーっとかいてました。ご飯以外、ずーっとやってるイメージです。もちろん、ちゃんと寝てますけど。笑

――それは集中力が、10日間途切れない感じですか?

中垣 何と言うか、いつもそうなんですけど、早く終わらせたい感じなんです。

――えっ、それはどういうことですか?

中垣 ひとつの作品を1か月とか、2か月かけてやっていると、途中でテンションが変わってしまう感じが怖いんですよね。かき始めた時と、かき終わり間際の勢いの違いが、絵に表れてしまうような気がして。短期間で一気にぎゅっとかいたほうが、同じ熱量で絵を仕上げられるんです。かき始めと、かき終わりの絵のあいだに統一感が欲しいと言うか。
じっくりかけば? って言われることもあるんですけど、ひとつの仕事にのめりこむタイプなので、途中で他の仕事が入ってくると集中が切れてしまって嫌なんですよね。
ぎりぎり本書きまで、色のパターンなどを練りあげておいて、これでOKとなったら、一気にかきあげたいんですね。

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▲中垣さんの仕事場の様子を写真に撮ってもらいました。



――ちょっとパフォーマンスと通ずる感じもありますね。練習やイメージトレーニングを重ねて、まるでステージ上で一瞬ではじけるような。

中垣 自分にはそのやり方が合ってるような気がしますね。例えば、作品のなかに決まった登場人物を作った場合、時間をかけてかくほど、その人物をかくのが上手くなっちゃうと思うんですが、それが嫌かもしれないです。ようやくかき慣れてきたら終わっちゃう、くらいのほうが良いですね。あまり時間をかけると、人物の顔も変わってしまうんじゃないかな?

――なんだか生き物のようですね。面白いです。中垣さんの作品を見ると、その勢いが絵に表れているような気がします。絵のなかに没頭している感じが伝わってくるというか。そして、いい意味で、ちょっと狂気を感じるところもあります。笑 そこが、中垣さんの作品の魅力になっているのかもしれません。

中垣 そうですね。自分が夢中になって絵をかいている時と同じ感覚を、こどもたちにも追体験するように読んでもらえたら嬉しいですね。

――これまで自分が中垣さんと打ち合わせして、とても印象に残っているのは「これ、こどもの頃の自分だったら絶対大好きだよなー」という言葉で。 

中垣 あー、それは本当にそうだと思います。いつも本を作るときはそうですけど、今回は特に。
一番身近なのに、実は未知であるからだのなかって、自分もこどものころから大好きでした。やっぱりこどもに喜んでもらえることが1番なので。今回、そんな作品になっていると思うので、とても嬉しいです。

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中垣さん、ありがとうございました!
次回作も楽しみにしています!

『人体ジェットコースター』発売中!
作/中垣ゆたか 監修/奈良信雄
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2083078.html

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