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管理職の”器”とは? 昇格試験プレゼンで私の個性を引き出した驚きの指示

「管理職に昇格するために必要なスキルは何ですか?」
と質問を受けました。

「一般職の業務の時に、すでに管理職の仕事が出来ているビジネスパーソンが昇格しますよ。それは管理職の ”器” を持って仕事をしていることです。必要なスキルは管理職になってからでも、身につける事ができますが、”器” というマインドは一般職の時から持っていることです」
と答えました。

そんな面談をしている時に、管理職試験のことを聞かれたので、私の昇格試験の思い出話を今日は記事にします。


管理職になるためには

かつて勤めていた会社の管理職昇格の基準は、社長を中心とするマネジメントメンバーの前でのプレゼン一発勝負でした。

もちろん、その土俵に立てる権利を得るにもいくつかのハードルは超えることが必須ですが、プレゼンだけで合否が決まるシステムです。

その会議室は、一般職社員が初めて遭遇する、とてつもないプレッシャーで押しつぶされそうな場所なんです。

圧倒的な成績と人間的魅力を兼ね備えた先輩たちが、プレゼン失敗で管理職試験をパスできない事例をいくつも聞いていたからです。

一年に一度しかそのチャンスはありませんので、失敗すれば、一年後となります。

私はラッキーにも、当時としてはかなり若くして、管理職試験プレゼンへのチャンスを得ることができました。選ばれた理由の一つに、私は一般職なのに、上司がなぜか取締役だったことです。

通常、一般職の上司は、〇〇長(課長、グループ長、部長、事業部長)など、数名の管理職がマネジメントする組織です。

SWATチームへの配属

当時、大型新薬発売で、私の上司、F取締役はその製品の責任者で、ガバナンスを効かさないで、直接指示を出して動かず部隊を作りたかったようです。

その5名の選りすぐりメンバー(自分で言うな!)に私は任命され配属となりました。

SWATチームと名付けられました。SWATはSpecial Weapons And Tactics(特殊武装及び戦術)の略称。

これはアメリカ合衆国の警察など米法執行機関に設置されている特殊部隊で、それを由来に名前をつけたんです。法律に則り活動する製薬会社が命名するとは思えない、かなり危険なネーミングですね。

おかげさまでSWATチームは素晴らしい成果を出すことができ、全国10支店に本社直轄10名の部隊にまで大きくなりました。

今ではその名称や組織は消えましたが、業務としては、キーオピニオンリーダーとか、ストラテジックリエゾンとか、名称を変えながらも存続はしています。

参謀、影武者、黒幕って感じでしょうね。肩書きとしては、副部長とか、副支店長とか、いった位置付けです。

今と違うのは、経費の使い方です。ビッグプロジェクトだったので、成果を出すためには、経費に上限がありませんでした。

しかし、活動は3ヶ月で結果を求められる過酷なものです。今思い起こしても、ビジネスマン時代で1番忙しく、1番楽しい時期でした。

◇   ◇   ◇

さて、話を、なぜ若くして私が管理職試験の切符を手に入れたかに戻すと、私の活動を、直属のF取締役が見ているからです。

彼が、「管理職試験を受けろ!」といえば、誰の承認もいらないわけですから。通常なら複数の管理職の推薦が必要になり、「まだ若すぎるよ」とか、実績に関係ない他の要素で選定されなかったかもしれません、私は幸運だったと思います。

プレゼン準備

会社からのプレゼンのお題は「良い組織にするために」でした。なんと、バクッとした大雑把な課題なのでしょう。

私は正解を求めて、多くの書籍から、組織運営、人材育成などの本を読み漁って、プレゼン資料を作成しました。

作成したパワポをF取締役にアドバイスもらうために相談すると、「マネジメントチームにお前ごときが組織論を語るな、ボケッ」とドツかれました。

そんなやり取りが繰り返されているうちに、プレゼンまでの期日が迫ってきます。F取締役はなかなかOKをくれません。

あるとき、彼は、
「おまえ、すべてのMR報告書から、特記事項の文字数を数えたことがあるだろう。営業成績と報告書文字数との関係レポート、それをプレゼンしろ!」 MRとは医薬情報担当者の略で、病院訪問をする製薬会社の営業パーソンのことです。

このレポートは、私が全国450名のMR報告書に書いてある文字数を全て数えて、多角的にカテゴライズして分析して、各医師ごとの自社製品の処方箋推移と特記事項文字数との相関関係を導き出したレポートです。

簡単に言うと、
バカバカしく、
くだらなく、
なんの役にも立たないものですw

とはいうものの、ユーモアたっぷりのレポートです。同僚にはバカウケしましたが、営業会議に用いる内容ではないことは私も同僚も百も承知です。

そのふざけたレポートをF取締役は、大事な大事な大事な管理職プレゼンで発表しろと言うのです。

えっ〜

”良い組織にするために” がプレセンのタイトルです。 ウケ狙いのレポートをどのように使えばいいの???

彼はさらに、こうアドバイスを付け加えました。

「おまえの実績を表現して、おまえのキャラクターを見せつけろ! 書籍に書いてあるような人が考えたことじゃない、お前の頭の中を見せてやれ!」


実績って、文字数を数えた事???

正直不安でしたが、当時は、上司のF取締役は、とてもとてもとても怖い人で、いつも吠えている人です。

ガオ〜、近づくと噛みつかれて、腕の一本二本食いちぎられている同僚を見てきたので、当時若く一般職の私は、従うしかありませんでした。


プレゼンのルールと合否ポイント


<プレゼンルール>
課題タイトル:「良い組織にするために」
プレゼン時間:10分以内
パワーポイント:表紙を入れて5枚以内
質疑応答時間:20分
合計30分以内

20年以上も前の話ですが、いまでも、プレゼンの日のことは鮮明に覚えています。プレゼン時間に対して、質疑応答が長いのが管理職試験の特徴です。

<合否のポイント>
あくまでも、プレゼンは話題提供にすぎず、マネジメントチームが「良い組織にするために」の内容を真剣に一般職に求めるわけがありません。

これは管理職昇格のためのプレゼンなので、管理職としての ”器” があるかどうかだけを見極める30分なのです。

上司であるF取締役に、あとから採点票を見せてもらいました。何と採点表とは名ばかりで、各プレゼンターに対して、◯と×だけしかないのです。

客観的に数値化したレポートが用いられる社内においてこれは意外でした。プレゼンも通常は、10数項目において各項目を採点して合計点を比較するものです。

なんと単純に、「プレゼンターは管理職にして良いか? ダメか?」の2択だったのです。

10分のプレゼンに対して、20分の質疑応答。つまりプレゼン内容だけでなく、準備しきれてない奇想天外な質問や、思考を問う質問がドンドン飛んできます。

それを管理職としての  ”器” で回答できるかどうかだけをマネジメントチームは見ていたんです。

管理職昇格プレゼン発表

プレゼン当日を迎えました。私は、何度もプレゼン練習をした、「特記事項文字数と営業成績の相関」を発表しました。マネジメントチームからは賞賛と批判が両方ありました。

営業を知らないA取締役からは、「これって意味あるの?」と冷ややかなコメントが浴びせられ、「データの意味がわからないよ」と、軽くあしらわれてしまいました。

ひえ〜、やばい、、、

私はパニックになりながらも、プレゼンで説明したことが十分に伝わらなかったと感じ、言葉を変えて、データ説明を細かく始めたその時です。社長が「そのことはプレゼンで一度話しているからもういいよ」と打ち切られてしまいました。


どうしよう、どうしよう、、、


と、焦って私が言葉に詰まると、
社長は、「Aさん、どうして、プレゼンターがすでに話した内容をもう一度質問するんですか?」と、批判は社長からA取締役に向けられていたのです。

えっ、えっ、私はどうすればいいの、、、?


社長は続けて、「この着眼点のユニークさ、それに加えて、この行動力がA取締役はわからないのですか? この資料は営業会議で取り上げるべき内容です」とびっくり仰天の大絶賛!

社長は続けて、今まで一言も発言しなかった営業責任者F取締役に向かって、「Fさん、この内容を営業とマーケティングで検討してください」と指示が飛びました。

F取締役は、「はい、すでに動き始めています!」と、胸を張って答えていました。

私は内心、「このデータを使って動き始めてないぞ、Fさんはちょっと見え張ってるな〜」 と、冷静に感じるようになっていました。それは、社長とA取締役のやり取りを聞いているうちに私は落ち着きを取り戻していたからです。

このプレゼン会場で私は管理職合格したんだと確信すると同時に、F取締役は株を上げたな〜、それに比べてA取締役の立場は危ないかも、など、とても冷静に俯瞰的に会議室を見渡していました。

私たち一般職の登竜門プレゼンと思っていた会議室は、マネジメントチームにおいても、この場でのコメント力が本人達の腕の見せ所だったんですね。

当時を振り返ると、緊張するプレゼン会場でさえ、鳥瞰的視座で場を読み切ることができたってことは、すでに、私は管理職の ”器” があったんだと思います。

後日、私は無事、管理職試験合格の通知を受け、同時にA取締役の降格人事も聞かされたのでした。

まとめ

20年以上も前の話なので、美談のように書いてみました。なつかしく、当時を思い振り返ることができました。

現在、私は会社員とは無縁のセカンドライフを心置きなく楽しんでいます。それでも、現役の後輩たちが、「管理職とは何ですか?」と質問を今でも寄せてくれるのは嬉しいものです。

今回、”器” をキーワードに管理職について語りましたが、正直なところ、何事にも真剣に前向きに取り組んでさえいれば、それでいいんです。

くだらないレポートでしたが、文字数と営業成績の関係を、真剣に前向きに一生懸命取り組んだことは今でも私の誇りです!

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