POPPIN
「裁判長、検察官の質問は公訴事実と無関係と思われます」 「異議を認めます。検察官はその趣旨が明らかになるように質問してください」 「では、質問を変えます。被告人、あなたは昨年1月……」――。 「おつかれさまでした。最後の台詞、迫真でした」 マネージャーからの労いに、ありがとう、と言うでもなく、高嶋玲奈(たかしま・れな)は黒いジャケットを脱ぎ、スタイリストに手渡した。襟に弁護士バッジが光るそれは、シリーズ2作目となる主演映画での衣装だ。 18歳でモデルとしてデビ
目が覚めると、いつも通りの朝だった。洗面台に向かう。湯が出るまでに時間がかかる。しばらく鏡に映る虚ろな自分を眺めていたが、呆然と待つのも焦ったく、冷水を手桶で顔に浴びせる。覚醒。喉が乾燥して痛むことに気づく。 「完全に冬だな」 にも関わらず、佐伯凱斗(さえき・かいと)は半袖Tシャツを着ている自分に気付き、苦笑した。昨晩は上司に誘われ、いつもの焼鳥屋で飲んだ。例に漏れず烏龍茶で済ますつもりだったが、異動する上司からの勧めを断るのはさすがに申し訳なく、久しぶりにアルコールを
…………ジッ…ジジッ……ジッ。 暑い。熱いのか。汗が止まらない。ということは、暑いのか。いや、身体の左側がやけに、熱い。あぁ、熱い。思いながら、自分が眠りについていることに気がついた。 そうだ。これは夢か。仕事が終わって帰宅して、シャワーを浴びて、寝た。だからこれは、夢か。