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【随筆】人生は苦難から学びを得る

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ようやく手に入れた心穏やかに暮らせる日々。それまでにはいくつかの苦難があった。現在の私はそれを乗り越えてきたことで存在する。ありふれた話かもしれないが、何処かにいる、誰かに届けば… もっと読む
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線香花火

樹々の間から海を見下ろす展望台に一人立つ。 隣には誰もいない。 中学生の時に家を飛び出し、半ば強引に住み着いたのがとある友人の家。 友人の部屋は母屋から離れた場所にあり、しばらく匿ってもらおうと考えていた。 ご両親にも可愛がっていただいていたため、上手くいけばなし崩し的にそのまま暮らしていければなどと、子供の甘い考えでの行動であった。 今でこそ有り得ない状況であるし、即捜索願案件なのだとは思うのだが、当時のまだ穏やかさが残る時代の風潮と、両親同士の話合い、父の内弁慶、そして

因果

母の許に引き取られ、父と一つ上の姉と三人で暮らした家から出ることになった。 胸から抜け落ちる感情と、新たに湧き上がる感情とが渦を巻く。 姉が心配であった。 家を出たとはいえ母と暮らす町は隣町。 会おうと思えばいつでも会うことが叶う距離ではあるのだけれど、心の中から父への想いは日毎薄れてきている。 本当ならば今も一緒に暮らしているはずだった姉は、父が一人になると可哀想だからと父の許に残った。 父は仕事から帰ると酒を飲み始め、酔ってくると二人を部屋から呼び出して怒鳴り始める。

万感交到る

ばんかん【万感】交(こもごも)到(いた)る さまざまの感慨がつぎつぎに胸中に起こるさま。 ブラウン管テレビの湾曲した画面に映し出された彼女はとても美しく、二年前まで隣にいた女性だとは思えないほどに大人びた表情を見せていた。 画質は荒いが間違いなく彼女だ。 妖艶な、湿度を帯びた艶。それでいて幼さの残る美しい瞳。 友人と並び、三人でテレビに齧り付く。 異常な興奮を覚えた。 私は小学校四年生時にあの駅も無い田舎町に引っ越した。 全校生徒300人にも満たないこの地の小さな小学校に

【随筆】悔いと恋

「私の小学校の後輩のミユキちゃんがあなたを好きなんだって」 中学二年生の夏休み明け。 同級生の女子、ミエにそう告げられた。 私が通っていた田舎の中学校は、三つの小学校から生徒が集まり学年が形成される。 その為中学校に上がってから初めて出会う同級生もいれば、先輩や後輩もまた然り。 私が通っていた小学校は一学年に二クラス。 全校生徒とその家族構成や家庭事情を把握することは田舎特有の慣習のようなものであり、把握が可能な程に狭い町とコミュニティ、そして少ない生徒数だ。 だがミエは

【随筆】悲痛

この度の令和6年能登半島地震、羽田空港での事故、年始の多数事件が起きた中で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご家族、被災された方々に、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。 新年一本目の記事。 もちろん祝いの言葉から書き始めるつもりであった。 少なくとも1日16時までは。 その時間、神奈川県では激しく揺れたわけではないが、船上で波に揺られるような、ゆっくりと広範囲に揺り動かされる感覚があった。 終わらない。 長い。 テレビを点けると震度7の文字。

【随筆】尊敬するということ 大切な人を大切にしようと思う

尊敬している人は誰ですか? それはどのような方ですか? どこに感銘を受けましたか? 自己啓発本のワークでよく目にする文言だ。 戦国武将、偉人、芸能人、アニメキャラを挙げる方が多いのを見掛ける。 私はこの質問に答えられない。 知識が足りていないというのもあるかもしれない。 歴史は好きな為、戦国武将や偉人にも興味があるし、それなりに調べている。 先人が成し遂げてきた事柄、それに至るまでの過程を見ると「凄いな」「素晴らしいな」「ありがたいな」とは思う。 だが、尊敬かと言われ

【随筆】やりたいことが見つからないままおっさんになった

夢や目標。 私が一切持つことが出来ないもの。 記憶の中で最後に夢を語ったのは幼稚園の頃だったか。 当時は警察官になりたいと言っていた。 その後私が夢や目標を語ることが極めて少なくなった。 私の小学生、中学生時代は常に虐げられる毎日であった。 もしよろしければ、上記記事をご覧いただければ幸いである。 そんな毎日の中で、私の自尊心は徹底的にへし折られた。 全てを否定され続け、私は自分の考えを語る際に頭が真っ白になるようになった。 正確に言えば頭には語りたいことが浮かぶのだが、

【随筆】母からもらった命 母に繋いでもらった命

現在の私を知る方にはいつも驚かれるのだが、学生時代は大小あれど常にいじめを受けてきた。 無視はもちろん、理不尽な扱い、明らかな侮蔑。 肉体的にも、精神的にも追い詰められていたと思う。 「思う」というのは、その頃の感情の記憶が曖昧なのだ。 小学四年生までは穏やかな日々を過ごしていたのだが、宮城県に転居、転校してから私の生活は一変する。 転校生というだけで物を隠されることから始まり、歩いているだけで後ろから飛び蹴りを喰らったり。 私の机が窓から投げ捨てられていたり、ありがちな話