今日、祖父がなくなった

昼頃に祖母から家に電話がかかってきた。

祖父が心臓発作で倒れて救急車を待っているところだという旨の電話だった。

祖父は以前も心筋梗塞で倒れたことがあってそれでも今は元気にやってるから今回も大丈夫だろうとどこか軽く見ていた

加えて電話に出たのは兄で、彼から間接的に聞いただけなのも相まって、実感が湧かなかった。

なので私は祖父宅に向かうでもなく、次の電話を家で待つことにした。

今思うと、この時の電話口の祖母の心情はどのようなものだろうか。想像しようにも、私の微塵もない想像力ではまったくできない。

すぐさま家を飛び出した兄から追い打ちをかけるようにラインがきた。

もう持たないかもしれないから病院ではなく家に直接来てくれと。

そのメッセージを受け取るや否や、服だけ着替えて急いで電車に乗った。しかしこんな時でさえ、私は、いつでも作業できるようにと、いつも持ち歩いてるファイルとパソコンをカバンに入れることを忘れはしなかった。

家から電車と歩きで祖父宅まで1時間弱なのだが、この間、私はさらなる様子を確認するラインはしなかった。母がたまたま、今日の朝からスマホが壊れていたことを知っていたこともあり、ただただ兄から家に来てくれとのラインだけ受け取って、電車に揺られること約30分。どうなったのかほんとにわからなかった。まったく。

今、祖父母宅の最寄り駅から歩いてるところだ。久しぶりの道。どんどん家へと近づく。

祖父の家の前についた。

いつもは何気なくあける扉も今日は少し怖い。少し構えた。

私はこの時点ではまだ、祖父はどこかの病院に救急搬送されていて家にはもういてないのだと思っていた。

しかし母が言った。「葬式の準備しなきゃいけないから片付けて」と。

ふと横を見る。そこは仏間だ。

ガラス障子越しにぼんやり見える。明らかに盛り上がった布団。

ここでようやく私はすべてを理解した。

祖母いわく、死亡推定時刻は午前四時。眠っているところに心臓発作がきたのだろう。その日、祖父はこたつで寝ていて、うつぶせになっていたようだ。祖母はてっきり寝ているのかと思って、なかなか起きないから昼頃に、起こそうと声を掛けたらもう冷たくなっていたのだと。

寝ているだけだと思ってそのままにしていた祖父がその時にはすでに死んでいたことを後で知った祖母は何を思ったのだろう。

ちなみに、母は電話がかかってくる約30分前に祖父母宅に向かっていつものように出勤していて、壊れたスマホのせいで、何の連絡を受け取ることもなく、いつも通りに実家につくと、そこにはパトカーが止まっていたらしい。死体検案のためにだ。

今日は祖母は気丈にふるまっていたが、あわただしくお通夜やお葬式が過ぎていった頃にはどうなるのだろう。母も悲しみよりも驚きが隠せないといった様子だったが、日が経つにつれ、きっと残された家族は、実感が徐々に増していくのだろう。

持病のせいもあって、覚悟していたところはあるにしろ、それでもこんなにも早く、祖父の死がやってくるとは誰も思ってもみなかっただろう。

かく言う私も、実感がないばかりか、いつものように慌ただしく片づけをしている母と祖母と兄を横目でみながら、ぼんやりスマホをいじっていた。なんて薄情な人間なんだろう。だがやはり、もう一度祖父の顔を見ようと、死体の顔の上に乗っかっている白い布を自分でどかすことはできなかった。

祖父はなくなったが、祖母はまだまだ元気だ。祖父母宅は自営業をやっているので、会社はどうなるのだろうかとか、これからがかなり大変そうだというのが一番の感想だ。祖父の家は昔の田舎の家なので、かなり大きく、ざっと数えて9LDKくらいはあるし、居住スペースだけでなく、製造所や売り場もある。もちろん、トイレや台所も2個ある。あんな大きな家に、一人残された祖母はどうなってしまうのだろう。

長男は東京在住なので、しばらくは長女である私の母が泊まり込みで付き添うことになるだろう。会社のこともあるので、何なら母は今後実家でもこっちの家でもどっちで暮らしてもいいくらいだ。そしたら父はひとりになる。兄もそろそろ出ていく。県内の大学に通う私。今の大学は祖父の家から通ってもこの家からでも同じくらいの距離。どこか心の中で思う、「あ~また私ここから出られないや」。ここにいなさいと言われたわけでもないのに、どんどん都会へと出ていく従妹や兄弟を見て、田舎に残ってる母や父、祖母たちを残していけないと勝手に気負っている。今日祖父が亡くなったというのに、そんな遠い遠い心配をしているようだ私は。

さらに言えば、私はそこまで動揺することなく、無機質に文字を連ねてこうやっていつものように毎日投稿を続けている。何なら、明日の授業のこととか、締め切りの迫っている申請書のこととか、ゼミの課題とか、自分の心配をする余裕さえある。相変わらず、薄情でどうしようもない人間だ。しかし、私はどのように振る舞うのが正解だというのだろうか。

小一時間前、父がたの祖母から電話がかかってきた。「行ってしまった方は楽だけど、これから残されたおばあさんの方が大変ね」と。父方の祖母も、私が幼稚園の時に、旦那さん、私の祖父をなくしている。まったくその通りだと思った。内心、祖父母宅へ向かう途中、祖父の心配ではなく、祖母の心配ばかりしていた気がする。

私なんぞにご支援いただける方がこの地球上におりましたら、もう控えめに言ってあげみざわエクスプローションします。