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のび太と歴史上の一般人

アマゾンプライムで、ドラえもんの『ぼく、桃太郎のなんなのさ』が配信されているのを知ったので、さっそく視聴しました。20数年ぶりくらいか。大まかな粗筋はうっすらと記憶していたのですが、今にして視て初めて気づいたことも何点か。

中編作品なのでドラえもんの映画作品としてはカウントされておらず、しずかちゃんがのび太を「さん」ではなく「くん」付けで呼んでいたり、いつもは畳張りの茶の間である野比家の居間がソファの置かれた洋風のリビングになっていたり、細部の設定が違う。

脚本を担当された城山昇さんは、長きに亘って『サザエさん』のスタッフとして活躍されている方で、本作でののび太のパパとママのやりとりは、なんとなくサザエさんとマスオさんっぽい雰囲気があります。

あと、まだアニメのドラえもん自体が放送されて間もない時期だったので、後年におしとやかな女の子になっていったしずかちゃんはこの頃は冒険心が強くて活動的だし、ジャイアンがいいやつになるとか、のび太がかっこよくなるというお約束もまだそこまで結実しておらず、ドラえもんはみんなに頼られる存在というよりかは、みんなに可愛がられている不思議なロボットみたいな扱い。

後年、特に大山のぶ代さんが声優を務められていた時代の末期になるにつれてみんなの保護者っぽさが濃くなっていったドラえもんですが、この頃は子供っぽいところが残っていて、それがなんともかわゆい。

特にこの『ぼく、桃太郎のなんなのさ』には、ドラえもんが桃太郎の存在を知らず、「桃太郎ってだぁれ?」とのび太に問いかける激萌えシーンがあるぞ。

のび太が知らない事柄についてドラえもんが説明するパターンはいくらもあるが、ドラえもんが知らないことをのび太が説明するターンはかなり珍しい。

ドラえもんにマウントを取れる数少ないチャンスなので、さっそく調子に乗るのび太。もちろんその偉そうな態度にドラえもんが憤慨するわけだが、桃太郎を知らない手前、いつもみたいにキレキレの論破ができなくて悔しがるドラえもんがまたかわいい。

ひみつ道具のひとつに「桃太郎印のきびだんご」という商品があるのにドラえもんが桃太郎を知らなかったことについては「あれは、元からそういう名前で売っていたから……」とのこと。なるほど。

確かに、自分も「ステラおばさんのクッキー」は知っているが、ステラおばさんが誰なのかは知らないもんな。ハリセンボンの近藤さんとは別人であるという知識しかない。ステラおばさんじゃねーよ。

これを機に調べてみたところ、ステラおばさんというのはステラおばさんのクッキーの創業者……、ではなく、創業者の親戚のおばさんらしい。

ステラおばさんは幼稚園の先生を勤めており、お菓子づくりが得意で、甥っ子であり創業者であるジョセフ氏は、小さい頃からよく一緒にクッキーやケーキを焼いていました。

やがてジョセフ氏が成長し、ステラおばさんのレシピで作ったクッキーで事業を始めると伝えると、ステラおばさんは全力でそれを支援。

「クッキーやケーキを作る時にいちばん大切なのは(中略)気持ちなんだよ」を企業理念とし、今日までのステラおばさんのクッキーの発展があるのだそうな。

ステラおばさんは1988年に80歳で逝去されており、今となっては歴史上の人なわけですが、ドラえもんにとっての桃太郎もそうだったのでしょう。桃太郎はフィクションであるという違いはあるが。

とはいえ、22世紀からやってきた当初はお餅を知らなかったり、電池で動く猫のおもちゃを生身の猫だと勘違いしていたり、もしかして日本史に疎いのか?という疑惑がある。

未来では正月に雑煮を食べる風習はないのか?セワシによるとお年玉の慣習はあるし、ぐ~たらお正月セットだってあるのに。ていうか、ぐ~たらお正月セットにインスタントお雑煮があるんだよな。

インスタント味噌汁が当たり前にスーパーにある今、インスタントお雑煮はあまりひみつ道具感がないが……。連載当時としては画期的だったのでしょう。カップヌードルがナウでヤングな代物だった時代だし。

「ぼく、桃太郎のなんなのさ」は歴史がテーマであり、タイムマシンで1338年に行くところから始まります。室町時代が始まったばかり、なので、足利尊氏さんがブイブイ言わせていた頃。

武家社会まっただ中ですが、なにせ桃太郎の話ですから、武士が本作で登場することはなく、出てくるのはおじいさんとおばあさんなので、桃太郎の話です(進次郎構文)。

武家社会の片隅でのんびり暮らしていた一般人のおじいさんとおばあさんが、拾った桃(のび太入りの桃ボート)を食おうとしただけで、一躍、歴史の人となった。

日常回の第1話で、ドラえもんが、運命は変えることができる、的なことを語っていたと思いますが、このように、運命はほんのひとつの出来事で変わる。

ステラおばさんもまた、ただの一般人の幼稚園の先生だったおばさんが、世界中で愛されるクッキーブランドの顔になった。

つまりそれは、私も歴史上の人物になれるチャンスがまだあるということである。さっそく川に桃を拾いに……、というのはさすがに不衛生すぎるので、桃太郎を探しているオランダ人男性を探しに行くか。

そんな人が世の中にいる可能性は、近藤さんが本当はステラおばさんだった可能性よりも低いわけだが。

サウナはたのしい。