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毋米粥という名のコミュニケーション〜1人1万円のお粥を食べてきた

2023年10月末。一生に二度はないだろう体験をしてきたので、どうしても書き残しておきたい。それは、中華街で1人1万円するお粥を食べたこと。それも、気が遠くなるほどファッショナブルな女子18名(ほぼ初対面)と一緒に。


粥の名は

毋米粥。ずっと読めなかったのでさっき調べてみたら、モウ マイ ゾォって読むらしい。知らんがな。お店の名は、南粤美食(なんえつびしょく)。そう、泣く子も黙るあの名店だ。

孤独のグルメ大ファンの私、こちらのお店が取り上げられてからというもの、食べたくてたまらなくて幾星霜。中華街に降り立つたびに巡回するも、長蛇の列に心挫けて素通りするばかり。それがなんとこの度、このお店を舞台に自問自答ガールズの集いが開かれるというではないか。発起人はるつたさん

長年憧れていたお店に並ばず入れて! お会いしてみたかったガールズの方々に一気にお目通りが叶って!! 更には世にも珍しいお粥鍋を頂けるとな!!! なんたる僥倖、なんたる奇縁。これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぶ。ありがたく参加させていただきました。

毋米粥にありつくハードルがどれだけ高いかは、こちらを読むとよーーーーくわかります。るつたさん、本当に何度でも言うけど企画実行進行すべてありがとうございました!!!!(号泣)

食べ物の写真を撮るのが壊滅的にヘタクソな上、全血液が胃に集中してぼーっとしていたため当日は早々に撮影を放棄しました。以下、画像は皆様の撮られたものを遺憾なくお借りしてお送りします。具材は順不同です。

南粤美食の看板料理(だよね?)はこちら。

塩蒸し鶏

お粥には入らないだろうと諦めていたものを、まさかの前菜で頂けちゃって感激。某カーネルサンダースに比べて(比べるな)究極にシンプルな味付け、なのに齧り進むほどに奥から奥からギュギュギュッと旨みが滲み出てくるこの不思議。骨に近い部位ほど塩気が溜まりやすいせいか、味わいが深い。なので遠慮なく手掴みで頂くのがオススメ。これは…ビールに合うだろうねぇ…(ウーロン茶片手に)。

そうこうしている間にも着々と鍋の準備が進んでいく。高級料亭すき焼きスタイル(知らんけど)なので、おかみさんが土鍋2つにつきっきりで用意してくださるのを一同座して待つのみ。

具材:海鮮編

のっけから現れる巨大な海老。これが、

こうなって、

こうなる。

海老の投入された鍋が白いのがお分かりだろうか。あれ、お粥。 この調子でお粥鍋に次から次へと惜しみなく高級具材(具材!)が投入されては掬い出され、鍋側にひたすらに出汁(出汁!)が溜まっていくシステム。

実は私、海老、そこまで好物ではない(おい)。でも頭っからかぶりついて食べちゃった! カラきわきわの旨みを余すことなく吸い尽くし、ヒゲが突き刺さることもなくぺろりと2尾完食。新鮮さのなせる技ですね。海老好きにはたまらないはず。

具材の提供スピードはわんこそば並み。

あわび
ホタテ
あさり
イカ
タラのすり身

具材お披露目、投入、煮込む間に次の具材お披露目、からの仕上がった具材提供、実食、一息…つくかつかないかでもう次の具材お披露目、と常にテーブル上になんらかの変化が起きて、まあまあ忙しい。なるほどこれは、モタモタと慣れない素人が作っていては成り立たない料理なのだと気づかされる。それでも2時間かかるのだから、推して知るべし。

写真右上のタレがまた美味しかった。何が入ってるんだろ。醤油だけ、ではないはず。うっかり一つ唐辛子を齧ってしまうもなぜかそこまで激辛ではなく(味覚壊れた?)、ほんのりした辛味のおかげで具材の甘味がググッと引き出される感じ。

その甘味を強く感じたイカ。予想に違わずやわらかいこと! 茹で上がると花みたいにふわりと広がるのがちょっと可憐だった。イカに可憐なんて初めて思ったわ。

具材:お肉編

そう、肉とて1種類ではない。

予想通り美味しかった名古屋コーチン(関係ないけど食材名に出身地が入るとやたら美味しそうになるよね)。

何らかの肉団子(忘れた)。茹で上がっても全くパサパサしないのはやっぱり鮮度のおかげなのか。芯に閉じ込められた旨みが何というか、やわらかい。お肉に対してやさしい味わい、という表現を使う日が来ようとは。

ホルモンは正直あまり得意ではなく、一切れだけ食べたセンマイ。

が、よくよく思い返したらなぜか私、これだけタレつけずに素で行ってた。ホルモンなのにね?! 後から皆さんのレポ読んだら「タレつけたらすごく美味しかった」って複数の方が書かれてて、「だよねぇぇぇ???」となった一品。くっ、、、

そしてまごうことなきスター食材、A5肉。A5って表現が市民権を得たのはいつぐらいなんだろう。

はいドーン! 「きゃーーーーーー」

わくわく。

ブツ撮りをする人々。

もちろん、素晴らしかった。行こうと思えば一口で行けそうなくらいやわらかいのだけど、過ぎゆく旨みがもったいなくてちょっとずつ齧って食べた。トロトロになったお粥が絡んだ肉片に例のタレを纏わせて、一口、また一口。溶ける感じではなくてしっかり存在感はあるのだけど、あっという間に口の中でほぐれてしまう。この肉が one of them ってどれだけ贅沢な鍋なんだろう。

具材:野菜編

間違いなくこの日、茹で上がる前のA5肉より存在感を放っていたのがこちら。

ここまで登場した中で最も日常に近い食べ物。それがこんなにも立派な姿で、こんなにも足並み揃えて現れるとは。しいたけだって、まさかこんなに歓声を浴びる日が来ようとは思わなかったに違いない。

しいたけだけで鍋が盛り上がってるの、見たことある? 私は初めて見た。長野産だそうで、ようこそはるばる横浜へ…! と思った。

しばらくするとここまでカサが落ち着いて、

食卓へ。

肉詰めだと言われても疑わないルックス。いや、むしろステーキ本体。肉厚でぷりぷりしていて、齧り付くと芳醇なしいたけ汁(?)がじゅわりと染み出してくる。しいたけ好きで良かった。

以下、お腹パンパンの終盤に現れて、これならまだどうにかいけるかも、とみんながホッとした面々。

かぼちゃ
大根&長芋

煮込んだ野菜ってなんでこんなに染み渡るんだろうね。これはあれだね、「米の研ぎ汁で大根煮ると美味しくなる」の究極形なんだろね。あっさりしてるけどほくほくじんわり甘くてやさしくて、パンパンの胃がちょっとだけ慰められた。

長芋はシャキシャキとホクホクとの端境ちょうどで鍋から出てきた感じ。歯触りは軽やかなのに舌触りはトロリとしてて、初めての感覚かもしれない。煮込みすぎ選手権ぶっちぎり一位の自分には絶対に取り出せないタイミングと見た。

粥、いざ実食

ここまでで2時間弱が経過。すべては、この一皿のため。

え? お粥じゃないね?

そう、2時間も煮込んでいれば米粒など跡形もなく消えるのだ。スープ?の色の変化を今一度確認されたい。めくるめく高級食材からたたみかけるように放たれた出汁の全てが、皿の中に集結していることが伝わるだろうか。

Before

序盤の鍋アゲイン

After

もはや神々しい

意を決して一口、啜ってみる。


……これ、やっぱお粥じゃないね?


味覚で何かを感じ取るよりも早く、眉間のあたりが「カッ」と開く感覚があった。食べ物を口にして、舌より体が反応するなんて初めてのことだ。何、これ? さらに数口続けて口に入れていると、次第に目の奥がスーッと軽くなってくる。

医食同源、という言葉が浮かぶ。

味は、もちろん美味しかった。最初に海鮮がガツッと来て、後から他の食材オールスターズが次々と顔を出してくる。これだけ個性豊かな食材が渾然一体となって、えも言われぬ複雑な味わいを構成している。でも正直に言うと、私にとっては味より体の感覚の記憶が圧倒的に鮮烈で、味のことはあんまり覚えていない。

お腹がはち切れそうなくらい食べたはずなのに、体が喜んでいるのがわかった。一口啜っては眉間の謎のスッキリ感を味わい、何かが解放されるような感覚の切れ端を捕まえようと虚空に目を泳がせていた。多分、すごく変な顔をしていたはず。

ふと、思う。

仮にどこぞの高級レストランで、全ての鍋工程をすっ飛ばして最後のお粥だけを単品で注文できたとしたら、同じように感動するんだろうか。…なんとなく、違うような気がする。

このお粥は、最高の具材を丹精込めて育ててくださった方がいて、新鮮なまま調達してくださった方がいて、おかみさんが2時間もの間つきっきりで作ってくださったからできたもの。お粥ができるまでの2時間を同じ部屋で共有したことで、このことをじんわりと体感できたように思う。

丹念に手をかけた料理をしっかりと味わう、というのは一種のコミュニケーションだ。美味しいね、とハフハフ言い合いながら驚きの視線を交わす私たちのコミュニケーション。それを嬉しそうに目を細めて見ながら次の具材を入れる、おかみさんと私たちのコミュニケーション。

みんなで、作り上げたお粥。なんて、尊いのだろう。


ごちそうさまでした。


五郎さんのごとく、深々と頭を下げて、合掌したのだった。


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