見出し画像

『ピン!』ができるまで  担当編集バタバタ日記

10月12日に発売以降、数々のメディアなどでも紹介されている『ピン! あなたの こころの つたえかた』(アニ・カスティロ 作/内田也哉子 訳)はコミニュケーションをテーマにした、かわいくも、奥の深い内容の絵本。
この絵本をひと目見て、「これ好き!」とビビッと一目ぼれした担当編集者が、本が刊行されるまでを、愛用の手帳のメモから振り返り、抜粋してご紹介させていただきます!

★第1章 社内で企画を通すの巻★

企画書0

2019/01/17
久々にピン!とくる絵本に出会った! まさにタイトルも『PING』!!  来年9月にアメリカで発売予定の作品。すごーくいいと思う!      かわいい、そして内容も好き! 
エージェント経由でアメリカの版元から届いたPDF原稿を何度も眺める。帰宅後も、子ども2人に「これいいと思わない? 思うよね??」と半ば強制的に見せびらかしながら、ビール🍺片手に英語を調べつつ読む&飲む。  すごく文章の少ない絵本なのに、英文がスムーズに読めない……。

2019/01/18
早く企画会議に出して、企画承認を得なければ、他社にオファーされて出版権をとられちゃう! いやいや、その前に明日の編集部会議でチームみんなの前で紹介だ!                           大急ぎで中学生以下の英語力で、脳みそをフル回転して荒訳をつくる。

2019/01/19
編集部の会議で昨晩つくった荒訳をみんなの前で読み聞かせ。後輩のTさんより「いい絵本…泣きそうになっちゃいました…!」の声。だよね、嬉しい! でも、他の人の反応はまあまあだったかも?? とりあえず版権とりたい、企画書作らなきゃーーー。新年早々忙しいぞ―――!

2019/02/〇
ブレスト会議(編集部から営業部へのプレゼン):
『PING』の反応イマイチ……。私のプレゼンがヘタすぎたたか? 大人っぽい作品ゆえ、誰に届けたいのかを営業の人たちに上手く伝えられなかったのかも。うーむ……

――翻訳絵本は、一つの作品に対して数社が出版を希望する場合も多く、その場合は競合となる。数社から出版のオファーがあった場合、期限を設けて、各社オファーの条件を出し合うことになる。
だ・か・ら! そのためにも、早く社内の企画会議で承認されなければ、そもそも出版したいと手を上げることもできないのだ。
気持ちは焦るものの、私のプレゼン能力が低すぎて、数度の「企画会議、出し直しの刑」。
……結局社内で企画が承認されて出版オファーできたのは、ここから2か月後の4月になっていた…。

↓荒訳をつけ、とにかく『ピン!』の魅力が伝わる資料を作りました。

資料ピン1

2019/04/27
『PING』の版権とれたっ! ほっとした~~~。けど、ちゃんとたくさんの人に読んでもらえるものにしなければ。訳は誰にお願いするのが良いか? 絵本作家さんや本格的な翻訳家さんより、コピーライター・詩人・俳人など短い言葉をあつかう人にお願いするのがよさそう! 


★第2章 いよいよ…本作り!の巻★

訳をどなたにお願いするのか……悩みに悩んでいるうちに、5か月以上が経過……。(決してサボっていたわけじゃなく、絵本の刊行はまだ先なので、他の仕事をしていたというのもある)
そしてある日、自宅の本棚を眺めていてふと目に留まった1冊の絵本。
「……あ! そうだ…そうじゃないか!! それしかない!!」自分の中で全てがしっくりいった瞬間!

たいせつなこと

2019/09/26
『PING』の訳を内田也哉子さんにお願いすべく、依頼状と思いを込めに込めた手紙を4枚!。内田さんが初めて翻訳を手掛けた絵本『たいせつなこと』(フレーベル館)が大好きなこと、だってその理由が私にはすごく深くあること、内田さんの作詞したEテレ おかあさんといっしょの曲「たいこムーン」が素敵だったことなどなど、どうしてこの絵本を出版したいかなど、想いを込めに込めてお送りする。
でも…気合い入りすぎて手紙、長すぎたか…? 重すぎたのではないか、帰宅後不安になりつつビール🍺を飲む。

2019/10/03
内田也哉子さんご本人からお電話いただき、訳をお引き受けいただける!! わーーーー!!! 嬉しすぎて震える! メールもくださって、文面に「正直、このPINGのイラストのタイプとしてはドンピシャの好みというわけではありませんが、内容のバランスに心惹かれました。(とても可愛いので、ちょっと辛口が好みの私です)」とあったのが、なるほど、納得。本当にそうだなあ。
この時の内田さんの言葉は最後、絵本を仕上げるまで、ずーっと私の中で大切なキーワードになっていた。絵の甘さをきゅっとしめてもらえるような訳がいただけるといいな…。
具体的に打ち合わせがはじまるのは12月ごろからになる予定。
今日は祝杯だあ🍺 

2019/12/13
内田さんとはじめての打ち合わせ。極度の方向音痴のため、予定よりもずいぶん早く会社を出る…が、やはり迷子に。なかなかお約束のご自宅までたどり着けず。しまいにどこをどう歩いているのか皆目わからなくなり、最後はタクシーを見つけて飛び乗る。よかったー間に合った! お土産にと持っていたケーキの紙袋は、さまよううちに、すでにくちゃくちゃ 涙。 でも内田さん、とても気さくに話してくださり、はじめましてという感じがしなかった。同世代というのもあるのかも。あたたかく、でもどこかクールで、とても素敵な雰囲気の内田さん。絵本の話のあと、子育てのことなども少し話したりなど。

2020/02/03
内田さんより、第一稿いただく。大急ぎでご自宅へうかがうと、ダミーにポストイットが貼り付けてあって、そこに訳が書いてある。面白い! こういうやりかた、はじめてだ。 ページをめくりながらポストイットに書かれた訳を私が読み上げる。リズミカルで歌のようなことば……!
「いつもこうやって声に出して読むんですか~」と内田さんも愉快そうで、とっても楽しい時間。ひとつの言葉についてあーでもない、こーでもないと、こねくり回す時間、大好きだ!

画像1

内田さんが訳を書き込んで貼ったポストイット。

画像2

こののち、内田さんとは何度かお電話やメールでお話しながら、原稿を詰めていった。そんな中……もう少しで訳が固まりそう、もう一度お会いして最後の細かな仕上げを…と思っていた矢先に、コロナウイルスの流行による「緊急事態宣言」。


2020/04/20
ああ、内田さんにお会いできなくなってしまった……。
ホントだったらお会いして相談したい細かな原稿のニュアンス…。会って話せば、きっと話は早い。でも、それもメールと電話のやりとり。仕方がない。でもどうしても「いつもだったら」とか「お会いできたら」とか思ってしまう。
あ、でも、これってこの絵本のテーマ、「コミニュケーションのとりかた」について改めて考えさせられてるってことかもしれない。
絵本のタイトルを『ピン! あなたの こころの つたえかた』に。

2020/07/16
表紙・カバーのデザイン案がデザイナーさんよりあがる。見て、驚き! 
原書のデザインとは違って、キャラクターの顔が超アップ! 考えもしなかったけど……このカバー、インパクトがあってすごく良いと思う……!!

比較

左:デザイナーさんからのカバーデザイン。 右:原書の表紙デザイン

その後、デザインについてもあれこれ悩みつつ、悩みすぎて、デザイナーさんに多大なご苦労をおかけしながらようやく本全体の「カタチ」が整い、印刷所へ入稿。あとは、校正紙の色・原稿の確認をきちんとすれば……もう少しで、本ができあがる!!

画像3ピン

本ができるまでに作った手作りのダミーや色校正、そのほかモロモロの原稿。実際はこの倍の量になってしまった……汗

…と、入稿作業へ一気に……と思っていたのですが。。。

2020/09/12
内田さんからメール。

校正をご覧になって、原稿に「ピン!」となっているところと「ピンッ!」となっているところがあるのが気になってしまって……とのこと。   「ピン」と「ピンッ!」で、受ける印象、意味がどう変わってくるか……?
おおぉ、これは作品全体に関わることではないか! 短い言葉だからこそ、1つ1つの文字の持つ意味や音が重要になってくる。校了間際ではあるけれど、ものすごく大切なこと。ここはいったん立ち止まってゆっくり考えよう。納得のいくまで……。
なんども電話とメールをやりとりしながら、最終的に納得のいく着地に。 ああ……良かった! この作業は、本にとって、すごく必要だった……!


★第3章 本ができた!の巻★

画像10

2020/10/05
ついについに、見本が届いたー!!! 20年以上この仕事をしていてなお、出来上がった本の見本が届く日は吐きそうなくらい緊張する。おそるおそるページをめくって……ちゃんとできてるよね?? 大丈夫だよね?? と遠目で眺める(怖くてじっとは見られない)。
原書に出会って一目ぼれしてから1年半以上経ち、ようやく本ができた………!!
さっそく内田さんへご連絡、送付、エージェントを通して作者のアニさんへ送付、社内の人たちへ渡して……ああ、ここからやることはまだまだたくさんある! これからはこの絵本を一人でも多くの人に読んでもらいたい!

『ピン!』の物語はまだまだここがスタートです!
これから、たくさんの人の手に届いて、たくさんの本棚で大切にされて……折に触れては取り出されてページをめくってもらえる…いつでもそばにいてくれる、そんな1冊になってくれたら……と願って、私は今日も明日も明後日も、この絵本の素敵さを、会う人ごとに語っていきたい……と思っています! 
え、重いですか…!!??

画像4

製本所から届いた、できたてほやほやの本! ああ、緊張してページをめくる手が震える……!

★番外編 刊行後あれこれ★

10月12日の配本以降、おかげさまでさまざまな媒体でこの絵本を取り上げていただきました! 写真は朝日新聞「好書好日」の取材を受けている内田也哉子さん。この日は、他にも日本テレビ「スッキリ」の収録もあり、内田さんにはこの絵本の魅力をたっぷり語っていただきました! 

画像5

『ピン!』は、1冊の絵本です。

だれかに読んでもらえなければ、絵本は何の役にも立ちません。     でも、そんなただの絵本も、だれかが手に取ってくださった瞬間に変わります。もしかしたら、そのだれかの人生を支える、何にも代えがたい生涯大切な絵本になる可能性だって秘めているかもしれません。

『ピン! あなたたの こころの つたえかた』が、だれかの大切な1冊になってくれますように……。

さて、ひと息ついて、美味しいビール🍺をいただいて良いでしょうか?

(文:ポプラ社編集部 仲地ゆい)