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恋と愛2〜最愛サイドストーリー〜

恋人になりたての俺たちは、月明かりを浴びながら、ゆっくり歩き、歩きながら、とりとめのない話をして大きな声で笑った。

「所でさ、私に付き合ってる人いるとは思わなかったの?」

「あーー、思わなかった」

「なんで!その自信どこからくるの?!」

「だって、恋人いたら、あんなに毎日のように1人でお店来ないでしょ?」

「そうだけど、そうだけど、なんだか悔しい!」

本当は違った。

78億人いると言われている世界の人の中から、俺は若葉さんを見つけた。

絶対運命の人だと思った。

だから、恋人がいたら?なんて事は微塵も考えていなかった。

おかしいと自分でも思うが、本気でそう思っていた。
そんなことを考えたら、目の前にいる若葉さんが、奇跡の人に思えてきた。 

自分の好きな人が、自分の思いに応えてくれている。こんな奇跡があるんだ。
そう思ったら、体が震えてきた。

「やば。今頃緊張してきた」

「ええ?なんで?!」

「わかんない、緊張が解けたら、緊張してる。なにこれ」

少しパニックのようになってる俺に気づいて、若葉さんはそっと俺を抱き寄せた。

「落ちついた?」

そう言って、笑ってくれた。
女神だ。
そう思って、俺は強く抱きしめて、自分からキスをした。

唇が深く重なった瞬間、俺の世界が回り始めた。

朝宮優という名前を取り戻してから、なんとなく回り始めてはいた俺の時間が、今、ハッキリと回り始めた。 

俺は、時間を自分の手で動かし始めたんだ。


それからの俺たちは
一緒にご飯を食べて、おいしいねって笑う。
仕事の話、受験勉強の話、家族の話、友だちの話。いろんな話をしながら、2人のパズルを作っていった。
そんな時間を過ごした。
楽しかった。

2人で時間を紡ぎ出すことがこんなに新鮮で、自分も知らない自分自身を知ることができて、本当に楽しかった。

でも、
俺は、病気のことを、それにまつわる過去の事を話せていなかった。

その事が、チクリとお腹の奥の方に刺さり続けていくようになっていた。

その事を話せていない自分の後ろめたさがそうさせるのか、だんだん彼女との距離を感じる事が多くなった。
俺といても、どこか違うところを見ているような、そんな若葉さんを感じるようになっていた。

苦しかった。
2人の溝を感じている分、どうしたらいいのかわからない自分が。
若葉さんは28歳で大人の女性だ。
その点俺は、今、初めて恋愛を経験しているただの若者にすぎない。彼女にとって子供すぎるのか?
もっと大人にならなくちゃいけないのか?
彼女に見合う大人の男に。
こんな事を考え出して眠れない夜もあった。

病気のことを話そう。
大人の男にならなくても、せめて正直な人になろう。
俺は決心した。

「あのね…話があるんだ」

病気の事を話そうと思った日、若葉さんからそう切り出された。

「私、コートジボアールに行くんだ」

「コートジボアール???」

突然に言われた聞きなれない国名に、ポカンとしてしまった。
普段であれば、そんなポカンとする俺に対して、笑い飛ばすのが若葉さんだったが、少しも笑わず、俺を見つめていた。
その目には決心があった。

【聞きたくない】
瞬時にそう思った。

「俺ね、小さい頃の怪我のせいで、脳に障害があって、記憶が保たれない、カッとすると感情の抑制が効かなくて暴力的になってまう症状があったんだよ。
それで姉ちゃんを守るためとは言え、人を傷つけたこともある。
ずっと、ずっと自分が嫌いだった。自分が怖かった。息するのも嫌なくらいな時もあった。自分を否定し続けて9年過ごしてきたんだ」

俺は若葉さんに言葉を喋らせまいと、自分の病気の事を捲し立てるように話し始めた。

でも、おかしいくらい、自分の話が若葉さんに届いていないことが喋っていて伝わってきた。

「どうでもいい?俺の話」

つい、ポツリと呟いてしまった。

「どうでも良くないよ。でも、ごめんね、今じゃない。今は私の話」

そう返されて、俺は話を止めるしかなかった。

「コートジボアールで農業支援してる人がいてね。農家を会社化して、産業を大きくする仕事をしてるんだ。
その人から、プロポーズされたの。
海外行く時に待ってて欲しいって言われて、待つつもりでいたんだけど、だんだん連絡取れなくなるし、自然消滅なんだなって思ってた。
そしたらこの間、連絡来てね。経済的にも目処が立ったから、一緒に来て欲しいって」

若葉さんはうつむいて、しばらく黙った後、顔を上げた。

綺麗だった。

「だから私、コートジボアールに行くことに決めたんだ」

綺麗だな、そう思った若葉さんから飛び出してきたのは、俺への別れの言葉だった。


あとがき
優は私の弟?子供?のような感覚でドラマをずっと見守ってきました。
そんな優がいろんな感情を獲得していく様を描きたくて書き始めました。
もう少しだけ続きます。よかったらおつきあいください。
なお、このお話は私の完全なる妄想であり、本編とは全く関係がありませんので悪しからずデス。

また、このお話は、前に書いた「ジグソーパズル」の続きです。
よかったらこちらも読んでください。










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