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サウナにおける体温上昇

 これまでサウナにおける身体的変化について、健康影響や生理的変化、幸せホルモン分泌など様々な研究論文を紹介してきましたが、もっとも重要なことについて抜け落ちていました。

 それはなにかといいますと、体温についてです。人はなぜサウナに入るのか?それは熱を求めてです。生理的変化もホルモン分泌も、すべては熱に対する身体反応です。不自然なほど熱い環境に身を置き、なにがしかを得ることを目的に、人はサウナへ向かう訳です。

 今回はサウナ浴でどのくらい体温が上昇するかについての研究を紹介します。論文のタイトルは以下です。

健康な成人におけるドライサウナでの心血管反応と体温反応

 ポーランドの大学の先生方が行った研究で、生理学ジャーナルという権威のある研究誌に掲載された論文です。してみると、ポーランドでもサウナが盛んなのですね。

 実験に参加したのは30歳前後の健康な男性が9名。体温を計測する方法ですが、カプセル状の体温計を飲み込み、体内の温度(深部体温)を記録するという方法です。

 深部体温というのは、下の図にある核心温という身体の内部の温度です。わきの下よりも深部体温の方が1℃程度高いです。サウナにおける体温においては、その深部体温がとても重要なのですが、普通の体温計では計測が困難です。

出典:上谷いつ子編, バイタルサイン, p131, 中央法規出版, 2019

 実は普通の体温計で深部体温(核心温)を測定する方法がない訳ではありません。直腸温といって、お尻の穴から数センチ内側の部分であれば、ほぼ深部体温と同じ温度が計測できます。しかしながら、サウナで直腸温を測定していたら、変質者としか思われないでしょう。

 普通の体温計は体表面を計測するので、どうしても外気の温度に影響を受けてしまいます。なので、カプセル体温計を飲み込んで、身体のコアの体温を計測できるというのは、すごいことです。

飲む体温計 芝浦工業大学 website より

 さて、論文の内容に先立ち、先日、私が挑戦したサウナでの体温測定の結果について紹介します。体温計は市販の電子体温計で、直腸ではなく、わきの下で測定しました。

 しかし、コロナ渦が明けたとはいえ、人前で体温を測るというのは勇気がいるものです。電子体温計はピピピっと音が鳴るので、なるべく人から離れて測定しましたが、挙動不審だったに違いありません。

 脱衣場:36.5℃
 サウナ(90℃)10分×3クール目直後のわきの下の温度:41℃
 冷水浴後:36.8℃

でした。あくまでわきの下の表面温度です。

論文の実験結果

 さて、論文の実験ではどんな結果だったのでしょうか。
・サウナの条件:100℃のドライサウナ、15分(1回のみ)
・体温測定(飲み込む体温計で深部体温を測定)平均値
 サウナ前:平均37.0℃
 サウナ直後:平均37.7℃
 3時間後:平均37.2℃
 6時間後:平均37.3℃

実験結果

 という結果でした。100℃の部屋に15分は長いですね。今回の実験では、1回のみのサウナ後の体温測定です。ちなみに、Mean±SDというのは、多くの人はそのなかの数値ですよという意味です。Min.-max.というのは、一番高かったひとと低かった人です。

今回の実験結果のポイント

  • 1回のサウナで、深部体温が役0.7℃上昇している

  • 上昇傾向が6時間後も持続している

 脈や血圧と違い、体温のレンジは極端に狭いので、0.7℃とういうのはなかなかの上昇幅です。

 日本人のサウナの入り方は、サウナ室10分→冷水浴→外気浴を3セット繰り返すことがスタンダードだと思います。そうすると、深部体温はもう少し上がって、38℃程度になっているかもしれません。

 体温上昇を健康面から考えると、体温が1℃上昇すると免疫力が5~6倍アップし、逆に1℃下がると30%ダウンすると言われています。また、1℃上昇で基礎代謝が12%程度アップするので、ダイエットにも効果がありそうです(その後、暴飲暴食しなければ)。

 体温の健康への影響は、横山医院さんの websie に分かりやすくまとめられています。

 やはり、サウナの健康効果のポイントは、この体温上昇効果にあると言えそうです。

 逆に、100℃という非常に熱い環境に置かれても、発汗や循環機能の反応によって、深部体温の上昇を1℃程度に保つという身体のメカニズムについても、生命の優れた効能であることが論文で触れられていました。

 深部体温の幅というのは、脈拍や血圧などの指標として比較して、極端に狭く、柔軟性に乏しいと言えます。むやみやたらに上がったり下がったりしないものです。

 生命活動が可能な深部体温は35℃から41℃程度です。環境の温度はそれよりも幅が大きいので、体内で恒常性が保てる温度に調節する必要があります。そのために基礎代謝があり、心臓からの血流があり、筋肉の熱生産があり、発汗による熱の放散がある訳です。

 横山医院さんの情報によると、日本人の平熱は、過去60年で約36.7℃ → 約36.2℃と約0.5℃も低下しているということです。健康面から考えると由々しき事態です。

 その主な原因として、
・移動手段が発達して歩行や階段などでの運動量が減少している
・冷暖房が完備されている環境で過ごすことで体温調節機能が低下している
・仕事や人間関係のストレスにより自律神経の働きが乱れている
 などが考えられるそうです。

 言われてみると、確かにそうかもしれません。とくに運動不足は基礎代謝に大きく影響するので、しっかりと運動する習慣をもつことは、健康にとって大切なことですね。

 という訳で、前々から気になっていたサウナの体温への影響についてまとめることができ、なんだかすっきりしました。

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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