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排卵痛を舐めてはいけない

年齢的なものなのか、3人産んだからなのか、ここ1年ほど排卵痛がつらい。

去年の今頃だったと思う。経験したことのない下腹部痛を感じて、胸がざわざわした。
私は、20代の頃に卵巣嚢腫を3キロまで成長させた女なので、婦人科系に自信がない。
また卵巣が悪さしてるんじゃないのかしら、と不安になった。
痛みにいったん気づいてしまうと、痛みははっきりと輪郭を持って、痛い痛いと主張する。
座る瞬間に、痛い。小走りすれば震動が痛い。生活するだけでじわじわと痛かった。

「下腹部が痛いんですよ。張ってる感じがするんです。響くんです」

婦人科で訴えると、エコーを撮ってくださった。

恐怖の転車台に乗って、診察。

ところで、とても余談なんだけれど、男性ってあの恐怖の転車台についてどれぐらいご存じなんだろうか。
屈辱的とか言うほどの年齢でもないけれど、経産婦(×3)だし。原付バイクよりよっぽど乗り慣れてるし、3人とも違う病院で産んでるから、しかも上のふたりは検診とお産の病院も違ってたから、乗ってきたマシンの数もわりと多いほうだし、ああ、ここの病院はこのタイプね、とか思うくらいの余裕もある。

んだけど、やっぱり慣れない。

おしりにきゅっと力が入ってしまうし、じんわり汗もかいてしまう。

「痛くないよ―痛くないよー」と自己暗示をかけながら深呼吸をする。
慣れないけど背に腹は代えられないから、受診するけれど、こわいし、ハラハラするし、あられもなさ過ぎて毎回とっても心許ない。
胸に抱くクッションとか置いておいてほしいね。すみっコぐらしとかのかわいいやつ。あるといいよね。

胸に抱くクッションがないからとりあえず手すりをぎゅっと握って、下腹内部を映したモニターを観る。
経産婦らしい落ち着いた声で、カーテン越しにお医者さんと会話をした。

「排卵が近いのかもしれないね」
「はあそうですか」
「水が溜まってきてるからね」
「だから張りがあるんですね。へえそうなんだ」

だからってこんなに痛いなをてあるかしら、とやっぱり胸はざわざわしたけれど、

「子宮はきれいだし、卵巣も腫れてないですよ」

そう言われたら、そうか、排卵で痛いのか、と思うしかない。
子宮がきれいなのも、卵巣に腫れがないのも全肯定したい。そうすると、排卵痛を認めるしかなかった。

*

それからというもの、毎回ではないにしろ、排卵期にはっきりしたと痛みを感じることが増えた。
生理が終わって、晴れやかな気分は1週間もあるだろうか。
日に日に下腹部がずんと重たくなって、しくしく痛み出す。
それだけで済むときはまだよくて、ひどいときは、全身状態が極めて悪い。
身体の冷え、頭痛、眩暈、倦怠感、眠気、そして抑制のきかないイライラ、つまりほとんど生理のそれだ。

ネットで検索すると、私がそれまで知らなかっただけで、排卵痛で悩む人は大勢いるらしい。


金曜日、この排卵痛がフルスイングでやってきていて、とにかく疲弊した。運転していても、料理をしていても、歩いていても痛いのだ。
私は元来痛みにはべらぼうに強くて、3度のお産のときにも、それぞれの産褥期にも、お医者さんや看護師さんに驚かれたくらいだ。
なのに痛い。とても痛い。痛みに耐えることで体力を消耗するし、注意力も散漫になる。油断すると頭の中が「痛い」だけで埋め尽くされてしまう。

ごはんを作ろうにも、なにから手をつけていいやら分からない。
つま先も指先も、冷えの限界に挑戦しているのかと思うほど冷えていた。体がだるい。とにかく寝たい。すべてを投げ出して、ただ寝たかった。

夕方、

「今日の夜ごはんは何かテイクアウトしよう。ママ、おなかが痛くてもうだめだ」

長女に言った。

すると、「じゃあ、ごはん屋さんで食べよう!」

と、長女。
違う。そうじゃないんだ。ママは君たちに食料を提供したらその辺で真横になっていたいんだ。

と、言えたらよかったんだけど、頭がなんせ働かない。

「違うの、お持ち帰り。お持ち帰りにしよう?」

「ごはん屋さんがいいよ!ごはん屋さんに行けば楽ちんじゃん!」

全然楽ちんじゃない。2歳がいるのに、外食が楽ちんなもんか。7歳と5歳だって、ふたりしてテンションが上がったら手に負えないじゃないか。馬鹿を言うんじゃない。

と、言えたらよかったんだけど、お腹がなんせ痛い。

「お願い…今日はママの日にして…ママのお願いきいて…ママは…お持ち帰りしたい…(このあたりで悲しくなってくる)、お願い…ママの気持ち分かって…」

お腹は痛いし、食欲もないし、ただひたすらに眠いし、ホルモンが悪さして会話することにさえイライラしてしまうし、すべてに悲観的になってしまう。

懇願が功を奏して、家族がお気に入りの中華料理屋さんで餃子(24個)と豆苗炒めを買うことで決着した。
当然足りないので、ドラッグストアでおむつを買ったついでに、ポケモンカレー(2個)とプリキュアカレーを買った。いまの我が家においてポケモンは正義。ピカチュウ、君と目が合ってほんとよかった。

昨夜の残りの大根と白菜の和え物をそれぞれの取り皿にちょこんと盛って、豆苗と餃子をサーブして、忘れちゃいけないポケモン、プリキュアカレーを提供したら平和が訪れた。

私も少し餃子をもぐもぐして飲み込んで、3人をお風呂に入れて、お布団に滑り込んだ。
寝よう、寝て、痛みから、この冴えない頭の中から解放されよう。
それにしてもなんなんだ、この不条理は。
女の体が不利すぎる。

私はわりと、生理痛に関しては穏やかなのだけど(だからと言って生理がなんのダメージも与えないというわけではない。下着は常に不快だし、身体はだるいし、眠いし、生理前は頭が煮えるし、それなりに面倒)、これ、もし生理痛もひどいタイプだったら1ヶ月のうち地獄期間長すぎでは、と思う。

みんなこの排卵痛その他のホルモンの大暴れにどうやって耐えてるんだろうか。
豆乳とか飲んだらいいのかな。お白湯とか。


また読みにきてくれたらそれでもう。