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プラモでブーブーしちゃダメ

クソデカさに定評があるJR大阪駅から繋がる、これまたクソデカい歩道橋を渡って3分くらいのところに、なんとまあクソデカな家電量販店のヨドバシカメラ・マルチメディア梅田店があるのですが、その5階はクソデカおもちゃコーナーになっています。

そのおもちゃコーナーはプラモデルの品揃えも充実していて、行くたびによく眺めます。眺めるだけで買わないのですが……。

その昔、オトン(父)はよく、戦車および軍用車のプラモを作っていました。

パンサー戦車、タイガー戦車、キューベルワーゲン、シュビムワーゲン。

タミヤ模型の1/35ミリタリーミニチュアシリーズの商品であり、今でもオトンの部屋の戸棚に飾られています。

あと、軍艦やゼロ戦のプラモも作っていたので、ハセガワ製の船や飛行機もあります。

各プラモデルメーカーは年に一度、大きい冊子のカタログを出版していたのですが、オトンは毎年のようにタミヤとハセガワのカタログを購入していました。

そして自分は、昼間のオトンがいない隙に、たまにこっそりそれを読んでいました。

ハセガワは現在はアイドルマスターなどのキャラクターものの商品もラインナップしているようですが、当時は玄人向けというか、硬派な印象がありました。

カタログの内容も実にクールで、「温故知新」という四字熟語の意味からメーカーの模型に対する意志を述べた文章が1ページめに載っていたり。

ガキにはまだこのカタログは早いよと言われているようで、こちらはあんまりハマりませんでした。ハマったのは断然、タミヤのカタログのほう。

なにせ自分は、当時の男子小学生の90%がそうだったといわれるミニ四駆少年であり、当時の男子小学生の88%がそうだったといわれる、ミニ四駆のコースが欲しいけど買えない少年だったもので、カタログに載っているジャパンカップジュニアサーキットとオーバルホームサーキットを眺めては涎を垂らす毎日でした。 どちらも1万円以上の高額商品なのです。

コースで走らせたかったら店に行けばいいといわれるかもしれませんが、すでに街の模型店はかなり減っていた時代で、まだ電器屋にミニ四駆コーナーなんて作られていない時代だったのです。コースで走らせること自体が夢でした。

ミニ四駆の次にハマったのが、1/24スポーツカーシリーズのページ。

有名どころのランボルギーニ・カウンタックやフェラーリF40、ラリーレースで活躍した三菱パジェロやフォード・エスコートWRCなどのスポーツカーに混じって、なぜか佐川急便デリバリーバンや大学生たちのフィギュアもあり、バラエティに富む内容でした。

で、やはりカタログを見続けていると、現物が欲しくなるし、作りたくなってきました。 

それまでほぼミニ四駆しか作ったことがなく、低学年の頃に買ってもらったソラえもん号(ドラえもんを模したソーラーカー)もほぼオトンに作ってもらっていたので、接着剤を使う本格的なプラモは未体験。

まずは、四角いガラスケースのタミヤの接着剤を購入。オトンのものを借りれば良いのですが、なんとなく自分専用のものが欲しかったのです。

次に作るプラモを選びに行ったのですが、やっぱりいきなり高額なプラモは手を出せません。色をちゃんと塗れる自信もない。ということで、最初に買ったのはアリイ模型というところから出ていた、ホンダT360という軽トラックのプラモでした。

当時600円くらいで、ミニ四駆と同じくらいの値段だったはず。
 
これなら失敗しても泣かないから大丈夫……と自分に言い聞かせたことは杞憂に終わり、無事にきちんと組み上げられました。

ひとつプラモが作れたことで自信がついたので、それからしばらくして、懐に余裕があったときに、さてまた車のプラモを作ろうかと思いました。

そこで選んだプラモが、トヨタ・クレスタ2.5スーパールーセントGです。青島文化教材社(通称アオシマ)から出ていたVIPカーシリーズのひとつ。

VIPカーというのは、ホイールをシャコタン仕様にしたり、ガラスをスモークにしたり、内装を派手にした車のことです。

夜の街中で、マフラー音をガンガン鳴らしてLEDライトをチカチカさせている黒塗りのセダンを見かけますよね?アレです。

アオシマは昔も今も、数ある模型メーカーの中でも尖った感覚を持っていて、改造車やデコトラや覆面パトカーなどといった、他ではあまり取り扱わない車種を多数リリースしています。業界で初めて痛車のプラモを発表したのもここだったはず。

なぜに軽トラの次にVIPカーを選んだのかは、自分でもよくわかりません。振り幅が広いというか、デタラメすぎる。

そして、このVIP仕様クレスタは、2000円以上するそこそこ高価なプラモでした。

部品の数も多く、一般的なプラモについているデカールというものは水に濡らして柔らかくしないと貼れないとか、ヘッドライトはくっつける前に塗装しておく、などのことを学び、なんとか完成させました。

ホンダT360は初心者向けの簡単なキットだったのですんなり作れましたが、クレスタはなかなかに苦労しました。それだけに、完成させた時の感慨もひとしお。

この私が作った、素晴らしく愛おしいクレスタ。机の上に置いて、飽きもせずにずっと眺めていました。

それだけで済ませば良かったのですが、ついつい前輪を曲がらせたり、ミニカーさながらにコロコロと転がして、悦に入っておりました。

そんなことをしていると、不意にポコっとパーツが折れました。ホイールの内側の、サスペンションを支えるユニットのいち部品です。そしてついに、後輪がホイールごと、ポコっと取れてしまいました。

シャコタン車なので、もともと後輪がハの字に開いた状態。

その状態のプラモをトミカ感覚でブーブー転がしたらどうなるのかは幼児でもわかりそうなものですが、2000円のプラモを完成させて浮かれきって理性を失っていた自分にはわからなかったのです。

しばらくは無理くり接着剤で補修したりしていましたが、ほんの少しブーブーやっただけでパーツが折れてしまうプラモの脆さが恐ろしくなり、あるタイミングで、机の上に置いていたクレスタを引き出しの奥に仕舞いこみました。

その後どうしたかは覚えていませんが、いま手元にないということは、どこかでお別れしたのだと思います。

ヨドバシカメラの店内のショーケースには、完成したプラモたちがたくさん飾られています。おそらくベテランのモデラーさんたちの手によるものでしょう。

あれだけ綺麗に組み立てて塗装できることを素直に凄いと思うし、完成した時にブーブー転がしたい欲求によく耐えられたものだな……という面でも尊敬します。

上記の佐川急便デリバリーバンは再発されていますが(佐川急便ではなく無印のバンとして再発)、今の自分がこれを作っても、トミカ感覚で荷降ろし作業ごっことかして壊してしまう自信がある。

いや、プラモは飾るものだと、頭では理解しているのですよ?

でも……だって……ブーブーやって遊びたいもん……。なので、自分はきっとプラモに向いていません。

サウナはたのしい。