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その感覚のままでいて

洗面所で顔を洗っていると三歳の息子が歌いながら後ろを通っていった。

「きみの おっぱいは せかいいちー」

かわいらしい声でなんとも大胆に。

「なにその歌?」

「すぴっちゅ」

嫁に確認すると、最近その歌詞が入っているアルバムを部屋で流していたらしい。

アルバムだから、何曲もあるじゃん。しかも曲の中にいろんなフレーズあるじゃん。まあ、いいや。

いや、ちょっと待てよ。

おしゃべり大好きな彼は、家でのことを保育所の先生によく話しているらしい。

もし彼が何気なくこれを保育所で歌えば。。。

僕が先生ならこう思う。おうちの人が歌っているんだろうねって。
そんな歌を歌うのはきっとお父さんだよねって。子どもの言葉のほとんどは親の口癖だ。

まあ、いいか。別に。と思いながら歯磨きにとりかかる。

いや、だめだ。

息子のお気に入りの先生は、若く、可愛く、そして胸が大きい。

次会った時に

「こんにちは」

「あっ。おっぱいの好きなお父さんですね」

みたいな会話があったら耐えられない。そこでいそいそと釈明するのもかっこわるいし、かといって、えーそうです。とも言えない。まあいいや、そんな会話きっとないから。

「その歌、歌っちゃだめだからね」というと「わかった」と笑顔でうなずいた息子。その笑顔がまた怖い。

子供へのやっちゃダメは、やることを助長するときもある。ほんとに大丈夫だろうか。かといって先生に「うちの息子。君のおっぱいが世界一って歌ってませんでした?」とも聞けない。

まあいいや。考えても仕方ないし。なによりちょっと面白かったから。

マサムネ氏は知らない。彼によって、ある青年がある保育所の先生の間でおっぱい好きというレッテルを張られることを。こんな状況がおきるなんて歌詞書いてる時に想像できないだろうな。それはそれでまた一興。

最近、そんな息子の言葉に笑ったり、素敵だなって思うときが多い。

ちょっと前も、深刻そうな表情で僕のところにきた彼。もともと下がり気味の眉がいつも以上に下がっている。

「おとう。今日ね、数えれんかったんよ」

数えられるようになってくると、なぜかやたらと数えたがる。数え天狗を考えた人って本当によく子どもを見ているなって感心する。

「何を数えられなかったの?」

「あめ」

「あめって空からふる雨? 傘をさすやつ?」

「そう」

思わず頭をなでた。そうか雨を数えようとしたのか。すてきだねー。僕もそんな時があったのかな。なんかしんみりと暖かくて、そして僕は大人になっちゃったなーとちょっぴり寂しくなった。

寝る前に娘にせがまれてコトワザ問題を出していた。

「ねこに?」

「こばん」とおねえちゃんはさすがに答えてくる。

息子が張り合うように「僕にも問題して。問題して」と言ってくるので

「ぶたに?」ときくと

「ぶたにく たべたいなー」

なんかそれでもいい気がする。もりもり食べてどんどん大きくなっておくれ。

その感覚のままで。どうぞ自由に楽しく過ごしてほしい。

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