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第四回・アニメおしりたんていの舞台裏をのぞいてみました~シリーズディレクター編~

『アニメおしりたんてい』制作の舞台裏に潜入する本連載。第四回は引き続き東映アニメーションからシリーズディレクターのお二人、芝田さん・佐藤さんにお話を伺いました。どうぞお楽しみください!

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芝田浩樹 
1960年生まれ 石川県出身。1981年東映動画(現 東映アニメーション)第一期研修生として入社。TVシリーズ『Dr.スランプアラレちゃん』演出助手を経て演出に。TVシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎第3期』シリーズディレクター補佐。TVシリーズ『ひみつのアッコちゃん(第2期、第3期)』、『かりあげクン』、『ゲッターロボ號』、『ボボボーボ・ボーボボ』シリーズディレクター。映画『Dr.スランプアラレちゃん ナナバ城の秘宝』、『ゲゲゲの鬼太郎 激突!!異次元妖怪の大反乱』、『ひみつのアッコちゃん』、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 起ちあがれ!!アバンの使徒』、『セーラームーンSかぐや姫の恋人』、『セーラームーンSuperS セーラー9戦士集結! ブラックドリームホールの奇跡』監督。『おしりたんてい』第1期~第4期シリーズディレクター。『映画おしりたんてい てんとうむしいせきのなぞ』監督。

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佐藤雅教
2008年東映アニメーション入社。『金田一少年の事件簿R』『ドラゴンボール超』『おしりたんてい』などの作品の演出を担当。
2020年より『おしりたんてい』シリーズディレクター

――今回は東映アニメーションのシリーズディレクターお二人にお話を伺っていきます。早速ですが、アニメーション制作におけるシリーズディレクター・監督の役割というものを教えてください。

芝田:アニメ制作は、シナリオを作るところからスタートします。面白いシナリオを作るため、原作出版社のプロデューサーのさん、テレビ局のプロデューサーさん、製作会社(東映アニメーション)のプロデューサーそしてシリーズ構成さん、シナリオライターさんとシリーズディレクターで話を練っていきます。そこで、どういう話にしようかというのを打ち合わせして、ライターさんに上げていただいて、それをみんなで読み合わせします。シナリオを『たたく』というんですけど、いろいろ、どこが駄目だとか、こうしたほうが面白いんじゃないか、みたいな話をして決定稿に持っていくという流れになります。

――原作があるなしに関わらず、そのシナリオ作りには一から深く関わられるということですか?

芝田:そうですね。原作がある場合はもう話はできているので、どういう味付けしていくかという話になるんですけど、アニメオリジナルのときはゼロから、シリーズ構成さんが大まかな構成を考えてくれて、それをどういうふうに発展させようかみたいな話をみんなでしますね。

佐藤:1クールの13話でバランスを見て、冒険ものだとか、ちょっと怖い話を入れようとか、順番はこうしようかとか、そういったことを最初に組み立てて、1本ずつライターさんに発注して書いてもらいます。

芝田:キャラクターに関しても、かいとうUやおしりダンディを1クールの中で1回は出しましょう、みたいなことを相談します。

――最新のシリーズ(2021年4月から放送の第5期)では見どころはなんでしょう? もちろん一話一話は面白いとは思うんですけれども、このシリーズのポイントなどありますか。

佐藤:このシリーズから、脇役のキャラクターたちもスポットを当てていこうというのがありますね。ワンコロ警察署の刑事たちとか町の人々が主役になるような話が入ってきましたね。

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▲第63話「ププッかがやきのとうのまちあわせ」では、ワンコロけいさつしょの巡査のふたりの恋?模様も。

――さて、話を少し戻しまして、シナリオが上がったその後は?

芝田:シナリオが決定稿になったら、次に絵コンテに入るにあたって、世界観、美術設定とキャラクター設定をきめます。原作がある場合はそれを基に描けるんですが、アニメオリジナルの場合はまず美術監督さんとキャラクターデザイナーさんとで『こんなキャラにしたい』、『こんな建物にしたい』っていう打ち合わせをします。ラフが上がってきたらシリーズディレクターがチェックして、また、ここをもうちょっとこうしたいみたいなことをお願いして決定稿にします。

――お話ができて、どういう絵にするかっていう素材ができて、そこから絵コンテを描き始めるっていうことですね。

芝田:はい。そのときもシリーズディレクターからこういうふうにまとめてほしいみたいな話を各話演出担当にします。演出には絵コンテ担当と、『後処理』といって、原画チェック以降を担当する演出が分かれる場合もあります。

――『演出』とは、どういうお仕事ですか? 絵コンテに、『ペンを置く』みたいなことが書いてあって、どんなふうに置くのか、演技を指導をするのが演出ですか?


芝田:細かくコンテに演技内容を書く人もいれば、大ざっぱに、『置く』っていうのを絵で描いておいて、打ち合わせのときに、『これ、ちょっとこうやって置いて』みたいなことをアニメーターさんに説明してメモしてもらってという場合もありますね。
各話の演出がコンテを上げたら、シリーズディレクターがこのシリーズに合ったように描いてあるかというチェックをして、ちょっと表現が『おしりたんてい』っぽくないな…みたいなことがあったら直しをお願いして、またチェックして。OKになったら、各話の演出がアニメーターさんと打ち合わせをします。


――守るべき『おしりたんてい』の世界観っていうの、言葉にするとどういうことですか。

芝田:表現が他の作品と似ないように…たとえば他のギャグアニメで、『漫符(まんぷ)』っていって、キャラがワーッて騒いでるときに上に棒が出たりとか、困ったときとかに背中向きででっかい汗がびろーんって出たりとか、いわゆるマンガの記号的なものがあるんですけど、それやると『おしりたんてい』の原作の世界観からずれてくような気がしたので、立ち上げのときには、各演出とかアニメーターの人には、ゼロではないけれども、なるべくやめてほしいというのを言いました。

――つい、やっちゃいそうですよね。

芝田:そう、つい、習慣で描いちゃうんですよ。それやり過ぎると、他の作品との差別化ができないし、原作の感じからずれていっちゃいます。あとは情報量、なるべくミニマムというか、詰め込まないというか、シンプルに作って面白くなるような方向性を目指したいなと思ってやってましたね。
小さい子どもがターゲットの作品なので、子どもを置いてきぼりにしないように。あと、もちろん、子ども向け番組は『おしりたんてい』に限らずですが、残酷な描写とかはやらないようにするとかですかね。

――シリーズに関わられて、特に思い出深い話数を教えてください。

芝田:第10話の『ププッ コアラちゃんだいかつやく』ですね。あれがオリジナルの1本目だったので、シリーズディレクターを当時やってた僕がちゃんと方向性を示さなきゃと自分で演出も担当したんですけど、そのときに世界観を壊さないようにっていうことですごい気を遣いました。

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▲第10話「ププッ コアラちゃんだいかつやく」。ブラウンと好対照のしっかりもの・コアラちゃんとブラウンの絡みに注目。

――オリジナルの1本目でコアラちゃんを主役に据えたっていうのは、どなたのアイデアだったんですか?

芝田:シリーズ構成の高橋ナツコさんから、こういうお話はどうだろうって提案していただいたのをみんなで膨らませました。コアラちゃんが、本の中でもインパクトが強いキャラだったし、ブラウンと絡ませるとかわいらしい、いいお話ができるんじゃないかって。

――ブラウンとのセット感っていうのがここで出て、以後、引き継がれていますよね。

芝田:そうですね。先生(※原作者のトロルさん)の中でも、そういう感じだったので。先生に、世界観のことをこちらから聞かせていただいて、そのときにメモっておいて、それを膨らませていきました。

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▲第22・23話「ププッ みはらしそうのかいじけん」は原作本のときから、コアラちゃんが活躍していた。

――佐藤さんの思い出の1本、お聞かせください。

佐藤:31話『ププッ おしりたんていがふたりいる』ですね。

芝田:みんなその話数を言ってる(笑)

佐藤:周りからの評判が良いんですよ。自分としては、ちょっと悩んだ話でもあったんです。リリィっていう女の子とブラウンが仲良くなって、最後、お別れする話で。ちょっとしんみり系で青春ものっぽく。『おしりたんてい』とは、普段の話とは結構違う話で、ここまでやっていいのかなとはちょっと悩みながら作ったような話でした。

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▲製作陣にファンの多い第30・31話「ププッおしりたんていがふたりいる」。アニメオリジナルキャラ「リリィ」とブラウンに注目。

――いろんなアニメーションに関わられてて、中でもその『おしりたんてい』の制作全般においての難しさや苦労点や工夫があったら教えてください。

佐藤:クイズカットは難しいですね。問題を考えるのも難しいですし、細かくし過ぎちゃうと見ている子どもたちが分からないし、尺のとりかたも難しい。

芝田:NEPさん(※NHKエンタープライズ)のリアクションで、これはちょっと難しいのかなとか、簡単なのかなっていうのを参考にしますね。ずっとEテレに関わってこられた方たちなので、その人たちから見てこれはちょっと難し過ぎるとか、簡単過ぎるとか、こう表現しないとクイズとして解けないだろうとか、意見をちゃんと聞いています。

――このお仕事のやりがいを感じるときってどんなときでしょう?

芝田:職場の人とか知人で、ちょうど『おしりたんてい』を見ている年齢のお子さんがいる人から、『毎週見て、楽しみにしてるんですよ、面白いですよね』とか聞かせてもらうと、よし、頑張ろうっていう感じがありますね。

佐藤:作ってるときですかね。作りながら、遊べるところがあるというか、おしりたんていの頬の揺らし方とか、必殺技を食らったときのキャラの顔の崩し方だとか、作る側でも楽しんでやれるところがありますね。

芝田:アニメオリジナルの難しさの話にも共通すると思うんですけど、必殺技のシーンは、いつもライターさんとかプロデューサーと悩んでるところですね。ストーリーとかシチュエーションに合っていて、そして、今まで出してないやり方で見せるっていうのは。
だから、うまくいくとすごく気持ち良いですね。
最初は同じ演出でもいいかなとか思ってたんですけど、先生のほうに伺うと、『これ、前と似てないですか』みたいなことを言われて、ああ、シナリオちょっと直そう、となりましたね。

佐藤:原作でも毎回バリエーションを変えてきてますからね。

――だんだん大変になるじゃないですか。毎回あそこをピークに持っていってるわけですよね。

芝田:そうですね。でも子どもたちはあそこを楽しみにしてくれていると思うので、こちらも『そうきたか』って思ってもらって、笑ってほしいっていうのがありますね。

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▲必殺技の名シーン。原作でも描かれた、雪のかまくらの中での「しつれい」。(第41話「ププッゆきやまのしろいかいぶつ」)

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▲アニメオリジナルの必殺技の工夫が凝らされた名シーンは第49話「ププッゴリかわへんしゅうちょうのじけんぼ」から、ホームラン級の「しつれい」。

――ちなみに、劇画調イラストについて伺ってもいいですか?

芝田:原作の本を参考にして、特殊効果さんが劇画調にしてくれてるんです。昔でいうエアブラシの人ですね。新しいオリジナルの話がいっても、ちゃんとそれに合わせて質感を出してくれるプロフェッショナルです。すごい時間がかかるので、枚数多いと、多過ぎるよって怒られるときがありますね。

――さて話を変えて、『おしりたんてい』視聴者世代だった頃、どんなお子さんでしたか。

佐藤:めちゃくちゃおとなしくて、引っ込み思案の子でした。友達が知らない子と遊んでたら、そこに入っていけないぐらいの。その頃は『アンパンマン』とかは好きだった気がします。

――佐藤さんはお生まれは何年でしたっけ?

佐藤:1984年です。静岡ですね。

芝田:スタッフにその年齢位の人、多いですよね。

――いつ頃、アニメ業界に入ろうと思ったんですか?

佐藤:中学生のときですね。細田守さんが監督をやってた『デジモンアドベンチャー』の映画を見て。その後、アニメ雑誌を見て、細かい演出の話だとかいろいろ載ってて、みんないろいろ考えて話を作ってるんだな、やってみたいなと思いました。

――演出希望で?

佐藤:はい。

――絵が描けるからアニメ作りたいっていう人が多いと思うんですけど、めずらしいパターンなんでしょうか?

佐藤:絵は全然描けなかったですね。もう、最初から『デジモン』をやってた東映アニメーションを目指して、東映アニメーション研究所っていう、学校みたいな所に大学を卒業してから入りました。

芝田:僕も講師やってて、彼の実習制作を見たりしてたんですよ。

佐藤:そう。そのときは先生と呼んで、ずっと教えてもらってた。

――演出希望でこの業界に入って来られる方っていうのは常にいらっしゃるものなんですか、たくさん。

芝田:いっぱいいるよね。

佐藤 そうですね。

芝田:最近の傾向で、細田君(※細田守監督)とか、アニメーター出身の演出が増えたせいなのか、アニメーターをスタートにして、慣れてきたら演出に移ろうっていう人が出てくるようになりましたね。

佐藤:最初から演出で入ってくる人も、基本、美大とか出てるような、めちゃくちゃ絵がうまいような人たちが最近、多いような気がしますね。僕みたいな、絵が描けないみたいな人はもうほとんどいないみたいな感じ。

芝田:だんだんみんな絵がうまくなってきてるよね。

――芝田監督はもともとはアニメでなく、実写のほうを目指されていたとか。

芝田:そうですね。実写の勉強する学校に行きました。入ろうと思ったきっかけは、中学生のときに『ポセイドン・アドベンチャー』という映画を見て、すげえと思って、そこから映画マニアになりまして。高校のときに、フランソワ・トリュフォーの映画で、『映画に愛をこめて アメリカの夜』っていう映画を作ってる現場の話を見て、ああ、映画業界楽しそう、もう絶対、映画業界目指そうと思って、横浜にあった専門学校に入って、そこで勉強しました。テレビアニメがいろいろ作られるようになった時代に育ち記憶があるかないかぐらい小さいときに『鉄腕アトム』が始まって、ずっとアニメが盛り上がってくる時期を経験してきてたので、アニメも面白いなと思っていました。
 専門学校のときに『カリオストロの城』とかを見て、アニメっていろんな面白い表現ができるんだと思っていたら、『キネマ旬報』に、東映動画演出助手募集広告が載っていて、受けてみたらなぜか受かりました。

――以来、ずっとこの世界にいらっしゃるっていうことですよね。

芝田:そうなんですよ。

――おふたりとも、入りたくてこの世界にいらっしゃるっていうのはすごいですね

芝田:そういえば、小さいころの話をしわすれたんですが、ぼくは佐藤君と逆で、いつも目立とうとしてて、小学生のときから周りにしょうもない駄じゃれを言ってました。それで何か注目を浴びたいみたいな。あんまり受けてたような記憶はないんだけど、やたら先生の邪魔をして、隣にいる子に駄じゃれを言ってた(笑)。

谷上:リアルパーマネントですね(笑)。

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▲芝田監督がアイデアをひねる、パーマネント刑事のだじゃれ。第25話「ププッ うたがわれたけいじ」では、だじゃれ大辞典を執筆したことも。

――パーマネントの駄じゃれっていうのは、基本的には脚本の方が考えている?

芝田:協力しながらです。もともと原作本にもあったんですけど、アニメでオリジナルを作るときにはライターさんが考えて、いや、でもこうしたほうがいいんじゃないのみたいな話をみんなでして…。

谷上:いつも『こっちの駄じゃれのほうが面白いよ』と芝田さんが提案してくれます。

芝田:なんかね、おやじになると、もう、恥ずかしいとかっていうあれがなくて、つい口に出ちゃうっていうのもあるので。もうなんでもかんでも言っちゃったら、あっ、それ、いいですねみたいな話になって…(笑)。

――では、新シリーズの駄じゃれにも期待しております!

一同 ありがとうございました。

続きはまた次回をお楽しみに!(インタビュー:尾関友詩(ユークラフト)/構成:長谷川慶多(ポプラ社))

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