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サステナブルと結いの精神 オンライントークイベント「サステナブルなものづくりを目指して」レポート②

3月2日のオンラインイベント「サステナブルなものづくりを目指して」のレポート第2弾です。
それぞれの自己紹介に続いてテーマトークが始まります。バズワードになりつつある「SDGsやサステナブルについて」から、地域のコミュニティのあり方まで、話は広がっていきます。

SDGsやサステナブルについて

(公山)最近SDGsやサステナブルという言葉が非常に流行っていますが、どのように捉えていますか? バズワードになっている印象も受けます。

(深井)バズワードになっているとは思いますが、注目度が上がっている点でよいと思います。

(平野)私たちがつくっているものもサステナブルと言われます。しかし、縄文時代から続く集落で脈々と続いているもので、もともとサステナブルだったといえます。
歴史から学ぶことは多くて、この土地で生きてきた80代のお年寄りは「お米は古米しか食べず、新米は取っておく。何があっても生きていける支度をして暮らしている」と言います。「身の丈をわきまえて命をつなげていく」そんな生き方を聞くと、今のサステナブルやSDGsは表面的に聞こえてしまいます。石徹白で暮らすことは持続可能な社会を学ぶことになっています。

(公山)素晴らしいお話ですね。そうした生き方は石徹白だけの話なのでしょうか?

(平野)石徹白に限らず岐阜県内、日本各地で繰り返されてきたことだと思います。山間地域で自給していくことが当たり前だった時代には、山仕事をして家畜と共に生きていくのが普通の暮らしでした。そんな暮らしが近代化によって失われ、洋服が入ってきたことで「たつけ」のような洋服以前の服も失われ、変わっていったのだと思います。

(公山)平野さんが石徹白で見てきた生き方と、現代の都市部の生き方では大きな乖離があると思います。どうあればよいと思いますか。

(平野)石徹白で暮らしてきた人たちも徐々に亡くなっていて、私たちがギリギリ見せてもらえた世代になります。本で読んで学ぶこともできるかもしれませんが、実際にその人たちを目の当たりにして初めて感じることもあります。例えば「木を植える」時にも、「100年後のひ孫のことを考えて植える」と言います。考えるスパンが圧倒的に長いです。
「次の75年を考える」深井さんの考え方はとても大事だと思います。バズワードではなく、「未来を考えて行動すること」こそ一つの答えになるのではないでしょうか。

(深井)サステナブルの話をするときに、人によって時間軸がバラバラなことがあります。10年後、50年後、100年後で持続可能な発展にも違いが出ます。「時間軸はどの程度か」は大事な視点だと思います。

(公山)深井さんの時間軸は?

(深井)75年後を考えていますが、正直に言うと5年後、10年後までは想像できても、それより先のことはわからないことが多いですね。
思い出したのですが、ケビン・ケリーの「<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則」には、インターネットの出現によって「強制的にゼロから学ぶタイミングができた」と記されています。
例えば、包丁の使い方、縫い方、これまでの暮らし方は一回学ぶとずっと使えるものでした。しかしiPhoneを持っている人ならiOSがアップデートされると誰もが操作方法など一旦ゼロベースにさせられます。インターネットの出現によって「一回学んでハイ終わり」ではなく、学べば学ぶほど解像度が上がって違う問題が出てくる。むしろ「一生マスターできない」のがインターネットの世界だと。SDGsにも学べば学ぶほど新しい問題に気づく、そんな要素があると思います。

(公山)私は現代の生き方には「型がない」と思っています。型がないから「型を破ること」もできず、「型破り」にもなれない。平野さんのお話をお聞きしていると、石徹白のおばあちゃんたちには型があるから、そこから派生する生き方もできるのだと思います。
もちろん、今は型がないかもしれないけど、どこかのタイミングで現代の生き方にも型ができてくるかもしれません。


石徹白洋品店とKAPOK KNOTのつながり

(公山)お二人はSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の卒業生で、実はつながっていますよね。お互いにどのような印象をお持ちですか。

(平野)学生時代、私は文化人類学を専攻し、カンボジアで織物を作る村に通っていました。いずれ世界で働きたいと考えていたので、まさか山奥の集落で服を作るとは考えてもいませんでした。インドネシアなど世界を飛び回る深井君は、私のやりたかったことを実現しているなと思っています。大学の後輩でシンパシーを感じていました。

(深井)マザーハウスやフローレンスなど、SFCで学んだ平野さんの世代の先輩たちが社会起業家のど真ん中にいて、多くのことを学ばせていただいていました。社会起業家のようなことをやりたいと思って社会に出ましたが、出てみるとそんな機会がないことにも気づかされました。たまたまカポックと出会って先輩たちのように事業に飛び込みました。一緒にやっている仲間たちも平野さんの世代がキャンパスで語っていたことを受け継いでいます。

それから石徹白洋品店との出会いでいうと、公山さんの影響も大きいです。環境省のプレゼンコンテストの審査員としてお会いした公山さんが石徹白洋品店を劇的に推してきたんですよ。「この人は何を言っているのか」と思いましたが、「ここまで言うのなら面白いのだろうな」と思ってお会いすることにしたんです。

(公山)平野さんとはどこでお会いしたのですか。

(深井)神戸でのポップアップで最初にご主人の平野彰秀さんにお会いしました。「限界集落の移住者のブランドづくり」ってどうできるんだろうと思ってお話をお聞きしていると「水力発電による地域づくり」の話も出てきて、すごいなと思いました。これは「何かご一緒したいな」と思って、1年経った今(2022年3月)、私が運営する銀座のショールーム The Crafted GINZAに出展いただいています。
The Craftedで各ブランドの代表者がプレゼンする機会がありましたが、石徹白洋品店は引き出しの多さが圧倒的です。彰秀さんは引き出しを2つくらいしか開けないのですが、こちらから話を振って、さらに3つ4つの引き出しを開けると、いくらでも語ってくださるんです。かといって、キラキラスタートアップのノリでもない。ライフワークとして、こういうブランドを世の中に広めたいです。

(公山)パブリックマインドのメンバーが彰秀さんと大学時代からつながっていたこともあって、石徹白洋品店を知りました。最初に馨生里さんのお話を聞いた時は衝撃を受けましたね。馨生里さんの見えている世界の深さに圧倒され、物質主義にまみれて都会に住む自分はどうバランスを取ればよいのだろうかと。
馨生里さんを、そして石徹白洋品店をもっと知ってもらいたい、興味を持ってもらいたい、という思いで伴走させていただいています。馨生里さん、水力発電による石徹白の地域づくりのこともご紹介いただけますか。

結いの精神~小水力発電による石徹白の地域づくり~

(平野)石徹白という集落は郡上市の一つの自治区です。2007年に私が初めて行った時は子どもの数が減って小学校が閉校するかもしれないという危機感を持っていました。

地域の方々には「縄文時代から続いている集落なんだよ」「一時は1300人もいた白山信仰を広める大事な地域なんだよ」と聞かされました。お会いする皆さん誰もが「この集落をなくさなないために何とかしたい」という思いを持っていて、移住者である私たちを快く受け入れてくれました。

山間地という土地柄もあって、高低差を使った水力発電を地域づくりの起爆剤にできないだろうかとはじめました。ダム式ではなくいので環境破壊もありません。

夫(彰秀)が水力発電に関わっていますが、地元の人たちが「やろう」と決めたこと大きいです。行政に働きかけ、地域の人たち全員が出資して、発電するための農協を設立しています。地域の代表者が「自主財源を持ち、結いの精神をもって地域を復活させることが大事だ」と働きかけたのが、全戸出資につながりました。
自主財源で発電所をつくり、発電した電力の半分を地域で使い、残り半分を売電することで財源を確保しています。
さらに地域づくり協議会で子育て移住者を受け入れており、存続の危ぶまれた小学校も保育園も子どもの数が増えて持ち直しています。

(公山)「結いの精神」はいい言葉ですね。自治権、そして自分たちの財源を持っている集落は強力でつながりも強いと思います。限界集落なのに移住者が増えているなんて、聞いたこともないですし、だからこそ映画「おだやかな革命」にも取り上げられたのだと思います。
本来ならコミュニティというのは「結いの精神」でつながりつつ、自治権が取り戻されるのだと思います。都会ではつながっていることを感じずに生きているのかもしれません。結いの精神を都会の今の生活につなげていくのは難しいかもしれませんが、石徹白などでそういうことが起きていることを知るのは第一歩ですね。

(深井)結いの精神は村にしかないのでしょうか?

(平野)まちのコミュニティでも、助け合いとかゆずりあいとか可能性はあるはずです。

(公山)カポックの原産地であるインドネシアにも集落があると思いますが、どうですか。

(深井)お互いで助け合っているとは思いますが、ちょっとニュアンスが違う気がします。「結いの精神」を英語や現地の言葉でどう表現するのかがわかりませんし。

(公山)結いの精神は奇跡なんですかね?

(深井)電車で人が倒れたときに「困っている人がいるから助けたい」と思う一方で、様々な理由から「なかなか助けられない」という話もありますよね。人は進化する一方で、そういう大事なことが失われているのかもしれません。
例えば「石徹白で泊りがけのワークショップを通じて都会では得られない経験をしてもらう。ワークショップが終わってからも『たつけ』などを身に着けることで、その時の経験をまた思い出させてくれる」そんな企画も面白いかもしれません。

クラファンと「結いの精神」

(公山)視聴者から質問が来ています。「結いの精神や助け合いのはなしがありましたが、現代でいうとクラウドファンディングを思い浮かべます。結いの精神とクラファンで違いはありますか?」
お二人ともクラファンをやっていましたよね?

(深井)クラファンは思いに共感して買ってもらいますが、KAPOK KNOTの場合は「リターンとしていい商品で返す」ことを約束して進めています。
結いの精神では「無償の労働力を提供」しますが、クラファンでは支援に対して「いいモノでお返しする」という点で違いがあると思います。しかし気持ちの部分では一緒だと思います。

(平野)結いの精神では労働の受け渡しがありますが、そこで生まれるコミュニティはお互いで「負の部分」も受け止めています。
失敗したり、何かあった時に受け止められるコミュニティだから「結い」もできる。クラファンは「いいとこどり」なので、よい仕組みですが、間違えや失敗があった時に受け止められるのであれば「結いの仕組み」だと思います。

(公山)なるほど。クラファンは最初の一歩で、そこから先につながる何かができるとよいのかもしれませんね。
NPOや社会課題に取り組む組織でも、もっと人が循環して協力し合えるようになると、主体性が生まれ、お互いに「負の部分」を受け止めるところまで世の中が進んでいくとよいと思います。結いの仕組みとはどんな仕組みになるのか、これからも考えていきたいですね。

続きはレポート③で

トークイベントはまだまだ続きます。レポート③では「サステナブルなものづくりと大量生産」から、「消費者のマインドと生産者のマインド」そして、私たち誰もが持っているかもしれない「地域に根差したストーリー」、まで縦横無尽に広がっていきます。

<おしらせ>

石徹白洋品店 
展示会  山笑う、「たつけ」でゆく(東京・銀座)

日時 3月12日(土)13日(日)10:30-18:00(※終了しました)
会場  The Crafted GINZA 東京都中央区銀座1丁目6-2 1階 https://thecrafted.jp/


KAPOK KNOT
サステナブルブランドが集まるPOPUPイベント「KAPOK marche」
日時   3月3日(木)~3月27日(日)
営業時間 12:30~17:30
開催場所 日本橋ショールーム「Farm to Fashion Base」
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1丁目10-1 宮永ビル 1F
※三越前駅A1出口から徒歩2分
https://kapok-knot.com/pages/kapokmarche


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