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力を合わせて " 同じ目標 " に取り組んでいれば、お互いを近くに感じる。決して・・・ 寂しくなどはない [第13週・2部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

前回から第13週・「風を切って進め」の特集記事へ突入し、今回はその2部の記事ということになる。ちなみに、第13週・1部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

それで今回の記事は、第13週62話の後半部から63話の後半部までを集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。

この第13週はカット割りなどの演出面では、かなりシンプルでスタンタードなものを用いている。したがって『映像力学』的な視点からの分析や考察は少なく、演者の表情や所作に注目することでの解釈・考察を中心として展開する。スポーツ医科学・心理学的な知見と視点からも分析・考察を行っている。

また『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら ) も用いて、そこから浮き彫りになった登場人物や俳優の心情などを探りつつ、この作品の世界観の深層に迫っていきたいと思う。


○言葉遣いとそのテンポ感から・・・ " その距離 " が、徐々に縮まっていることを感じさせる


パラ・アスリートの鮫島祐希(演・菅原小春)のフィジカル面での弱点を探ることになった「チーム・サメジマ」のスタッフ達。東成大学医学部・呼吸器外科の医局の協力も得られることになり、彼女の生理・生化学的なプロファイルデータの分析が進んでいた。


*第13週62話より


その分析では、鮫島はレース中に深部体温が上昇しやすい傾向にあり、スピードの低下と深部体温の上昇との間に相関関係があるらしい。したがって、彼女のレース中の深部体温の上昇を抑えることが、勝利へと導くカギとなる可能性が高かった。


*パラ・アスリートの鮫島祐希(演・菅原小春)のフィジカル面での弱点が明らかになりつつあった。主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)は、光明を得たように微笑む [第13週62話より]


後日、『汐見湯』のコインランドリーに洗濯に来た青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)に、深部体温の上昇を抑える効果的な方法はないかと相談する、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。


『菅波 : 深部体温の上昇を抑えるには、結局、冷たい飲み物をとるのが、一番効果が高いんですよ。』

『百音 : 車いすマラソンって、こう・・・ 車いすの前のところにドリンクをつけて、そっから、こうチューブでストローみたいに吸って飲めるんです。』

第13週62話 より


*『汐見湯』のコインランドリーに洗濯に来た青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)に、深部体温の上昇を抑える効果的な方法はないかと相談する、主人公の永浦百音 [第13週62話より]


さて『Weather Experts』社で、初めて鮫島と会ったのが8月29日(月)前後で、この放映話では選考会レースの16日前である9月9日(金)前後。このシーンでは、携わってたった二週間の百音が、 " 既に車いすマラソンの競技特性を把握し始めている " ということを表現することを狙っているのだろう。

その百音が話した " 車いすマラソンの競技特性 " に対して、菅波はこのように応じる。


『菅波 : へえ・・・ それじゃあ、頻繁に飲めるのか。』

『百音 : はい。』

『菅波 : にしても、便利っすね。

『百音 : ねっ、いいですよね。

第13週62話 より


*会話のテンポ感や言葉遣いから、百音と菅波の距離感がかなり縮まっていることを感じさせる [第13週62話より]


それでこのシーンは、皆さんはどのように感じましたか? まず、二人の会話が掛け合いのように非常にテンポが速い。おそらく東京編での再会後では、最もテンポ感の速いセリフ回しだろう。

これは前話の " 相合傘 " 以降に、二人の距離感がかなり縮まったことを表現していることは明白だろう。そして、注目すべきは菅波が発した、


『にしても、便利っすね』


と言う言葉だ。初見の際、筆者はこのセリフに完全に耳が持っていかれた。さて筆者が考える菅波の人物像は、子供の頃から学力優秀・頭脳明晰であるものの、その反面でスポーツに関しては、まるっきり不得意であったと捉えている。

その証拠として、菅波は飛んでくるものを全くキャッチ出来ない・・・ ということは、球技スポーツの経験がほとんど無いことは明白だろう。


*登米編での一幕。カフェ・「椎の実」 の常連客である吉田みよ子(演・ 大島蓉子氏)から、柚子を投げて渡されるがキャッチ出来ない菅波。代わりに百音がキャッチする [第9週・「雨のち旅立ち」41話より]


また彼の経歴や醸し出す雰囲気から鑑みると、学生時代はスポーツ系の部活動に携わった経験がほぼ無いということも、想像に難くない。それにも関わらず、スポーツ系の部活動経験者が用いるような、『便利っすね』という言葉を使っているところが印象的なのだ。

そうなると・・・ その可能性としては、菅波は学生時代に比較的に " 上下関係の厳しい文化系の部活動 " を経験したことも考えられる。

また、『 ~ っすね』という言葉を部活動の場面で用いる場合には、基本的には目上の人や先輩の対して " 親近感を込めた表現 " として用いられることが多い。

登米編も含めて、これまでの菅波は百音に対して、『永浦さん』や " です・ます調 " をキッチリと用いてきた。これは年齢差があることや、普通に生活をしていれば、ほとんど接点が無い関係性というのもあってか、やはり " 潜在的な距離感 " というものが、彼に " このような語意 " を使わせていたのだろうか。

しかし、菅波の " 過去の挫折の告白 " " 相合傘 " という経緯が、その距離感を一気に縮めたというところだろう。ただし、まだ " タメ口 " を使えるほどの距離感ではない・・・


『坂口健太郎 : 本当に・・・ " 言葉だけじゃない、ちょっとずつの変化 " みたいなのは、ちょっとずつ作りながらやってましたね。 』

『あさイチ』・2021年9月24日放映より


このシーンは、演じる清原氏と坂口氏が " 芝居の空間で感じ取った空気感 " からその表現を取捨選択し、試行錯誤しながら紡ぎ出した " 二人の距離感の演出 " の真骨頂の一つであると、筆者は感じている。



○三者三様の " 目線 " による表現力とその世界観


百音と菅波がコインランドリーで話をしているところに、井上菜津(演・マイコ氏)がやってくる。なんでも、ご近所さんからアイスクリームのおすそ分けを貰ったので、一緒に食べようと二人に声をかけると・・・ 野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)が、菜津を止めようと割って入る。明日美は気を利かせて、二人っきりにしたかったようだ。


*コインランドリーで話をしていた百音と菅波に、おすそ分けのアイスクリームを一緒に食べようと声をかける井上菜津(演・マイコ氏) [第13週62話より]


結局のところ、アイスクリームを4人で食べることになる。


『汐見湯』のコミュニティースペースで、4人でアイスクリームを食べながら歓談していると、来週には百音が21歳の誕生日を迎えるという話題になる。


*『汐見湯』のコミュニティースペースで、アイスクリームを食べながら歓談していると、来週には百音が21歳の誕生日を迎えるという話題が出る [第13週62話より]


それを聞いた菜津が、みんなでお祝いしなきゃと張り切ると、


『明日美 : ああ・・・ みんなでっていうより、やっぱ、そこはもう21だもん。ねぇ~?

『百音 : すーちゃん。』

第13週62話 より


*『みんなでっていうより、やっぱ、そこはもう21だもん。ねぇ~? 』と、菅波に満身のプレッシャーをかける野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)。その目力がハンパない。一方の菅波の" 遠い目 "も非常に印象的だ。二人の俳優の " 目の演技 " の巧みさが光るカットだ [第13週62話より]


と、渾身のプレッシャーを菅波に加える明日美・・・ って、スーちゃんの目力がハンパない(笑)。演技力には定評がある、恒松氏ならではのカットだろう。そして " 遠い目の菅波 " も非常に印象的だ(苦笑)。


それで明日美のプレッシャーから逃れようと、いち早くその場を立ち去るためにアイスクリームをかきこむ菅波。百音は彼の様子を一瞥し、明日美を制止しようとすると・・・


*明日美のプレッシャーから逃れようと、いち早くその場を立ち去るためにアイスクリームをかきこむ菅波。その様子を窺うような視線の百音。流して鑑賞しているとつい見逃してしまいがちだが、演じる清原氏が基本に忠実に視線を菅波に送っているのが象徴的だ。『DTDA』という手法を用いると、このような繊細な演技も手に取るように分る [第13週62話より]


菅波はアイスクリームを一気にかき込んだことで、頭痛が発生したようだった。

さてこのカットも印象的なのだが、百音はしっかりと菅波に視線を送って、彼の様子を窺っているのが分る。これは12フレーム(0.36秒)前後と一瞬のため、流して鑑賞しているとつい見逃してしまいがちだ。しかし『DTDA』という手法を用いると、このような繊細な演技も手に取るように分るわけだ。そして、演じる清原氏の " 基本に忠実な丁寧な演技 " というものが、改めて感じられるカットだろうとも思う。


それでこの頭痛は、菅波曰く『アイスクリーム頭痛』と呼称するそうで、歴とした医学用語だそうだ。すると彼の脳裏には、 " あるひらめき " が降りてきたようだった 。


『菅波 : あ・・・ 』

『百音たち : ん? 』

『菅波 : 永浦さん、いい方法を思いつきました。』

『百音 : ん? 』

第13週62話 より


*『アイスクリーム頭痛』によって、菅波は " あるひらめき " が降りてきたようだった [第13週62話より]


後日に菅波の " ひらめき " を、鮫島のプロジェクトで試みることになる。



○二人は・・・" 同じ目標に取り組む姿 " が本当に良く似合う


『アイスクリーム頭痛』からヒントを得た菅波と百音は、レース中の深部体温の上昇を効果的に抑える方法として " アイススラリー(液体に微細な氷の粒が混じったシャーベット状の飲み物) " の摂取を鮫島に提案し、早速テストしてみることになる。


*レース中の深部体温の上昇を効果的に抑える方法として、 " アイススラリー " を鮫島に提案する百音と菅波 [第13週62話より]


さて、脱水とスポーツパフォーマンスの関係性ついては、かなり昔から知見がある。約2%前後の体内の水分損失でパフォーマンスの低下が認められるため、アスリートは水分摂取について、昔から非常に関心が高い。

しかし " アイススラリー " について、スポーツ関係者が関心を持ち始めたのは、筆者の知る限りだと2010年代の半ばぐらいからで、その情報がアスリート達に伝わり始めたのが2018~2019年ぐらいと、最近のトレンドということになる。この撮影が2021年に行われていることから鑑みると、比較的に最新のスポーツ医学のエビデンスを脚本に組み込んでいる印象を感じる。このような視点からも、制作者側や脚本を担当した安達奈緒子氏の取材力が、抜群であることが分ると思う。


それでレース中にアイススラリーを導入した場合に、『アイスクリーム頭痛』が発生すれば、アスリートのパフォーマンスの足を引っ張ってしまうことにもなりかねない。しかし鮫島は、平然とアイススラリーを飲み干してしまう。

また、レース中に、粘性の高いアイススラリーをボトルから吸い込むためには、相当な負圧が必要になる。呼吸器系の能力が問われる車いすマラソンの局面では、アイススラリーを吸い込むために呼吸器系に過度な負担を強いらせることも、パフォーマンス低下の要因にもなりかねない。しかし鮫島は、アイススラリーを容易に吸い込む能力を持っていた。彼女の呼吸機能のレベルの高さに、驚きを隠せない百音と菅波。


*粘性の高いアイススラリーを、ボトルから容易に吸い込む鮫島に、驚きの驚きの表情を見せる百音と菅波 [第13週62話より]


アイススラリーによって、深部体温の上昇を抑えることに光明を見出した百音と菅波は、さらにボトルに取り付けるチューブ径や氷の粒子の大きさを検討し、試行錯誤していく。

そして、アイススラリーを導入するとその効果は覿面で、気温が上昇しても鮫島のパフォーマンスが低下しなくなっていった。その手ごたえを感じざるを得ない百音と菅波だった。


さてこの東京編で、なぜ鮫島にまつわるエピソードを入れてきたのか? なぜアイススラリーに関するエピソードを入れてきたのか?

もちろん、この第13週が放送されているタイミングでは、現実社会においては1年延期された『東京2020パラリンピック』が目前に迫っていたわけだ。その話題に便乗しようという狙いがあったことも事実だろう。しかし・・・ 筆者には、この話題をストーリー展開に入れる理由が、それだけではないように感じられたわけだ。この画像を見て頂きたい。


*鮫島のプロジェクトに携わることで、再び " 同じ目標に取り組む " ということになった百音と菅波。二人は " 力を合わせて目標や課題に取り組む姿 " が本当に良く似合う [第13週62話より]


百音と菅波は、二人で力を合わせて " 同じ目標に取り組む姿 " が本当に良く似合う・・・ そうなのだ。実はこの作品では、どの編においても、百音と菅波は " 同じ目標に取り組む " というエピソードを意図的に入れている。

例えば登米編においては " 百音の気象予報士資格試験の合格 " というものが、二人にとっての共通の目標であったわけだ。また、この後の気仙沼編では " 命を守る " ということをテーマに、災害における避難行動と医療との連携というものが、二人にとっての共通の目標にもなっていくわけだ。

このように、百音と菅波はお互いの専門分野は違っても、その専門的な知見を組み合わせることで足りない要素を補完し、共通の目標や課題をクリアしていく。まさに、


[ ニコイチ ]


といった言葉が、二人の生き方を完全に体現しているのではなかろうか。したがって鮫島にまつわるエピソードが、百音と菅波にとって東京編での、お互いに力を合わせて克服していかなければならない " 二人にとって共通の目標と課題 " として設定する狙いがあったのではないかと考えているのだ。



○ 力を合わせて " 同じ目標 " に取り組んでいれば、お互いを近くに感じる。決して・・・ 寂しくなどはない


2016年9月17日となり、百音が21歳となる誕生日を迎える。『汐見湯』のコミュニティースペースに、百音と親しい仲間たちが一堂に会した。しかしそこには・・・ 菅波の姿は無かった。


*第13週62話より


さて、菅波が「チーム・サメジマ」のプロジェクトに合流したのが2016年9月6日。


*第13週61話より


このプロジェクトに合流できたのは、菅波曰く「強制的な10日間の夏休み」があったからとなれば、 " 9月15日まで " が夏休み期間となり、翌日からは再び通常の勤務が始まるという時間経緯となるのだろう。翌日からの東京での勤務も当直などが入ってくることも考えられるため、菅波が実際に誕生日パーティーに参加できるかどうかは、かなり不透明だ。


それで野坂碧(演・森田望智氏)が意外にも神戸出身ということで、鮫島と関西ネタで盛り上がる中、さらに意外なことに内田衛(演・清水尋也氏)が、学生時代にモデル経験があるという事実に、一同が驚く。


*内田衛(演・清水尋也氏)が、学生時代にモデル経験があるという事実に、一同が驚く。そのことで、明日美は内田に興味を抱いたようで、積極的にアプローチする [第13週62話より]


そのような意外性もあってか、明日美は内田に興味を抱いたようで、積極的にアプローチする。その様子を傍らで目にする百音。『スーちゃん・・・』とその行動力に感心する百音だった。


そうこうしているうちに、鮫島が銭湯に入りたいと申し出る。百音と菜津の二人で介助することになった。バックヤードで語り合う二人。


『百音 : ありがとうございました。今日、楽しかったです。 』

『菜津 : そう? よかった。でも、ただの飲み会になっちゃったね。』

『百音 : いや、いいんです、いいんです。ふだん聞けないような話が聞けたんで、面白かったです。』

『菜津 : プレゼントも。結局、何も・・・ 』

『百音 : 実家から、いろいろ送られてきたんで・・・ あっ・・・ そうだ。宇田川さんにも「ありがとうございました」って伝えてください。』

『菜津 : え? 』

『百音 : あの・・・ あの、すっごく立派な字、宇田川さんが書いてくださったんですよね。』

『菜津 : うん。ちょっと頼んだら、朝には、もうバ~ンと。』

『百音 : ハハハ 、すご。』

第13週62話 より


*百音の誕生日を祝おうと、菜津はバナーに文字を書くことを宇田川に依頼していた [第13週62話より]


そして菜津は百音の表情を窺いつつ、それとなくこのように問いかける。


『菜津 : 菅波先生も、来られればよかったのにね。』

第13週62話 より


*菜津は百音の表情を窺いつつ、『菅波先生も、来られればよかったのにね』と問いかける [第13週62話より]


この菜津の問いかけに対して、百音はこのように答える。


『百音 : ああ、先生。登米の、あの・・・ あっ、宮城のほうの診療所で、訪問診療もやってるんですよ。そこで診てる、おばあさんの具合がよくないって、連絡入ったみたいで・・・ 』

『菜津 : ああ、そっか。』

『百音 : ああ、でも「だいぶ落ち着いた」って、さっき。』

第13週62話 より


ということは、菅波が訪問診療で担当している患者の状態が良くないため、急遽、登米へ向かったという状況というところだろう。


さて誕生日という日に・・・ 菅波がいない。百音の心情を慮りつつ、菜津が問いかける "このシーン " を皆さんはどのように捉えましたか?

百音のその表情は、周辺にその寂しさを悟られないようにと、あえて自然に振る舞っている・・・ というようには、筆者は全く感じられない。むしろ彼女自身が、 " 寂しさを微塵も感じていない " といったような雰囲気を醸し出していたことが、非常に印象的だったのだ。

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