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大阪Wホテルと年収1千万の女

本日の主人公
Age:42
Job:証券会社勤務

大人のラブホなんて皮肉な言い方をされる「W 大阪」は、そう呼ばれるのが納得いくような電球の数で、キラキラではなく、ギラギラっていうのが相応しい。

2021年3月の開業からずっと行きたくて、彼に誘われたときには、子どものように飛び跳ねて喜んだ。

御堂筋に面した黒い入口を入ると、黄色とオレンジの光のトンネルが約10メートル。「写真撮らなきゃ!」と後ろを見ると、彼が私の後ろ姿を撮ってくれていた。

再度2.3歩進み「上手に撮ってよっ」と振り返る。携帯越しに私を見る彼も楽しそうだから、私もよりご機嫌になった。

トンネルを抜けると案内係に声をかけれ、フロントは3階のW階とのこと。W階はこれでもかって位に人がいて、ピンクの電飾がギラつくクリスマスツリーの横でチェックインする彼を待つ。

高級ホテルのチェックインには似合わないDJブースから、重低音が鳴り響く。パリピなる人たちが今にもシャンパンで乾杯しそうな雰囲気と、毛皮でも着ている女の人からしそうなキツめの香水のような香りに酔いそうになりながら、カラフルなロビーを写真に収めた。

同じ価格帯のホテルと比較すると、年齢層が低い。30代であろう男女のブランドロゴの服や靴が目に入るものの、今日は我々だって…!なんて思うのだった。

なんせ今日のお部屋は、スイートルーム。暗いエレベーターが、部屋までの時間をさらにドキドキさせ「すごいね」と顔を見合わせた。

「ゆうくん、本当にありがとう!天才!」
「やろ? もっと褒めて?」

頭をくしゃくしゃになるまで両手で撫でようとしたら、「今日ワックスつけたんだから、絶対いつものやっちゃダメよ?」と諭された。

お部屋は80平米、角のマーベラスキングスイート。ラブホテルを思わせる暗さの廊下を抜け鍵を開けると、自動でカーテンが開いていく。

「わー、ゆうくん。すごい!カーテン自動すごい、すごい!」

ダイワロイネットホテルの目の前でその看板が目に入るものの、景色も抜群。天気でよかった。

「カーテンが自動だと、高級な感じするね」。

そう言いながら荷物を片付ける彼の横で、荷物なんてそっちのけでお部屋を散策を続ける。

リビングを抜けると寝室につながる造りで、角をを含む壁は2面全面が窓張り。

17階と比較的低層階ではあるものの、周りのビルはすべて見下ろすことができたし、あべのハルカス越しに、遠くの山まで見渡せる。

トイレがふたつ。洗面台がふたつ。ウォークイン・クローゼットには、黒いフワフワのガウンが並ぶ。クラシカルなホテルとくらべると、色使いや小物に原色が多く、どことなく色っぽい。

「確かに、ちょっとエッチっぽいかもっ」

と、私の荷物も一緒に収める彼に戯れ、ようやくソファに掛けた。

彼の猫っ毛に触れないのが残念だから、お風呂から上がったらいっぱい撫でなきゃ。

彼の横顔越しに、また絶景を眺める。
ああ、今、わたし幸せだ。

翌朝は、夜はしゃぎ過ぎたせいで寝るのが遅くなったにも関わらず、7時前には目が覚めた。

腕枕から見る景色はまだ少し暗かったし、後ろから寝息が聞こえたから、再度目を閉じた。

ずっとこのまま、彼の腕の中で寝ていたいと思うものの、朝食後にはお互い仕事が待っている。さすがスイート。休日前と平日前では、値段が全然違うらしい。

「土曜に普通のお部屋に泊まるのと、日曜にスイートどっちがいい?」という彼の質問に、間髪入れずスイートと答えたのだから仕方ない。

宝石のように並べられたビュッフェに目を輝かせ、ブレットの上に乗ったエッグベネディクトを食べ終えると、私たちは日常に戻っていく。

「おかえりー」
「ただいまー」

どんなにいいホテルに泊まっても、やっぱり家に帰るとホッとする。彼との関係が続いているのは、多分、彼も同じ気持ちだからだろう。

「あっ、お義母さんへのお土産、チョコレートにしたけどよかった? お義父さんは、こないだ551だったから、点々の餃子にしといたよ」

「さすが! ありがとう。母さんこないだのも喜んでたし、助かるよ」。

広いとは言えないけど、2人で暮らすには充分すぎる2LDK。彼が好きな家具と私好みの家電。お互いの好みが違って、揉めながら何度も見に行ったベッドマッド。

Wの夜景には到底叶わないけど、彼の腕枕に包まれると、街の明かりが広がり、遠いながらも海が見える。

ベッドから見るこの景色が好きで、絶対に、絶対に手放さないと決めたのは、いつのことだろう。

「おやすみ。愛してるよ」
「おやすみなさい、私も愛してるわ。宗介さん。」

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