見出し画像

私だけの宝物を見つけに。

柔らかな日差しが春を思わせるような、
でも まだ足元に雪解け水がまとわりつく
そんな3月の初旬。

私はとあるお店へ向かっていた。
そのお店は、道路に面していない。

ところで、私は方向音痴なのは
周りでは有名な話。
車の運転は、青カンを見ながら「何となく」で走れるものだが
歩くとなると、テンデ駄目。

札幌は碁盤の目といえども、
北向きか南向きかで位置が変わる。
同じ区画内を、ぐるっと一周まわってしまった、
なんてのはよくある話。

ひどいのは、何度も行ったことのあるシェアオフィスに
何度行ってもスムーズにたどり着いた試しがない。
こまったさんも呆れちゃうほどだ。

なので、店主がインスタに公開した「お店に辿り着くための手がかり」を
見逃さないようにスクショして。
今いる場所をひとつひとつ照らし合わせながら向かう。
手がかりは2パターンあり、いずれもチェックポイントは3つあった。

「ここ見かけた、よぉし。」
まるで昔やったゲームみたいに。

宝探しはもう始まっていた。

最後の手がかりに従い、
「焼肉屋と床屋の間の小道を曲がる」と、

「あ、あった!!」

思わず声を上げてしまいそうになる。

小道は、お店がある場所より奥は行き止まりになっていた。
道路に面さない、住宅街に潜む店。

秘密を知ってしまった。

木が剥げたドアを、戸惑いながら開けた。


木造のテーブル、
懐かしいストーブ。
ところどころ剥げた壁。
黒ずむ床。


どこか懐かしい、あの日を思い出す。

懐かしさを感じたのは、「雰囲気」だけではなかった。

こちらのお店は、「ペコラネラ」。
イタリア語で、「黒羊」という意味。

昔、店主は羊毛で帽子を作っていたことがあり、関連する名前を付けた。
黒羊は、遺伝子がおかしくなったことで生まれてくることから、「珍しい」とか「変わり者」といった意味を含んでいる。

お店は60~70年代を中心とした、食器や雑貨、お洋服をメインに、
フランスやアメリカから取り寄せたものや、日本のヴィンテージも扱っている。

一見、「レトロで可愛い」で終わってしまいそうだが、
ガラス一つとっても、当時の時代背景が繁栄されていたり、それぞれのメーカーの想いが込められていることを、
店主がひとつ一つ丁寧にお話ししてくれる。

早くて安い、
そういったものが求められ、溢れかえる世の中で、
まるで昔にタイムスリップしたように、
ゆったりと「古き良き」を感じることで、愛着へと繋がっていく。


ヴィンテージ食器と聞くと、値段が高いとか、棚に並べてコレクションするというイメージが先行してしまうが、
店主がセレクトするのは、
朝ごはんをのせるのにちょうどいい大皿やティーセットなど、
普段使いにもよさそうな商品が、1000円位の手ごろな価格で並べられている。商品に60~70年代のものが多いのは、店舗が築50年以上の学生寮を改装されたことにちなんでいる。

「コレクターにせず、日常で使ってほしい。そうすることで、食器も喜ぶ。」

それが店主の願いであり、
この場所から、作り手の想いを引き継いで、
私たちはまた新たな毎日を紡いでいく。

食器だけではなく、お洋服も扱っている。
女性らしさをぐっと引き立てるフレアの綺麗さを味わったり、
何度も付け替えられたボタンから、昔に思いをはせる...
ファストショップではなかなかできない体験だ。

また、道内作家の作品も置いているが、
ヴィンテージ商品の邪魔をせず、
お互いの良さを引き立てあっている。

商品はすべて1点ものなので、自分好みに出会えた時は迷わず購入を。

これから来るやわらかな春の日に、
「自分だけの宝物探し」に出かけてみるのはいかが。

このお店はもちろんのこと、
この「南円山地区」全体がきっと温かく迎えてくれるだろう。

私は「ペコラネラ」を後にしてからも、この界隈をフラフラしていた。

洗練された円山エリアらしい、新しくできたスタイリッシュな洋菓子店があっても、この「南円山」だけは昔ながらの外観が残ったコインランドリーや床屋さんが軒を連ねていて、老舗のお菓子屋さんも健在だ。
そして、どのお店もフレンドリー。


いわば「よそ者」のような私に対しても、
行く先行く先で「近所のおばちゃん」のようなスタンスで
「あのお店がおすすめ」とかいろいろなことを教えてくれた。

今回取材した「ペコラネラ」だけではなく、
この地区全体が「古き良き」を体現しているような気がして。
大切にしたい宝物が、増えた気持ちになった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?