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アニメおしりたんていは画面の構成が難しい!? ~キャラクターデザイン・原画ができるまで~

『アニメおしりたんてい』制作の舞台裏に潜入する本連載。全7回の連載を振り返るだけでも、「声優」(第1回第2回)、「プロデューサー」(第3回)「シリーズディレクター」(第4回)「脚本シリーズ構成」(第5回)「劇伴制作」=アニメの音楽を作る作曲家(第6回)、とアニメーションは本当にたくさんの方が役割分担して作られていることが改めてわかります。さて、そんな最終回はアニメおしりたんていのキャラクターデザイン・総作画監督を担当する真庭秀明さんにお話を伺いました。今回も裏話がいっぱいです。最後までたっぷりお楽しみください!

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真庭秀明
1968年生まれ 埼玉県出身。 動画工房でアニメーター経験を積んだ後フリーとなり、東映アニメーションの『ワンピース』で原画や作画監督を務めた後、ボンズの『エウレカセブン』作画監督。その後東映アニメーションで『神様家族』『ラブコン』『ブッダ』などでキャラクターデザインと総作画監督。3DCGを学ぶため東映アニメーションデジタル映像部で『ワンピース 麦わらチェイス』や『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』など多数のプロジェクトに参加。『正解するカド』でキャラクターデザインを務める傍らデジタル作画を始める。現在『おしりたんてい』でキャラクターデザイン。

「原作の絵の良さを損ないたくない」

——アニメーション制作において、キャラクターデザインや作画監督の役割を教えてください。

真庭:原画マンとよばれるアニメーターが”原画”というものを描くんですけど、その原画をたくさんの原画マンが分担して描いているんですね。その絵柄が描いた人によってちょっとずつ違っていくので、それを統一する役目があるのと、あとは原画マンから上がってきた原画が演出さんの欲しがっているものになっているかどうか確認する役目があります。もし合っていなかった場合は、原画マンさんに直してもらうこともありますし、そんなに直してもらうほどでもないときは作画監督の方で直したりします。あと、原画マンさんが経験の浅い新人だったりして、直しをお願いしたけれどうまく直ってこなかったというときは作画監督が直したりします。最終的に作画を統一させることを目標にして、そのためにできることはいろんなことをやります。

——おしりたんていの原作の絵をアニメの絵にデザインするときに注意したことはありますか?

真庭:一番注意したのは、原作そのままの絵にしたい、原作の絵の良さを損ないたくない、ということです。ただ、アニメは動いてしまうので、振り向いたときに不都合が生じないか、などというところを注意しながらデザインします。

——ご苦労はありましたか?

真庭:最初はアオリとかも、言い方が変だけど、怖かったというか(笑)。アオリをどういう風に描けばいいのかがわからなくて。ただ、原作の絵の方でおしりたんていのアオリがいろいろな角度で出てきていたので、こう描けばいいんだ、などと拾ってきたりして。だんだん絵に慣れていって怖さもなくなっていったという感じですね。

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▲見上げるようなアングルで描く「アオリ」。下から見たおしりたんていは圧巻!

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▲真庭さんがおっしゃった「アオリ」で見たおしりたんて原作バージョンはどのシーンか…。4巻「かいとうVSたんてい」はグーっと煽られた、かっこいいおしりたんてい。

——おしりたんていのキャラクターの性質上、遠近感がうまくあらわせないなどもあると思いますが、どうされているんでしょうか?

真庭:例えば、おしりたんていが帽子を取るときにどうしても手が届かないので、そこは演出さんとも相談のうえで、多少腕を長く描いたりとか、長く描きつつ頭の位置をずらすとか、あまり印象が変わらないように気を付けています。カット割りで見せてもらうほうが作画的には都合がいいんですけど、必ずしもそうはいかないので。

——おしりたんていは表情の多いキャラクターではないと思いますが、そういった点での苦労したことなどはありますか?

真庭:最初はやりづらいと感じるときもありましたけど、原作を読んでいくうちに表情を変えないほうがおしりたんていらしいんだなということがわかって。表情を変えないクールなおしりたんていなんだけど、変な顔になるじゃないですか。そういうところが何とも言えないおかしさがあって。ここは大事にすべきだなあって描いてます。

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▲普段はクールなおしりたんていだが、ときにはあんな顔もこんな顔も……。

アニメオリジナルのキャラクター

——原作に出てこないアニメオリジナルのキャラクターはどういった形でデザインなどするのでしょうか?

真庭:まず、監督の方からイメージ画が出ることがあるので、そのときは監督のイメージに寄せて、それをヒントに描いています。監督からなにもないときは、どう描いてるか自分でもよくわかってないです(笑)。トロル先生ならどう描くかなっていうのを想像しながら描きますかね。

——どういう動物と掛け合わせたり、でしょうか?

真庭:そうですね。それはありますね。そういうヒントがあれば、そこから進めていくことがあります。あとは、実在のモデルがいるほうが、面白いというか、納得のいくものができますね。

——視聴者や周りの方から特に人気のキャラクターはいますか?

真庭:すずは人気ですよね。オリジナルキャラクターだと、ネコ船長とか。最近、かいとうBとか人間っぽいキャラが出てきているので、どうなんでしょうね、その評判がまだわからないですけど、面白くなってきたなあって。

——ワンターポールのタレミミそうさかんも人気のようです。

真庭:おしりたんていのキャラクターデザインをするとき、首を見せないように気をつけていたんですが、タレミミそうさかんはちょっと冒険して首を見せるキャラにしてみたんですね。それでも意外と通ったので、デザインの幅が広がるきっかけとなったキャラクターでしたね。

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▲ワンターポールのタレミミそうさかんは、スマートで渋めなキャラクターデザインに。(第18話「ププッ かいとうUのだいさくせん」)

——キャラクターの色はどう決めていますか?

真庭:色は考えないというか、ここは塗分けがあるという程度で、ぼんやりとしたイメージを想像しながら描きます。色を決めるのは色彩設計の方なので。色が出来上がった後、色チェックっていうのがあって、一回見せてもらうんです。そのときは監督や背景さんなどいろんな人が見るんですけど、そのなかで意見を出し合います。キャラクターデザインとして自分が想像していたものは背景美術と重なっているものではないので、背景と合わせて色をチェックしたときにやっぱりこっちがいいなと思ったりします。

スタッフが楽しんでやってくれるといろんなアイデアが出てくる

——おしりたんていならではの難しさや工夫はありますか?

真庭:画面の構成を作るのが難しいなと思いますね。普通の頭身ではないので。例えばテーブルの高さにしても、ふつうの人間の頭身を想定して描くと高すぎちゃったりするので、できるだけ低い世界にしておかなければいかなかったり。それから頭の面積が大きいから、画面の中に首の部分までしか収まらないことが多い。キャラクターを画面上にバランスよく収めるのに他の作品を参考にすることがありますが、おしりたんていの場合は頭のバランスが大きいので、他の作品ではあまり参考になりませんね(笑)。そういう難しさがありました。

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▲画面構造に注目して見ると、テーブルやソファの高さはかなり低く設計されていることがわかる。

——おしりたんていに限らず、この仕事をされていて一番やりがいを感じるのはどのようなときですか?

真庭:人気が出てきたときです。「あの作品見ました」「面白かったです」と言ってもらえるのが一番やりがいを感じて、やってよかったなあと思います。やるときは苦しいんですけど。おしりたんていの場合、もちろん読者の人気もあるんですけど、スタッフの中でも楽しんでやってくれていて。楽しんでやってくれるといろんなアイデアが出てくるので、すごく活性化して面白いです。

——おしりたんていで個人的に好きなお話はありますか?

真庭:劇場版のカレーなるじけんかなあ……。テレビ版では、オオガミ城の回、面白かったですよね。ニセかいとうUが出てくる回で、ニセウルトラマンみたいで(笑)。やはり王道は好きですね。あとは、ブラウンがどんどん太っちゃうやつも好きです。

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▲ニセかいとうUの回では、おしりたんていとかいとうUが協力するレアなシーンも。(第38話・39話「ププッ かいとうUたいかいとうU!?」)

背景への興味からアニメーターに

——真庭さんは小さい頃どんなお子さんでしたか?

真庭:引っ込み思案でした。絵は描いていました。でも、そんなに描いていたというほど描いてないです。絵を本格的に描きだしたのは高校生くらいになってからですね。

——漫画ではなかったのでしょうか。

真庭:漫画ではなく、ふつうに美術部で描き始めました。もともとアニメの背景を描きたかったんですよね。アニメを教えてくれる学校にいたときに、背景学科があって、アニメーター学科もあったんですけど、背景学科に行くと背景しか教えてもらえなくて、アニメーター学科にいくととりあえず全般的なことを教えてもらえるので、アニメーター学科で全般的なことを教わってから入ろうと思っていたんですね。そうしたら、ずるずるとアニメーターを始めてしまって。

——あの作品の背景が良い、などきっかけの作品があったのでしょうか?

真庭:やっぱり『天空の城ラピュタ』とか、山本二三さんとかの背景が素晴らしくて。ああいうのを描きたいなあと思いました。

——他のお仕事はせずにアニメ業界に入りたいと思っていたのでしょうか?

真庭:そうですね。あまり他の仕事は……とりあえず10年やってみて、ダメだったら考えようと思っていました。あまりちゃんと考えていませんでした(笑)。

——業界に入られてからは背景については担当されたのでしょうか?

真庭:ノータッチでしたが、数年前に初めて美術監督のようなものをやらせてもらって。『プリキュア』のCGの短編作品で、夢がかなって背景を描かせていただきました。

デジタル作画への移行

——真庭さんは作業が完全にデジタルということですが、鉛筆で描いていたころと何か変わりますか?

真庭:作業自体はそんなに変わらないんですけど、消しゴムのカスが出ないとか、紙を切ったり貼ったりしないとか、効率的には上がっています。個人的には紙でやっていたときよりも描きやすいと思います。

——移行というのは問題なくできるものなのでしょうか?

真庭:するっと移行できました。というのも、もともと紙でアニメーターとして作監をして、総作画監督もやって、映画で作監もやってというのが終わった後、ちょっと新しいことがやりたくて、いったん3Dの仕事をやったんですね。それがデジタル映像部という部署でやっていたんですけど、3Dからの流れでデジタル作業を始めるということになって。そうしたらそれがだんだん広まって、色々な人がデジタル作画をやりたがっていることを知って。じゃあ、デジタル作画のフローを作って、全部できるかやってみようと。

——今、周りのアニメ制作の現場というのは、デジタルからアナログへと移行していたりするのでしょうか?

真庭:どうですかね。はっきりしたことはわからないですけど、アナログがまだ多いことは多いと思います。ただ、数年前と比べるとデジタルは増えてきてるんじゃないかなあと思っています。若い子はデジタルで描く人が多くなっていて。やはりデジタル化が進まなかったのは、演出・作監の人が紙でチェックをやっていて、どうしても紙でないとできないというのがネックになっていたんですけど、最近は若い子でデジタルを使う人が増えてきた。そうすると、だんだん作監や演出もデジタルを覚えてみようという気になってくる。数年前まで、デジタルで作画するというと抵抗感を示す人が多かったんですけど、最近はやってみたいという人が増えてきています。チェックと修正作業も、プリントアウトせずにモニターだけで完結します。

——ありがとうございます。とても面白いお話をお伺いできました!

真庭:ありがとうございました。

おしりたんていのアニメの裏側をお伝えしてきた全7回の連載はいかがでしたでしょうか。連載を通して「おしりたんてい」や、アニメの制作現場に興味を持っていただければ嬉しいです。ぜひ、「アニメおしりたんてい」も機会があれば見ていただければ幸いです。 (インタビュー:尾関友詩(ユークラフト)/構成:長谷川慶多、大村崇(ポプラ社))

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