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螺旋 ─ 3

 「裁判長、検察官の質問は公訴事実と無関係と思われます」
 「異議を認めます。検察官はその趣旨が明らかになるように質問してください」
 「では、質問を変えます。被告人、あなたは昨年1月……」――。

 「おつかれさまでした。最後の台詞、迫真でした」
 マネージャーからの労いに、ありがとう、と言うでもなく、高嶋玲奈(たかしま・れな)は黒いジャケットを脱ぎ、スタイリストに手渡した。襟に弁護士バッジが光るそれは、シリーズ2作目となる主演映画での衣装だ。

 18歳でモデルとしてデビューし、5年後に俳優に転身。あれから6年が過ぎた。それまでもテレビドラマや映画には出演してきたが、あくまで全てバイプレーヤー。ついに主演を勝ち取った1作目が2年前に公開され、世間からの目線が変わった。あれ以来、主演以外の仕事はすべて断ってきた。銀幕で自分を中心とした世界が繰り広げられていく〈快感〉に、半ば溺れてしまったようだった。

 楽屋に戻り、ジャスミンティーを口にふくむ。スマートフォンを手に取り、メッセージアプリを開く。
 「今夜は会える?」
 目をうるつかせた愛嬌のあるクマのスタンプも添えた。

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