見出し画像

短編小説 シンデレラの靴〜P2P3曲目 エンドレスより〜

永遠の愛って何だろう。
あの時、絶対手を離さないと誓ったはずなのに。

彼と一緒になる時、約束したことがある。
「俺が99歳まで生きるから、君は100歳まで生きて」
そんな長生きできるかなあ、なんて笑いながらも漠然とその言葉通り彼が99歳まで、私が100歳まで生きるもんだと思っていた。
なのに彼はあっけなく、くも膜下出血でお別れも言わず私の前から忽然と姿を消した。

まるでシンデレラがガラスの靴を片方忘れてしまったかのように、私はパートナーを失い、呆然とした。
シンデレラと違うのは、その靴に合う人物にはもう二度と出会えないという事だった。それは、分かりやすい言葉で言うと『絶望』というやつだった。
どんなに会いたくても、私たちはバラバラ。二度と会う事はない。
さよならを言いたくなくても、さよならになってしまっている。
その絶望が支配する中で、私は一人暗闇で彷徨った。

そんな時、彼の好きだった色鉛筆を見て、色に関わる事をしよう。
ひらめくように突然そう決めた私は、その日から色の世界で暮らしている。
今は、スタイリストとして独り立ちできるくらいまでになり、毎日仕事に追われていた。

だけど、シンデレラの靴はそのままだった。

でも、私はそれでいいと思っていた。
彼以外に私の靴と合う人が現れるとも思わなかったし、月日が経つに従って、彼の言葉、声を忘れてしまう自分がいる。それが怖い。
だから、彼の声や笑顔を忘れないように、彼以外の事は愛さない。
色に関わることで、彼のことを常に感じられる。
そうすれば、彼の事を忘れないで済む。
そう思って、シンデレラの靴はそのままにしていた。

そこは行き止まりで、地図は持っていない。
だから、私は安心して彼だけを愛することができた。

なのに、あの人、透さんに出会ってしまった。
きっかけは私がこぼしたコーヒー。

「僕の部屋にコーヒーの地図があるんです」

透さんはそう言った。
地図を持ってない私に、透さんは地図があるという。
そこに興味を持った。

興味を持ち始めたら、自分でも不思議なくらい、透さんの世界に飛び込んでいた。

楽しい。

久しぶりに私は仕事以外で心躍る生活をしていた。
2人で地図を作って冒険をするようだった。
お互いの知らない扉を2人で開けて「ああ、こんな面もあるんだ」と知ることが楽しかった。
透さんといると地図の上でダンスを踊るように、身体が軽く、私は素足でいられた。

だけど

私は彼に永遠の愛を誓ったはずだ。
その思いは変わりがない。

幸せの狭間で、私は、私自身の幸せと永遠の愛について答えのない溝にはまりこんでいた。

シンデレラの靴をもう片方脱いだまま。

あとがき
松下洸平さんのツアーPOINT TO POINTに参加しました。
あまりの楽しさに、私はツアーのセットリストでお話を作ってみることにしました。
今回は、3曲目の『エンドレス』です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?