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韓国の縦スクロール漫画作家も苦労しているらしい

 上記記事を見て日本との違いなど興味深かったので、ちょっとそのあたりについて書いてみようかと思う。

韓国縦スクロール漫画作家の個人比率、つまり非スタジオ率

 一番驚いたのがそこの部分。記事中の記載を改めて抜き出すと、

  • すべての過程を単独で創作:39.3%

  • 単独創作(補助作家=アシスタントあり):19.0%

  • (ほかの)作家と共同作業:12.9%

  • 臨時雇用しての単独創作:11.5%

 ということらしい。3番目の「(ほかの)作家と共同作業」が微妙に怪しいが、基本的に「個人」による作業だとすると、合計で82.7%もの作家が個人で縦スクロール漫画を作っているということになる。
 これには割と驚いた。基本的には分業で作っているものだとばかり思っていた。日本には同じような統計はないと思うが、私が知っている限りほとんどの作品は作画スタジオが入っており、原作、ネーム、作画、彩色などが作業として分かれている。場合によっては仕上げが分かれているケースもあるし、epubデータを組む人はさらに別といったケースもあったりする。
 もし、上記記事の内容が本当にそうであるなら、日本でマンガ家さんが漫画を描くのと同じように個人の作家さんがフルカラーの作品を作っていることになる。

作業分量と収入

 記事によると作業分量として1話にかかる日数は平均すると8.2日らしい。で、1話あたりのコマ数は『作家調査』で64.6、『事業体調査』で66.8とのこと。大体8日で65コマくらいの作業分量ということだろう。1週間ペースなら、56コマくらいか。
 比して日本の漫画は週刊漫画だと16~19ページ程度になり、月間漫画だと24~32ページ程度になる。1ページあたりのコマ数は大体6~8ページなので、週刊漫画だと計算では96~152コマ。ざっくり120コマあたりが中心だろう。月間だと144~256コマ。12倍して50で割ってざっくり週刊ペースにすると、34~61コマになる。
 つまり、韓国の作家さんは月間漫画のマンガ家さんと同じくらいのコマ数をカラーで書いているということになる。もちろん、背景の書き込みなどは日本の漫画の方が細かかったりするので、一概にどうとは言えないが、これはこれで非常に恐ろしいペースだ。
 その上で収入だが、記事によると年間ずっと連載していた作家は9840万ウォンで、ドル換算すると73,800ドル、韓国の平均賃金がOECDのデータによると、購買力平価換算で年間44,813ドルということなので、平均賃金1.64倍。 日本の同購買力平価換算の平均賃金が年間40,819ドルということなので、66,943ドル。日本円にすると、1000万円程の収入という収入感になる。
 一見大きくもらっているような数字のようにも思うが、3000万ウォンぐらいは創作活動経費として出ていくようなので、収入感としては平均700万程度になるだろうか。多いような少ないような…。ヒット作となるのはそんなに多くないので平均化すればそんなもんかという感じもする。

Naverとkakaoの利益

 さて、その取引相手になるプラットフォーム側の利益の状況だが、まずはNaverのIRデータから数字を拾ってみた。


  • WebtoonのはContentsセグメントで2023年の売上は15,031億ウォン

  • 2022年は10,664億ウォンだったので、140%に増えた。

  • 昨年第4Qから大きく増加していて、日本のLINE漫画が大きく伸びたらしい。

  • その規模が2023年は通期で影響しての大幅増。

  • Contentsセグメント利益は2022年(ー)▲3699億ウォン→(ー)▲2294億ウォンと、赤字が1405億ウォンほど小さくなっている。どうやらSnowの投資がまだまだ大きい模様。

というわけで、Naverは大きく売上は上がっているけど、Webtoon事業の利益についてはようわからない。といった感じ。ただ、赤字縮小の大きな要因はWebtoonの好調によるように思える。

一方kakaoはどうかというと

  • kakaoのpiccoma事業はSTORYセグメントに含まれる

  • セグメント売上は2022年9210億ウォン→2023年9220億ウォンなので、ほぼ変わらず。

  • piccomaの売上は4820億ウォン→5070億ウォンなので増加。

  • ただし、円安影響が流通総額の増加を相殺したということなので、円安で結果的にあまり大きく増えてないぞということらしい。

  • セグメント利益に関する記載はなし。

  • kakaopageはどうやらportalセグメントのようなので、ちょっとWebtoonの全体数字は拾えない…。

といった感じ。
 どちらも扱い増えているので、少なくとも販売は増加してそうだが、作家さんへの還元はそれほどストレートにいっていないのかもしれない。
 確かに、プラットホーム側が強いと作家側の交渉力は相対的に落ちるから、さもありなんという気もする。
 創る人がいてこそのコンテンツ産業であるはずだが、ポータルビジネスやっているIT系の会社はその辺割と軽視しがちな部分がある。大手こそ率先して関連業界に還元していかないとその業界があまり強くないまま終わったりするので、そこは考えてほしいところ。

 というわけで先行している韓国の縦スクロール漫画の作家さんもウハウハではないなというのが結論。
 で、副次的に、LINE漫画もピッコマも日本での販売が増えているのが見えて、日本コンテンツも頑張らなきゃといった状況が見えた。

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