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春はあけぼの、耳鼻科に行く

春になると、とある少年のことを思い出す。少年と言っても、私と同い年なため今は23歳で男性なんだけれども、私の記憶ではずっと「少年」なんだ。

幼馴染という存在がある、私にも。彼、ということで男の子なんだけれども、幼稚園の同級生だ。ちなみに幼馴染だと言っても漫画のように恋だとか愛だとかに発展はしていない。もっと言ってしまえば、小学校からは別々の道を歩んでいるのであんまり知らない。

でも紛れなく彼と私は幼馴染である。さらに言ってしまえば、私は小学校から高校まで女子校に在籍していたので唯一無二と言ってもいい「地元の男の子の友達」である。本当に稀な存在。高校時代、「男友達いる?」「うん、いるよ、同い年。」なんてちょっとドヤ顔できていたんだ、本当にありがとう。

そんな彼の誕生日が、春なのである。春は彼の季節なんだ。響だけはとっても甘酸っぱいね。


そんな彼と私は、お互いの家で遊んだり、親同士もめちゃくちゃ仲が良かったし、小学校受験の塾(なんてしっかりしたところではないけれども)も一緒だった。彼のお姉ちゃんが9個上でその頃中学生だったので、テスト期間はうちに来ていた。

そんな私と彼の、思い出の場所を紹介しようと思う。近所のとある場所なので今でも通りかかったりするんだけれども、なんだか恥ずかしい。なーんてね。

彼とのデートスポット

耳鼻科だ、略さずいうと耳鼻咽喉科。なんと幼馴染の私たち、5歳で同じタイミングに中耳炎になった。すごい、耳の奥でも繋がっていた。

こんな文章を書いていると、少しあの頃のことを思い出す。薬っぽい香り、普通の病院にはないような鼻水を吸う機械があったり、あまり重病患者がいないゆるーい空気感。

毎週水曜日、幼稚園が半日なので私の母の車にのり、耳鼻咽喉科を目指す。おじいちゃんの院長先生が仕切っている病院で、看護師さんたちも優しかった。自動ドアが開くと「あーいらっしゃい。」とお家のように迎え入れてくれる。

顔こそ覚えていないけれど、うっすら霞がかかってしか分からないけれどもおじいちゃんの先生が私たちの担当だった。「おっ、今日もデートか!」と明るく声をかけてくれる。

私たちのデートは実にドライだった。それでいて熟年夫婦並みだった。当時5歳だったから何も思わなかったけれども、今付き合っている人がいるとして、鼻にダウジングの棒みたいなL字の管が突っ込まれる姿、見せれる?私は見せることが出来ない。
けれども、5際の私はその姿を男の子に晒していたのだ。鼻から管入れるってめちゃくちゃ痛い。耳と鼻はつながっているから~って理論、分かるけれどもめちゃくちゃなんだ。私は耳が痛い、なのに鼻を痛めつけるおじいちゃん先生は悪魔でしかなかった。

私の幼馴染はとても気弱だった。今は知らないけれども。
雷が怖いと「手を繋いでほしい」と懇願してくる。先生に怒られるといじけて、トイレにこもってしまう。耳鼻科でも、鼻に管を入れるなんて行為したくなくて、泣きわめき、私が鼻に管をつっこむ隣でなんかよくわからない子どもだましの(まぁ子どもなんだけれども)しゅぽしゅぽしたやつで空気を通していた。その分彼は私より長く通院していた。

「おいおい、ガールフレンドが痛みに耐えながら頑張っているのにダメなボーイフレンドだなぁ」おじいちゃん先生はいつも笑っていた。

私の定番デートスポットは耳鼻科だった。週1回のいわば放課後デートである。あー甘酸っぱい。耳鼻科だけれども。

痛くても泣く、ダメなボーイフレンドだなぁと言われても泣く、そんな彼だった。いつだって彼は泣き虫で、私が手を引っ張ってあげなきゃいけない存在だった。

そんな彼は大学6年生になろうとしている。医者を目指しているんだって、もしかしたら耳鼻科医になるかも、と母に聞いた。

無事医者になったら言ってやるんだ、「ダメなボーイフレンドと耳鼻科デートは大変だった」と。

#日記 #エッセイ #幼馴染 #デート

見てくれてありがとうございます。今日も1日、いいことが続きますように。