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アメリカの高校生の運転免許

 アメリカでは、自分で運転して高校に通うのは驚くべきことではないことをご存じだろうか。州によって自動車運転免許の取得に関する法律が異なり、特に10代での免許取得の場合、1歳毎に規則が細かく異なるので、一概には言えないが、私が暮らす州を例に挙げると、最年少では16歳から運転免許を取得できる。なので、高校3年生ともなると、毎日、自分ひとりで運転通学してくる生徒もいる。そのため、高校の駐車場は生徒用スペースもあり、とても広い。しかし、そのスペースにも限りがあるため、高校によっては成績順に駐車する場所が割り当てられる。成績が悪いと、どんどん条件が悪くなるというしくみだ。
 

 日本では運転免許取得が可能なのは18歳であるため、高校生が自分の車で高校通学をするのは、通常、見られない光景だと思う。それだけに、アメリカで16歳の若者が車に乗って通学することが、最初、信じがたかった。しかし、子育てを通じ、また教育現場を見る中で、なぜ高校生がそんなに早く免許を取るに至るのか、理解できるようになった。ここでは、教育的視点からその理由を二つ挙げることにする。
 

 第一に、アメリカは基本的にどこも田舎だ。公共交通機関が当てにならないか、そもそも全くないことが多い。となると、子どもの移動はすべて保護者が担うことになる。公立学校の場合、学校から自宅までの距離によっては、スクールバスが無料で送迎する規則になっている。しかし、放課後、学校の友だちと遊びたくても、互いの家が離れていることも多く、結局、保護者の送迎が必要になる。お稽古事についても、放課後の部活も同じだ。中学・高校生になっても保護者による送迎が続く。なので、子どもも親に内緒でデートすらできず、親に送迎を頼むという話はよく聞く。物理的に親の直接的な関与が入るため、子どもに自由はない。親にしても、いつまで経っても子どもの送迎から解放されず、ストレスがたまる。親子双方にとって窮屈なのである。そうした背景もあり、子にとっては自由な移動を勝ち取る手段として、そして親にとっては子どもの送迎ストレスから解放されるために、運転免許取得年齢が日本と比較して若く、またその年齢に達するや、多くの生徒が免許取得に精を出すのだ。
 

 第二に、アメリカの高校は、大学と同じように、個人の裁量と学力レベルで科目を履修していく。誰一人として同じ時間割ではない。学校が提供する科目の多さは日本とは比較にならない。また、普通高校に通いながら、実業系の高校のコースを取ることも可能だ。例えば午前中は自分の高校で授業を受け、ランチタイムに移動し、午後は別の高校で電気や土木関係のコースを取ることも可能だ。幼児教育のコースを履修している生徒は、午後、インターンシップ先の小学校へ行くこともある。また、上級レベルの科目を取るため、地元コミュニティカレッジや大学へ通う生徒もいる。通常、高校は4年間(日本の中学3年生から高校3年生相当)あり、最初の2,3年は必須科目の単位取得に忙しいが、最終学年になると、必須科目のほとんどを履修し終わるため、個人の興味や将来に向け、科目を自由に選択したり、インターンシップをしたりすることになる。その時、必ずしも学校内で完結せず、外部の学校へ行くことになるため、そのための移動手段が欠かせないのだ。
 

 アメリカは国土が広く、移動手段が自家用車に限られること、また、高校の教育カリキュラムが多様で、母校だけで授業が完結せず、他の高校や組織で卒業単位の取得が可能なため、それを実現するために、運転免許取得可能な年齢になるや、免許取得に向けて行動に移すのだと、私は解釈している。
 

 ここからは余談だが、驚くのは、運転免許の取得年齢だけではない。私が暮らす州では通常、道路交通法や法律を学ぶ学科履修は自動車教習所で行い、自動車管理局で学科試験を受けて仮免許(Learner’s Permit)を取得する。その後、初めて運転教習を始める。日本では新規運転免許取得の場合、95%が指定自動車教習所の卒業生だと言われているが、アメリカでは運転免許を持つ大人が教官となって同乗し、60時間の路上練習をすることになっている。その練習を経て、自動車管理局で技能試験を受けて合格したら、めでたく免許取得となる。と言うことは、どういうことか。自分の家の車に乗り、親が子どもの運転指導をすることが大半なのである。夏休みの今、がらんと空いた高校の駐車場では、高校生親子がひっきりなしに何組も来て、車の運転練習をしている。親の指導の下、広い駐車場内の交通誘導用三角コーンを移動させ、何度も駐車の練習をしている姿をよく見る。これが高校駐車場における夏の風物詩となっている。
 


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