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作家の田丸さん「物語の発想法を学ぶ」で、物語をつくってみた~「老夫婦経営の高級ホテル」~

2021年8月12日(木)に、ショートショート作家・田丸雅智さん講師のオンラインイベントに参加しました。

そこで教えてもらった「物語の発想法」から、オリジナルストーリーを作ってみました。

ショートショートストーリー「老夫婦経営の高級ホテル」


ギィィィ… と重い扉が開く。

文化財にでも指定されているかのような、歴史感じる建造物。どうやらここは、ホテルのようだ。

ダークブラウンを基調とした重厚感のあるロビーには、ゆったりとしたクラシックが流れている。

「私に、生きている価値はあるのだろうか?」

「シュヴルール」は、そう感じた人の目の前にだけあらわれる、最高級のホテルだ。

開いた扉から漏れるコーヒーの香りにつられ、人々は歩をすすめる。ロビーに入れば、背中にべったり張り付いた疲れと憂鬱は消え去り、肺いっぱいに酸素が入る。呼吸がしやすくなる。

ホテルのフロントで置物のように佇んでいるのは、丸眼鏡をちょこんと鼻にのせた白髪の老人だ。もう少し受付のテーブルが低いほうが作業しやすいんじゃないかというくらいの身長だけれど、彼の表情は穏やかだ。

無言のまま差し出されたルームキーを受け取り、木製のエレベーターにのる。

通された客室のドアは開いている。中をのぞきこむと腰のだいぶ曲がった老婦人がベッドを整えている。フチに控えめなフリルをあしらった白いエプロンが、なんだか愛らしい。

こちらの存在に気付き、やさしく笑いかけてくれる婦人の鼻には、先ほどの老人がかけていたのに似た丸眼鏡がのっている。


老夫婦が経営するこのホテルは、1泊 65,000円。

え、その金額はちょっと…と思うけれど、ここには余りあるほどの癒しと、心を満たす何かがある。館内のすみずみにまでいきわたる、労りのにおい。諦めることへの執着がゆるやかに解けていく、ひだまりの空間。

ここに来た人々は、誰もが「許された」気持ちになる。


だけれどこのホテル、宿泊客が

「やってもらうのが当たり前」

と思った瞬間に、突然消えてなくなってしまう。

宿泊客は気付いた瞬間、灰色のシルクのパジャマを着たまま、都会の路上に1人取り残される。

このとき、背後から近づいてきたタクシーにひかれないよう、注意しなければならない。


【ワーク1】思い浮かんだ言葉を書く

イベントで教えてくれた「物語の発想法」はシンプルながら、とてもおもしろいものでした。その方法をここに書き記します。

1、思い浮かんだ言葉を10個書く 

夢、父親、高級ホテル、事件、親切なおばあさん、不良少年・少女、自転車、寂れたゲームセンター、非常階段、時間

2、1からひとつ選び、思いつくことを書く

選んだ言葉:「寂れたゲームセンター」

・田舎町にある
・年配夫婦が経営している
・壊れたまま放置
・ジャンケンポン
・引くとうるさいイス
・コンクリートの壁
・古めかしい電子音
・電気コードが地面に走っている
・入り口は引き戸
・20時に閉まってしまう

【ワーク2】かけ合わせて、不思議な言葉をつくる

2と1を組み合わせて、不思議な言葉をつくる

・年配夫婦が経営している高級ホテル
・田舎町にある夢
・年配夫婦が経営している非常階段
・ジャンケンポン事件
・古めかしい電子音のする父親
・入り口が引き戸になっている夢
・20時に閉まってしまう夢

【ワーク3】不思議な言葉を説明する

選んだ不思議な言葉:「老夫婦が経営する高級ホテル」

それはどんなもの?

クラシック調の重厚感のあるロビーには白髪の老紳士。通された客室には腰の曲がった白いエプロン姿のおばあさま。気品のある老夫婦が経営する歴史感じる高級ホテル。1泊65000円

それはで、どこで、どんなときに、どんな良いことがある?

そのホテルは「私に生きていい場所はあるのだろうか?」と心の中で思った人の目の前にだけ、急にあらわれる。扉がゆっくりと開き、人々は自然に中に入る。ホテルのロビーに入った瞬間に、人々の気持ちは軽くなり、呼吸がしやすくなる。

それはどこで、どんなときに、どんな悪いことがある?

そのホテルは宿泊客が「やってもらうのが当たり前」と思った瞬間に突然消えてなくなってしまう。宿泊客は水色のサテンのパジャマを着たまま、何もない霞が関の路上に1人取り残される。

【ワーク4】書いたことをまとめる

ワーク1~3の手順でそろったパーツをまとめたものが、冒頭に記載したオリジナルストーリーです。

私はこれまで、noteでいくつかのオリジナルストーリーを書いてきました。

そのときはあらかじめ「オチ」だけ考えていたり、「このエピソードだけ入れる」など、あるひとつのことだけ決めて、それ以外のことは思いつくままに書いていました。


田丸さんの「物語の発想法を学ぶ」というイベントで一緒にワークをしながら物語を作ってみると、素材が楽しくわいてきて、苦もなくパーツとなる要素がそろうので、簡単にお話ができあがることに感動しました。

こんなにも躊躇せず、楽しみながらお話が書けるとは。

田丸さんの講座は3回に分けられており、まだ1回目の講座が終わったところです。1週間おきにあと2回ありますので、気になった方はぜひのぞいてみてください。無料です。


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