見出し画像

2028年のマジック・ファイター

マジック・ザ・ギャザリング(以下マジック)というカードゲームがあります。カードゲームを嗜んでいる人ならともかく、そうでない人も「極端に高いカードがある」「なんか子供の頃遊んでる人見たことある」「駅前の大型ビジョンで目が光る人が戦うプロモーション映像らしきものを見たことがある」くらいの感覚で頭の片隅にあるかもしれません。

マジックは1993年にアメリカで生まれ、1997年に日本語版が出て気がつくと25年も経っていたカードゲームなのですが、25周年を記念して世界初となる「25th Anniversary マジック:ザ・ギャザリング展(以下マジック25周年展)」が9/11~9/17の間に開催されました。一つのカードゲームをテーマとした大型展示イベントをルミネゼロのような「普段カードゲームで使わないような展示施設」で行うケースは世界的に異例であり、そのせいかカードゲーム方面外においても各所で言及されていました(新宿経済新聞Fashion Pressなど)。

自分も長年マジックというゲームと付き合いがあり、思い入れのあるカードやイラストにも心当たりがある&単純に幼少期の思い出に耽りたいという動機があったので最終日に参加してきたのですが、人の多いこと多いこと。昔を懐かしむ人、デートスポットとして楽しむ人、単純にマジックが好きな人、理由は人それぞれでしょうがここまでカードゲームを「見る」イベントで人が集まった例は自分では見たことがありません。裏を返せばカードゲームを「見る」イベントがこれまで人を集めることができていればここまでの業界の衰退はなかったのではと邪推してしまうくらいに。

表題で2028年という数字を出しましたが、これは「現在40歳のマジックプレイヤーが定年を迎える年」になります。マジックの特徴として、プレイヤーの年齢層が他のカードゲームと比べて高いというものがあります(毎週金曜日に行われるフライデーナイトマジックというイベントに行くと年配のサラリーマンの多さに圧倒されることでしょう)。

理由としては歴史の長さもあるのですが、特に日本で初期に広がった経緯が読者年齢層の高いTRPG誌だったこともあり、国内外のカードゲームでよくある「10代で児童誌やアニメからカードゲームに入る」とは経緯が全く異なります。尤も、マジックも1999年前後の一時期にコロコロコミックで取り上げられたこともあったのですがデュエル・マスターズがカードゲームになるまでの繋ぎという大人の事情ゆえに10代ユーザーがカードゲームに入るきっかけの例として出しづらい感覚ではあります。

定年の話を出しましたが、昨今の日本でよく言われるようになった「独身40代男性の孤独」というものがあります。独身40代男性に限らず、中年の危機と呼ばれる現象で英語圏ではMid life crisisもしくはMid age crisisと呼ばれています。日本でもバブル崩壊後の90年代後半から警鐘を鳴らす人がいた現象(河合隼雄著:中年クライシスなど)であり、更に定年後は会社という長い付き合いと身分を保証する組織から切り離されることから、より深刻な状況になると言われています。

症状としては不安障害や攻撃的な性格への変化などがありますが、原因を辿ると孤独がその一つにあるようで、なぜ孤独を生み出すかというと(人にもよりますが)会社・家庭外の人付き合いの希薄化があります。希薄化の原因としてよく言われるのが「仕事が忙しすぎて趣味を持てず会社外の人間関係が生まれない」という趣味の欠落があります。

ここで趣味というワードを出しましたが、ここで40代男性が趣味としてのマジックを通して定常的な人付き合いを会社外で続けていたらどうなるでしょうか。束縛的でない人の繋がりが多ければ多いほど健康に対してプラスのフィードバックを生み出すという話は社会疫学方面の研究ではソーシャル・キャピタルとしてよく知られています(例:イチロー・カワチ著「命の格差は止められるか」)。

カードゲームという形で会社・家庭外の人との束縛的でない繋がりを得るーこれはあくまでも個人的な意見の範疇なのですが、これからのカードゲーム、特にマジックのようなプレイヤー年齢層の高いゲームの場合は若年新規プレイヤーと中年・壮年の既存プレイヤーをコミュニティの橋渡しになる希望があると想定しています(実際に自分が参加している五反野の居酒屋ガツン!のマジックコミュニティは若年層と中年・壮年層が交雑した状態になっているだけに)。

そもそも2028年マジック・ザ・ギャザリングは生き残っているのか、という疑問に関しては「先のことはわからない」の一点に尽きます。大事なのは、2018年現在においてマジックというコンテンツが中年・壮年層を会社・家庭から離れた先にある孤独から救う一手になるのではという希望です。既に救われているという人、または禍根になってしまったという人もいるかもしれませんが、一人のプレイヤーとしては救いの方が多いことを願います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?