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【瓦版】一日の終わりに印をつけて

セックス帰りは高確率で土砂降りだ。
わざわざ雨の日に呼ばれてるんじゃないかと、最近は思っている。

次の用事があったから、ピロートークはキャンセルして服を着て外に出た。新品の傘を貸してくれたことは感謝したい。

さっきから何度かけても次に会いたい人は電話に出ない。ドタキャンだろうか。コンビニの中をうろついて時間を潰すのも限界に来ていた。さっきかなり頑張ってしまって筋肉痛。

このまま今日持ち帰れる思い出がさっきのシーンだけだとすると、かなりアンラッキーになる。

私は一日の終わりにキッチンに飾ってある百均のカレンダーに、いい日は丸を、わるい日はバツ印を書き込むことが日課になっている。人生でただ過ぎていく日を、なにか達成感のあるものとして記して覚えておきたいからだ。時々自分がいま生きているのか死んでいるのか分からなくなる。記していくことで、生きていることの実感に繋がっているのだ。

一年経ったら、丸とバツが何個あるか集計して、競争相手がいないゲームで勝った負けたの勝負をしている。去年はバツが多かった。今年は一日一日を大事にしていきたいと思っている。

コンビニではイートインスペースがあったので、チョコレートを一箱買ってそれを食べ終わるまで次の用事の相手を待とう。

レジには「研修中」のバッヂをつけた、店員が直立不動で立っていた。多分、緊張から歯を食いしばっている。

「いらっしゃいませ!」
チョコレートをレジで差し出すと、変に慣れた挨拶でもなく、大きな声でハキハキと自分に掛けられた挨拶につい笑ってしまった。

正直、いま聞きたい声量ではない。

「…元気いいですね」
「あ、失礼しました」
「いや、いいんですよ。いい挨拶」
「昔から声が大きいって言われるんですよ」

彼はチョコレートをスキャナーに通すと、店のテープを剥がしやすいように端っこを折ってチョコレートのフィルムに貼った。数十秒後に、私がそこのイートインスペースでバリバリむしりとってしまうのになんて意味ないんだろう。

「すいません、貼ってもらったけどそこで剥がしてすぐ食べちゃいます」
「失礼しました。購入されたぞって意味でした。ゆっくりどうぞ」

イートインスペースに座って、フィルムを剥がしながら店内を見渡すと、私だけしか客がいなかった。

チョコ一粒を口に含み、また次の予定の相手に電話をかける。出ない。外の雨はどんどん激しくなっている。

直立不動の店員は、イートインスペースまで掃除をしに来た。ガチャガチャ音を立てて騒がしい。なんで今なんだ。

「失礼します」と言いながら、私の席の下までホウキを入れてホコリを集めている。ちりとりの使い方が絶望的に下手くそである。掃除しているというより、汚している。

「あなた、緊張してるね」
「はい…今日から独り立ちでして。接客業もはじめてです」
「誰だってはじめはそうでしょ。緊張もしますよ」

なぜ私は励ましているんだろうか。イライラする。はやく次の予定に移って店を出てしまいたい。チョコレートはまだ残っている。

「ずっと家に引きこもってて、やっとこのバイトから人前に出たんです」
「すごいじゃないですか」
「全部が怖くて。でもこうやってお客さんと何気ない会話をできたのは自分にとってデカいかもです。急に自分語りすいません。話し慣れてないから、ちょうどいい会話量が分からないです」

男の顔を見上げると、かすかに震えて笑っていた。そんな記念日みたいな顔をしないでくれ。

「いやいいけど。じゃあ今日、良い日ですね」
「はい、ちょっと緊張もほぐれてきました」
「ふーん、簡単だな」

私はなんだか全身がムズムズしてきて、残っているチョコレートを男に渡して走って店を出た。

まずい、傘を忘れてしまったが、この言いようのないムズムズから逃げるには、足を止めるわけにはいかない。

どんどん濡れていく身体に、振動が伝わって鳴って、次の予定の相手からの着信だと分かったが無視した。

早く家に帰って、カレンダーに印をつけにいこう。今日はどっちだ、どっちに自分を傾けていいか、まだ悩む時間だけはある。

毎日、瓦版のように世の中で起きたかもしれない、いや起きてないかもしれない個人的大事件を軽く書き連ねていきます。世の中、苦しいニュースばかりで耐えられないので自分で書くことにしました(動物が産まれたニュースばかり希望)。完全見切り発車小説、としとこう。瓦版があった当時、2〜3文で売られていたようなので、今回から書いていく瓦版も100円にしたいです。これを最後まで読んで気に入ったら100円サポートしてください。やった〜。

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思いっきり次の執筆をたのしみます