見出し画像

オンライン学習を軌道にのせる三つのポイント

 日々、世界が激しく動いている中で、ちょっとでも立ち止まると、瞬く間に目の前の景色が変わり、自分が発信しようとしていた情報が陳腐化していくような気がして怖くなる。教育の世界も同様だ。世界中の学校が、あれよ、あれよという間に閉鎖に追い込まれ、大きな流れとして、オンライン学習へと移行した。その移行過程を追っている間に、あっという間にまとめの時期に差しかかってしまったようだ。今は世界のあちこちの国で、学校閉鎖の解除に向け、さまざまな施策が発表されつつある。

 そんな前置きはともかく、アメリカの公立学校カウンティの公開情報を元に、オンライン学習へ移行する過程を見てきてわかったことを整理しておく。総生徒数16万人を超えるアメリカ東部の州のカウンティの教育委員会が、急きょ、対面授業からオンライン学習へ移行するのは並大抵なことではなかったに違いないが、それを可能にしたことが三つ考えられる。

 第一に、柔軟な考えと意思決定とフットワークの軽さで、未曽有の危機に対処したことである。その際、最初から一貫して教育委員会が唱えた目標が「学習の継続」であった。世界が激動する中、これまでのあり方に固執していては、革新的なことはできない。「対面授業」といった既存の学習形式にとらわれず、現実をみつめ、「学習の継続」という目標を達成するために、今できることとできないことを明確にした上で、さまざまな可能性を挙げ、実現可能な計画を立てて実行したからに他ならない。でも、そうなるには、これまでもオンライン環境整備を積極的に行い、活用してきたことが最低条件に挙げられる。

 第二に、情報公開の徹底である。その土地に暮らし、連邦税や州税、固定資産税を納めている以上、徴収された税金が教育でどのように使われているか、納税者として知る権利がある。そうした納税者の要望に応える形で、教育委員会は、オンライン学習への移行プロセスについての一部始終をウェブサイトやYoutubeなどを通じて情報公開が徹底していた。こうした情報公開の徹底は、教育の恩恵を受ける子どもの保護者として、自分の子どもだけでなく、クラスや科目、学校、地域など広い視点で初等中等教育について考える材料を与えてもらえ、同時に教育の継続に対する危機感も感じ取ることができた。

 第三に、緊急事態に対してスピードを持って対処するには、権限と責任の範囲を明確にすることである。教育委員会が責任を負うべきこと、各高校レベルでやるべきこと、そして科目担当の先生が、どのように生徒をオンライン学習へと導くか、各組織や人の責任範囲が明快であることが、機動力を持って非常事態に対処する上で大切だと思った。教育委員会がいつまでに何をどう考え、決定、解決しようとしていたのか、情報公開のお蔭で明確にわかり、保護者としても、学校にどこまで子供を委ねていいのかわかり、その安心感は計り知れないものがあった。

 しかし、このような特徴を持って移行したオンライン学習であるが、その受け手である生徒がどれだけついてきているかは全く別の話であり、生徒の声はなかなか公にはならない。対面教育からオンライン学習へ移行しても、学習の継続ができている生徒はいいが、オンラインに参加できていない生徒が今、どのような状態にあるのか、そうした生徒に今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 私の娘は、たとえオンライン学習に切り替わっても、今の学習環境は「自習8割、オンライン2割」だと言い切るが、それは当たっているのかもしれない。でも、オンライン学習を通じて得られることがたとえ2割でも、8割の自習を円滑に行うために、オンラインZoomによる先生からの説明も必要で、これまでと比較して学習効率が落ちたとしても、学びを止めてはいけないのだと思う。きっと、その先に見える教育は、対面授業とオンライン授業のコンビネーションなのではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?