サラットナさん 第八章

「貝塚さん、何度も言いますが、もう取るしか手段が無いんです。」医者が録音した機械のように繰り返す。

彼との赤ちゃん・・・。
何ども映像がリフレインする。彼が近所の子どもたちと楽しそうに遊ぶ姿、未来の子どもたちのためにとお菓子づくりもはじめたこと。

「やっぱり無理です。子宮は絶対取りません!」

「もう時間がないんです。次、出血したら死にますよ。」

あんなに体力なくて、あんなに判断力に欠けていて、あんなに無力な時に、人は重い決断をすることがあるんだ。と後から思う。

旦那はたまたま重要な仕事で遠方に出張していた。全く連絡が取れなかった。

でも、手術後に目が覚めた時、私の手を握ったまま眠っている彼がいた。私に気がつくと、ごめんな、ごめんなとずっと泣きじゃくっていた。

いやだよ、ごめんを言うのは私のほう。
もう、あなたにできることは何もない。

仕事が忙しいのに、毎日、旦那は来てくれる。
それが辛くて、私は彼をさけるようになっていたのかもしれない。いつしか友に、ほら、うちら仮面夫婦だからさぁと茶化して言うようになっていた。

私の中で何かが、とけていった。
まるで、ずっと氷山に閉じ込められていて、そこから抜け出した感じ?、何だか笑える。
そうよ、凍りついていた私が生き返ったのよ。

命があるだけで幸せなんだと思い込もうとしていた。お料理してくれる旦那がいるだけでありがたいと自分に言い聞かせていた。

病院で吹き荒れた全ての感情に、ふたをした時、私は記憶も失っていたのかもしれない。

そうだ、巫女さんに伝え続けているサラットナさん伝授の健康法。旦那にやってあげよう。
あと、サラットナさんの言葉をすぐ忘れてしまうけれど、もっと真剣に聞こう。そう心に決めた。


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