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福祉と心理の違い

いわゆる「対人援助」というお仕事を頂くようになって、そろそろ四半世紀になろうかというところですが、改めてこの「対人援助」というお仕事について、気づいたことをお伝えしておきたいなと思います。

「対人援助」というお仕事は、もの凄く乱暴に分類すると、「福祉系」と「心理系」の2つの系統に分けられます。これはその企業や法人、団体の設立経緯や代表者の理念、受注しているプロジェクトなどによって変わってきます。

では、福祉系と心理系。この2つの系統は、何が異なるのでしょうか。

福祉系は「措置」を源流に持つ「レディメイド」な支援である。

福祉と言うのは、そもそも「お上が与えるもの」でした(です)。言い換えると「行政が福祉サービスの提供主体」なのが「措置」です。
例えばかつての高齢者介護施設などは、行政が措置として「決定」するものであり、高齢者本人には選択の余地がほぼなかったわけですね。
(このあたりは昔の研修の記憶等を元に書いていますので、多少の誤解などはご容赦下さい)

そこから、「措置から契約へ」という流れに変わり、現在に至るわけですが、改めて「福祉」を考えると、「レディメイド」(既製品)であることが分かります。

例えば、「生活保護」を考えたとき、当然「1か月に支給される金銭」というのは、決まっています。あなたが仮に、「大食漢だから」と訴えても、ビタ一文増えません。逆に「私は小食なので、そんなにお金は要りません」と辞退しても、それは通らないわけです。(医療費が無料とかは、「制度」として無料なので、別のお話しです。)

あなたが仮に、ホームレスだったとしましょう。今の自分はホームレスであり、生命の不安がある。これを「福祉」の窓口に相談すれば、大抵「生活保護が受けられるかどうか」が『その窓口で』行われる支援になります。(言い換えると、それが『福祉の窓口』の仕事ですよね。)

頼れる近親者縁者がいるかどうかを確認し、いない、またはいるけれど援助が受けられないのであれば、生活保護を受けることを「勧める」。そこからは、生活保護制度に則り、生活の基盤を整えて、「就労支援」などの支援(リスタート)につないでいくわけですね。

今私は、「あなたが仮にホームレスとして、『福祉の窓口』に相談すれば『こうなる(であろう)』というお話」をしました。

こういうお話しができるのは、福祉が「レディメイド(既製品)」だからです。

レディメイド。つまり、福祉的支援とは、「個々の事情(気持ち)はどうあれ、介護の相談なら介護保険サービスの案内、DVならシェルターなど、○○なら□□」という「制度的支援」になるわけですね。

もっと極端な例を言えば、「児童虐待」の場合、(児童虐待に該当する)全ての相談は「児童相談所」に集約されるようになっています。良くも悪くも、「相談者の意思」は二の次です(児童虐待やDVなどは、被害者がマインドコントロールに陥っているようなケースもあるわけですから、「相談者の意思」は尊重はされても優先されると決まっているわけではないことは、ご理解頂けるかと思います。)

そうすると、福祉の窓口相談者に求められる能力とは「差配的能力」とでも言えば良いでしょうか。どの制度が相談者にとって「最適な支援」を得られるかを(法律的な観点も含めて)見極める能力ということになるように思います。

心理系は「本人の選択」を最善とする「オーダーメイド」な支援である。

福祉系に対して、心理系は「エンパワメント」や「自律」という言葉を至上の価値として戴く、いわば「相談者本人」主義に近い考え方を持つ人が多数いるという特徴があります。

先の例と同じように、あなたがホームレスだけれど、生命の不安があるとしましょう。そして「心理」の相談を受けるとします。

そこでは、あなたは「自分はどうなりたいのか、どうしたいのか」を掘り下げられることになります。先ほどと違い、あなたは「自分自身について」考えなければなりません。

心理系の相談窓口は、あなたに「生活保護を勧める」ことはおそらくしないでしょう。心理系は「勧める」ことを「苦手」としているからです。

例えば「これまでに生活保護を考えられたこともあると思うのですが、生活保護を受けることについてはどのようにお考えなのでしょうか」なんてことを言って、「なるほど…国の世話を受けたくないって気持ちがあるんですね」と伝え返したり、受容することはすると思います。しかし心理系の相談担当者は「生活保護を受けなさい」とは言わないのです。

特に、あなたが「自由」を求めていて、「管理」されるのが嫌なのであれば、純粋な心理系支援者は、吾妻ひでおが経験したような、(彼の場合はアルコール依存でもあるけれど)集団生活施設を知っていたとしても、勧めはしないでしょう。(紹介程度はするかもしれませんが)

吾妻ひでお 逃亡日記

(ちなみにここでも「福祉」は「受けるもの」であるという「受動的姿勢」が無意識的にあることが分かります。)

なので、極論を言えば「あなたがホームレスのまま」いることが大事という価値観を持っており、その上で、「命の不安」を感じているなら、「ホームレスのまま」で「命の不安」を軽減する方法を「一緒に考える」というスタンスを取るのが心理系です。

なので、もしかすると、「瞑想という方法で不安を軽減することも可能ですが、瞑想の方法はご存じですか?」なんてことを言う可能性も否定はできません。

このように、福祉系とは違い「答え(支援)は一人一人異なる」オーダーメイド型の対人援助が心理系です。

自分の支援スタイルを職場に合わせることができる人が「求められる人」

このエントリーが言いたいことは、福祉系と心理系どちらが良いとかそういう話ではありません。

あなたに合う「支援スタイル」はどちらなのか。その上で、職場を選ぶときは、その「支援スタイルが職場に受け入れられるのか」。この二つが重要になるということです。

あなたが心理系の支援をしたいと考えていても、職場が福祉系なら、心理系の支援はできないことも多々あります。その逆は職場自体それほど多くはありませんが、無いとは言えません。

「自分自身が学んだことは『一つの領域の一つの考え方でしかなく、絶対ではない』と考え、多様な考え方を柔軟に受け入れることができる人」が、福祉系でも心理系でも、求められる人なのではないでしょうか。

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