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『CHOCOLATE≠CIGARETTE』-full size-

迂闊だった。

わざわざ、地元から7駅も離れた場所の書店まで行ったにもかかわらず、だ。どうしてバレてしまうんだ。だいたいここは特に遊ぶところもない過疎った地域なのに、この女は何が目的でここにいるのか。

そして、何が目的でそんなことを要求するのか。いやしかし、弱みをぎっしりと握られた今、否応なしにこの方に従わねばならない。

「……じゃあ、俺が散歩についてったら、エロ本のことは秘密にしてくれるってことでええの?」

「うん、内緒にしてあげる」

そう言って、島本見歩(しまもと みほ)はクスクスと笑った。同じクラスだが、話したことはほとんどなかった。もしかしたら初めて話したかもしれないくらいだ。髪を両端で括っている。ツインテールというやつか。けっこう髪が長く、肩にもたれかかっている。邪魔じゃないのだろうか。ボーっとしていたら、こんなことをいきなり訊かれた。

「そういえば、君の名前、なんだっけ?」

「もとぐち……」

本口工(もとぐち たくみ)。これが俺の本名。この字面から察せる通り……。後ろから読めば「エロ本」。このことで、友人から散々イジられている。

何を隠そう、俺の趣味はエロ本収集なのだ。出版界の斜陽と呼ばれるこのご時世、我々プロエロ本収集家が、少しでもエロ本経済を好転させるべく書誌を買い支えなければならない。ちなみに、もちろん電子媒体も応援しているので年齢を偽ってFANZAに登録している(※良い子は真似してはいけません)。

今日は月刊エロマンガ雑誌、悦楽バッファローの発売日なのだ。毎月、同じ高校の女子からの身バレを避けるために、あえて地元から離れた書店に赴いている。Amazonは万が一の親バレが怖いので使いたくない。それに、エロ本を入手した帰り道のホクホク感はたまらない至高の時間なのだ。なのに、だ。

「なあなあ、どんなジャンルのエロ本買ったん?ちょっと見してや。もしかして、引くようなヤツ?熟女系とか?」

「やめてくれ!やめて!やめろ!」

「本口くんって、真面目なイメージしかなかったけど、変態やってんなあ」

同じ高校の女子に身バレしてしまった。ニヤニヤしながら俺を追い詰めてくる。ちくしょう。しかし、バレてしまったものは仕方ない。彼女の提示する条件を潔く飲もうじゃないか。

「散歩に同行したらええんやろ。で、どこ行くん?」

「わかんない」

「え?」

「決めてへんもん。別にここ、なんもないやん。美味しそうなケーキ屋さんとか、ブティックもないし。ラウンドワンもジャンカラもない。駅前にフレンドマートがあるだけやん」

「じゃあ、なんの目的があってここで降りたん?」

「散歩!」

「?」

どうもよくわからない。ぶらっと駅を降りてぶらっと散歩。地井武男かよ。ちい散歩かよ。

「うっわあああ!こんなん読んでコーフンしとるん?きゃははははっ!」

「……どういう内容なんかわかったやろ。早よ返せや……」

文句を垂れながら、内心、バレたのが悦楽バッファローで良かった、と思った。悦楽シリーズにはいくつかの姉妹誌があるのだが、その中では、悦楽バッファローは最もノーマルなエロ本なのだ。他はちょっとマニアックな誌面になっていたりする。

あまり話したことがなかったとはいえ、毎日のように顔を合わせるクラスメイトなのだから、ドン引きされて距離を置かれるよりは、ギャグにしてくれた方がまだ気が楽だ。

一通り読み終えて満足したらしく、島本は俺のカバンの中に悦楽バッファローを突っ込んだ。おい、エロ本はもうちょっと丁重に扱え。

結局、特に行くところもないので、駅前から続くただの住宅地を歩き、もうすぐテストがあるからダルいとか、数学の横田はたぶんヅラだとか、水溜りボンドの逮捕ドッキリ動画はよく出来ているから視た方がいいとか、なんだかそんなことを話した。というか、俺はだいたいテキトーに聞いていただけで、ほとんど島本が一方的に話していたのだが。

住宅地に沿った路地の終点は、大きめの川だった。掲示板を見たら、俺の家の近くにある川と同じ名前だった。ここは俺の住んでいる市の隣の隣の市だ。「川って長いんだな」と言ってみた後で、なんかアホっぽいセリフだな、と思った。

夕方の河川敷には、犬の散歩をしているおじさんと、柔らかそうなボールでサッカーらしき遊びをしている子供が数人と、ベンチで何かしら話している主婦が数人いた。

どちらかというと、ここはおじさんとおばさんと子供のいるべき場所であって、花の高校生がいるべき場所ではないという気がした。

「……陰キャやなあ、俺ら」

独り言のつもりでそう呟いた。

「ウチも陰キャやで」と言いながら、島本は「LINE教えて」とスマホを差し出してきた。

「ええけど、……なんで?」

「来週も、散歩に付き合ってもらうから」

「はあ?いや、再来週テストやん。来週はテス勉せな」

「じゃあ、散歩した先でテス勉したらええやろ。じゃ。よろしく!」

「……いや、あの……」

「えろほんのひみつ……」

「うううっ……」

めんどくさいことになってしまった。

いつも通り、始業30秒前に教室へと入った。きっちりと30秒前に登校するのが俺の偉大なところである。それよりも早くも遅くもない。朝はきちんと3度寝し、頭をすっきりさせてから1日をスタートさせるのだ。まあ眠いだけだし、実際には頭はいつまでもぼんやりしているのだが。

「おいエグチ、後で、貸せよな」

前の席に座っていた男が俺に話しかけた。主語をあえて言わずに用件のみを伝えられたのだが、要するに、俺が入手した悦楽バッファローを貸してくれ、という意味だ。

こいつは中学の頃からの同級生で、岸辺爽太(きしべ そうた)という。名前に「爽」という字が入っているが、少なくとも顔面はちっとも爽やかとはいえず、目ヤニが付いている。こいつ今日も顔を洗わずに出てきたな。爽太じゃなくて、ソータと呼んでいる。いやまあ、音にすればどちらも一緒なのだが。

「ああ、持ってきた」

速やかに要点だけを答えた。ここは神聖なる教室であり、ここにいる人間の半分は女性なのである。エロ雑誌の名前をデカい声で喚くなど、恥ずべき行為である。俺たちは紳士なので、この取引についてはあくまで内密に行っている。悦楽バッファローの上下を教科書で挟んで、誰にも気づかれぬように素早く机の引き出しに入れた。

ところで、俺の本名は「もとぐちこう」なのに、なぜソータが俺のことを「エグチ」と呼んだのかについて説明しておかねばなるまい。

前に話した通り、俺の名前を漢字で書くと「本口工」となり、逆から読むと「エロ本」になってしまう。中学生になったばかりの頃に仲良くなったソータを始め、友人からは当初は「エロス」と呼ばれていて、1年生の頃は俺自身も面白がって気に入っていたのだが、ある時になんだか虚しくなって、新しいあだ名を考えようぜ、という話になった。そこで、旧名の「エロス」から「エ」だけを残して、本名から「グチ」の部分を切り取ってくっつけて、「エグチ」なわけだ。

今まで、江口という苗字の男子が同じクラスにいたことはなかったので、他人と紛らわしくなることもなかった。

島本はクラス内では、活発なタイプと大人しいタイプとのちょうど中間みたいな存在だ。これといって目立つことも浮き立つこともなく、どのグループともそつなく仲良くできるような人間だという印象。

昨日のことがあるので、俺はチラッとだけ島本の方を見た。何の話題だかはわからないが、特にテンションが高くも低くもない感じで、まあまあ楽しそうに話していた。

秘密についてはたぶん、ちゃんと守ってくれていると思う。周りの女子には活発なタイプの奴もいるが、特に俺をジロジロ見たりなどはしてこない。良かった。安心したところで、古典の教科書を忘れたことに気づいた。後で隣のクラスの奴に借してもらわなきゃ。

どの授業のどの教師も、テスト1週間前だということをやたらと強調する。しかし、生徒のこちら側としてはどうにもやる気が起きない。このまえ島本に言ったことと矛盾するようだが、再来週もうテストかよ、と先週は思っていたのに、いざ1週間前になると、いやまだ1週間もある、と都合良く受け取るようになるのだ。

俺とソータは学校からまっすぐ帰らずに、近くにあるイオンモールのフードコード内のマクドナルドで悠々とハンバーガーを食べていた。「お前エグチやねんから、エッグチーズバーガーにしとけ」とか言われたが、「絶対イヤじゃ」と言って、いちばん安い普通のハンバーガーにした。ソータは320円のてりやきマックバーガー。こいつは学校に内緒で工場のバイトをしているので、お金に余裕があるようなのだ。だったらエロ本も自分で買えや。

てりやきマックバーガーで濡れた手でソータがスマホをいじり始めるや否や、その肩を誰かが片手で軽く叩いた。その誰かとは、これまた俺の中学からの同級生、淀屋橋哲平(よどやばし てっぺい)だ。もう片方の手には、青いビニール袋をぶら提げている。わかる人にはわかる。アニメイトの袋だ。ヨドは声優オタクなのだ。今日は麻倉もものニューシングルのフラゲ日だとか言っていたので、多分その用事だろう。

ソータはオタクというわけでもないのだが、麻倉もものルックスは好きらしく、胸がどうこうとかゲスいことを言った。全くこいつは。だから彼女いない歴17年なんだぞ。俺もだが。

ソータのエロトークを聞いていても何の得にもならないので、スマホゲームのドラゴンボールZドッカンバトルに集中したのだが、これが全くもって勝てない。無課金でやり続けるのには無理があるのか。やはり学校に内緒で宅配便の仕分けのバイトをしているヨドはすでに3万円は入れ込んだらしく、LR孫悟空ベジータを持っているのでかなり強い。ソータもこの前イベントでLRサタンを引き当てたのでそこそこ強いらしい。

やっぱりお金がほしい。俺もバイトしようかな。そんな話に切り替えた。

「接客系はやめた方がええな。いつ誰が来てバレるかわからん。先公やなくて同級生でも、どっかでチクられるかもしれへんからな」というのがソータのアドバイス。

「タウンワークの初めのページのとこはやめとけ。初めの方のページに載ってるのは常連で、つまりそんだけしょっちゅう人がやめる、っていうことや」というのはヨドのアドバイス。

バイトを始めるに当たってのレクチャーを、その後しばらく2人にしてもらった。電話のかけ方などを教えてもらったところで、「バイトがあるから」と、2人とも旅立っていった。

俺はフードコートに残り、イオンの入り口の棚で入手したタウンワークを開きながら、学校にバレないバイトについて考えていた。俺の通う高校は一応は進学校でお勉強校なので学業優先、アルバイト禁止なのだ。

接客業はダメなので、飲食店やコンビニやスーパーは無理。ソータがやっているコンビニ弁当の蓋にひたすらセロテープを貼るバイトは、拘束時間が長いらしい。ヨドやっている宅配便の仕分けのバイトは、上下関係がものすごく厳しいらしい。引っ越し業者は体力に自信がないのでできる気がしない。

いろいろ考えているうちにめんどくさくなって、さっき話題に出た麻倉ももについてググることにした。

なるほど。さっきはドッカンバトルに夢中でよくわからなかったが、確かに可愛い人である。ヨドが鑑賞用と保存用と布教用に同じCDを必ず3枚も買うのはちょっと理解できないが、この人に魅力があるということはよくわか……

「何見てるん?」

後ろから女子の声がした。このニヤニヤ声は最近イヤというほど聞いた。島本だ。

「他人のスマホ画面を覗くなや」

「ええやん、ちょっとくらい。ウチのも見したろか。待ち受けミニオンやねん。スチュアートが好きやねん」

「知るかいな」

「……ん?」

「あ、俺のスマホ画面見たやろ?声優の人らしいで?可愛いな」

「…………」

島本は、しばらく黙った。この前のこいつの雰囲気からすれば、本口くんってオタクなん?声優とか好きなんや、とか、面白がってきそうなものだが。

「……ウチ、アニメとか、あんましわからへんから」

どうやら、あまりそういうのは趣味ではないらしい。

「まあ、俺もあんま知らんけどな。ヨドがそういうの好きやから、なんとなく俺も名前とかぐらいは。……あ、うちのクラスの淀屋橋、知ってるやろ?あの、メガネかけた地味なオタク。あいつがこの、麻倉もものファンらしいねん」

「……ふうん。……ところで、後でLINE送るけど、今週の土曜は、夕方5時に、ここ集合」

「あ、はあ……。ここでええのん?」

問いには答えず、島本は去っていった。とりあえず、マイナビバイトに登録しておいた。

2回めとなる「散歩」は、イオンの4階にあるゲームセンターから始まった。

「いける……いける!いける!いけ……あああっ!ちょ、なんで?……最悪や」

ミニオンズのぬいぐるみのUFOキャッチャーを前に、島本は不機嫌な顔をした。プレイする前はこちらを向いて笑っていた推しのスチュアートは、キャッチャーから遠ざかって、そっぽを向いてしまった。スチュアートというのは、1つ目で細長いあいつのことらしい。ミニオンは知っていたが、あいつら個々の名前は知らなかった。

どうやら、巷で一番よく見かける奴がボブらしい。髪がちょこっと生えている奴はケビン、センター分けの奴はデイブというらしい。他にもミニオンについて解説されたが、俺はボーッと聞いていた。島本は映画の1作めが好きらしい。ミニオンはもともと敵キャラで、アンパンマンでいえば、かびるんるんみたいなものだ、とか、なんだかそんなようなことを言っていた。いちおう怪盗グルーっていうおっさんが主人公らしい。

そんなにミニオンが好きなのに、USJには行ったことがないらしい。ミニオンにも遊園地に興味のない俺ですら、2回ほど行ったことがあるのに。最初はあんまり記憶にないが、小さい頃に親に連れられて。2回めは中2の頃、ソータたちと行った。わりと近いのに、なぜ行ったことがないのだろう。なんとなく疑問に思ったが、特に理由を訊くことでもないと思ってスルーした。

「で、今日はどこ行くん?LINE送る言うてたのに、結局送って来んかったやん」

そういえば、今日の目的地を知られていなかった。だが、返ってきたのは意外な答えだった。

「ここ」

「……え?」

「ここ。イオン」

「……はあ?」

このイオンなんて、今まで何百回も訪れている。なにしろ俺はピカチュウのベビーカーに乗ってブイブイ言わせていた頃から15年来の常連だ。大抵の店舗の配置を覚えているし、火曜市の目玉商品の51円のコロッケは夕方5時半には売り切れるから早めに買わないといけないことも知っているのだ。先月あたりに引っ越してきて今日ここのスーパーのレジのバイトを始めたおばさんより詳しいぞ。

「イオンって、夜遅まで開いてるやん?」

「うん。11時とかまで開いてたと思う」

「映画館やったら、レイトショーとかあるやろ?あれ、12時ぐらいまであるやん?」

「……映画観んの?」

「うん」

1人で観たらええやんけ、と感じたが、口には出さなかった。女の「おひとりさまレベル」は男とは違う、とかいうのをテレビで視た。しかしそれにしても、だったら仲の良い女子を誘えば良いのではないのか。学校ではいつも数人に囲まれているし、ぼっちという印象はない。友達がいないわけではなさそうだ。いや、もしかしたら裏でいじめられているのだろうか。よくわからない。

詮索したい気持ちはあったが、同時にめんどくさくもあった。別に映画に興味があるわけではないので、1000円マイナスになるのは痛い。やっぱりバイトしよう。くそっ、エロ本がバレただけでどうしてこんな目に遭うのだ。お金?出すよ?、と言われたが、女子に奢られるというのもなんとなくダサい。別に島本にカッコつけたところでしようがないのだが。

公開されている映画の中で俺が辛うじて興味をそそられるものは『ドラゴンボール超ブロリー』だけだったが、島本は『シュガー・ラッシュ:オンライン』が観たいと言った。

「じゃんけんで決めよか」

「いんじゃんほい!」

いんじゃんほい、というのは、じゃんけんほい、の関西ふうの言い方である。いん、が何なのかは俺にもわからない。

負けたので、『シュガー・ラッシュ:オンライン』の吹替を観ることになった。前作を観ていないのだが、何が根拠かわからないが、というかたぶん根拠なんかなさそうだが、島本は「大丈夫大丈夫」と繰り返した。「HIKAKIN出るから。変顔してくれるから」いや、HIKAKINの顔は出てこないだろ。

しかし、映画館のメニューというのは何故あんなに高いのだろうか。諦めて何も買わずに入ったから、観ている間に何度も腹が鳴った。メシが食いたい。

島本は何やらコーヒーを飲んでいた。HIKAKINの声は出てきたが、ブンブンハローユーチューブとか、登録登録登録うう~、というセリフはなかった。当たり前だ。

空腹に耐えることやっと2時間。やっと『シュガー・ラッシュ:オンライン』が終わった。最後まで観たら、なかなか面白かった。しかし、映画館なんて、小さい頃に親と観たクレヨンしんちゃん以来なのではなかろうか。なんとなく、洒落たことをしているような気分になった。

「ごめんな。お腹すいた?」

「うん。めっちゃ。帰っていい?」

つまりは、ひとり映画館が気まずいから、誰かに一緒に行ってほしかっただけだろうと俺は思っていた。

「あかん」

「なんで?」

「夜更かししたいから」

「夜更かしぃ?」

やっぱりよくわからない。

「とりあえず、ここで何か食べようや」

「え?4階で食べるん?」

イオンの飲食コーナーは2箇所ある。ひとつは、2階にある、ソータとヨドと3人で麻倉ももの話をしていたフードコート。マクドナルドやミスタードーナツ、サーティワンアイスクリームなどの軽食が中心で、俺たち高校生がいつも行くのは断然こっちの方だ。

もうひとつは、少しお高めな値段のメニューが並ぶ、ガチな専門店街。基本的にファミリー向けの店舗が多い。鎌倉パスタ、カプリチョーザ、いきなり!ステーキ、塚田農場、……やっぱりどこも、無職の高校生にはきつい。

「まだ8時半やから2階開いてるやろ。マクドでええやん」

俺の提案に、島本はあくまで首を横に振る。

「そんなん、いつもと一緒でおもんないやん。ウチは今日、普段せえへんことをしたいねん」

「金が……」

映画の1000円さえも痛いのに、これ以上の支出はなるべく避けたい。親に昼メシ代込みで月8000円もらっているが、ただでさえ、マクドでの交際費とエロ本代で逼迫しているのだ。以前オカンに10000円へのお小遣いアップを交渉したが、2学期は英語の成績が下がっていたので認めないと言われた。

でもたぶん成績が上がっても、うちの親はお小遣いを上げてくれないだろう。俺ももう高校生だ。昔はモルツが好きだったオトンが金麦ばかり飲んでいる理由がなんとなく察せるようになってきた。

結局、間を取って、ドトールに入った。島本は最初は不服そうだった。コーヒーなら映画館で飲んだからもういい、と。しかし、かぼちゃタルトを奢るから、ということで納得してもらうことにした。やっぱりなんとなく、ちょっとだけカッコつけたい。

「じゃ、テス勉はじめよか?」

そう言って島本は、ノートと筆箱をカバンから取り出した。ああそうか、もともとはテスト勉強がどうこうという話になっていたのだった。白いカバンには、スチュアートのキーホルダーがぶら下がっている。

「学校のカバンには付けられへんから」

島本は嬉しそうに、俺にカバンを見せつけた。白地に赤いマジックで書いたような、H&M、という文字がある。H&Mってなんだ。ほっともっとの略だろうか。

うちの高校は校則が厳しく、通学には学校が指定しているカバンしか使ってはいけない。カバンにキーホルダーやバッジを取り付けることも禁止だ。休日である今日は、少しは自由でありたいということか。

そういえば以前に、ソータが髪を染めてみたいと言っていたことがある。俺も、その気持ちが全くないわけではない。別に金髪になったからといって、いきなりヤンキーになれるわけではないだろうが、なんとなく、違う自分に変われそうな気がする。

しかし、違う自分に変わるよりも、今は目先の英文を訳さねばならない。

「これで合ってる?」

問題集の問いは、食後にタバコを吸わないことにしてみよう、という文章を英語にしなさい、というもの。それに対する俺の回答は、I try quitting smoking cigarette after a meal.、だ。

「ちゃう。2箇所、間違ってる」

「え?マジで?嘘?」

完璧な回答のつまりだったのだが。食後、を意味する、after a meal、という熟語もちゃんと覚えていたし、cigaretteのスペルも間違っていないはずだし、ピリオドもちゃんと書いたぞ。

「try ~ingは、既にしている状態で使う文法やねん。この場合は、タバコを吸わないことにしよう、やから、try to~を使う。だから、I try to quit smoking after a meal.、が正解。あと、smokingだけで喫煙するって意味になるから、cigaretteは付けんでええねん」

「英語って、ややこいなあ……」

アルファベットの羅列をたくさん目にして、頭がクラクラしてきそうだった。

映画館は夜中まで開いているが、それ以外のテナントは夜の10時で閉まる。俺は別に構わないのだが、島本は女子だ。門限とかはないのだろうか。向こうから何も言ってこないので気にしなかったのだが、もうちょっと早く訊いておくべきだったかもしれないな。すると、なぜか嬉しそうに、こう答えた。

「今晩は、親が仕事やから」

「え?じゃあ、メシとか洗濯とかは?」

「ウチが1人でお留守番。そういうの、たまにあんねん」

うーん。

話せば話すほどに、島本見歩という子の事情が、よくわからなくなる。どういう家庭でどう育っているのだろう。仕事といっても、もう夜おそい時間だし、今日は土曜日なのだが。親御さんはブラック企業にお勤めなのだろうか。

気にかかることは先週よりも増えたが、単語の問題を出し合っているうちに彼女の家の近くに着いたのでさっさと別れた。最後に見せつけられたH&Mの文字が目蓋にこびりついて、げっそりしながら帰った。英語を覚えることにしよう、I try to remember English……。ああ、これもどこかを間違えているような。

島本のLINEによると、テスト当日の間は散歩も中止ということで、今週はお休みとのこと。というか、今後も続くのかよ。加山雄三かよ。若大将のゆうゆう散歩かよ。

うちのクラスは全員で40人もいる。現代社会の授業で、俺が産まれるよりも前から少子化とかいうのが問題視されていたらしいというのを習ったが、本当だろうか。爺ちゃんが子供の頃は団塊の世代とかいうやつだったらしく、1学年に9クラスとかまであったようだから、そりゃあそれに比べれば少ないのかもしれないが。

日本の人口がどう変化しようが俺の人生に特に支障はないのだが、クラスに40人もいれば、当然のごとく、毎日のように全員と会話するわけにはいかないし、彼女でもない女子と学内で喋る機会はそう多くはない。

ましてや、俺やソータやヨドというのは、モテないグループというか、陰キャでオタクぎみなグループに属している。

モテるグループの陽キャは彼女がいたり、校則では禁止されているが実はバイクを持っていたり、これは校則ではどうなのか知らないがバンドを組んで地元のライブハウスに出入りしているらしい。正直、ついていけない。羨ましいと思う部分もちょっとあるが、同じ行動は取れない。

しかし、そんな陽キャに近しい位置にいる人間でも、そこそこ軽口を叩く仲の奴はいる。トイレに行ったらばったり会った野江隆史(のえ たかし)は、そういう距離感の奴だ。俺は、何の気なしに話しかけた。

「テストどやった?」

「あかんわ。追試かもしれんな」

「おまえがあかんかったら俺なんか絶対赤点やん。まあ、大丈夫やろけど」

赤点は逃れられただろうが、大した平均点でもなさそうだ。平均65点を超えられたらいい方だろう。親に怒られるほどでもないが褒められるほどでもないくらいの数値だ。

「いや自分、頭ええんやん。絶対、俺より点数高いって」

野江は、俺より早く事を済ませ、素早く手を洗った。こいつは、ぜんぜん勉強していないと口では言いながら実際は猛勉強しているタイプの人間だ。追試かもしれないというのも、9割がた社交辞令だろう。そして、最後に相手を立てることも忘れない。こういう世渡りの上手さがあるから、陽キャとも、俺みたいな冴えない奴とも自然に付き合えるのだろう。見習いたい、そう思った。

俺は、正直に言ってしまいそうだ。だから、ここ2回は我慢していたが、次こそ、島本に誘われたら、ダルい、とか、めんどい、とか、もういいかげんにしろ、とか、言うような気がした。むしろ言った方が良いような気もした。いつまで続くのかわからないし。でも、……どうしたら良いのかわからなかった。このままズルズルと過ごすのだろうか。

今までアルバイトというものをしたことがなかったのだが、それにしても、やけにあっさりと事が決まるものなのだな。正直なところ拍子抜けというか、びっくりした。形式的な面談はしたものの、週に何回くらい入れるかとか病気はあるかとか、月なん万くらい稼げたら満足かとか、そんなことだけで終わった。履歴書にはそれっぽいやる気アピールを書いたのだが、たぶんろくに読まれていないのではないか。まあ、志望動機なんて、金ほしい、それだけしかない。自己PRなんて、少なくともバカ校ではないそれなりに偏差値のある高校に通っている、ということくらいだ。

最終的に俺がどういうバイトを選んだかといえば、テレアポだ。与えられた書類の文面どおりに相手に電話で話せば良いという、誰にでもできる仕事なのだそうな。成功すれば、高校生バイトでもインセンティブがもらえるらしい。インセンティブが何かはよくわからないが、とりあえずプチボーナス的なものがもらえるようなことを聞いた。

少しくたびれたビルの3階にオフィスがあった。外からみたら、ただのアパートの一室の玄関みたいだ。ドアの脇に社名のプレートが掛かっていなかったら、まるで気づかなかっただろう。会社というのはどこでも、立派な建物を構えているものだと思っていた。

ここは株式会社ハードエニイの子会社の、株式会社ユーエイ。ハードエニイの代理店業務を行っているらしい。ハードエニイは俺でも知っている。スマートフォンを売っている会社で、しょっちゅうCMを見かける。

社員の方は、高校生の俺ごときに対してきびきびと「はじめまして山崎(やまざき)です。よろしくお願いいたします」と挨拶した。そんな改まった挨拶に慣れていない俺は緊張してしまい、「よっしくおねがいしやす!」などとたいへん無礼な返しをしてしまった。間違いなく俺より10歳は上だと思うが、おじさんと呼ぶには若々しすぎる。かといってお兄さんでもない。カッターシャツの胸ポケットに、AMERICAN SPIRITと書かれたタバコの箱が見えた。

山崎さんによると、ユーエイは今後は事業を拡大し、電気にも手を出すのだそうだ。電力自由化がどうとか言われたが社会の話はよくわからなかった。そして、ハードエニイのスマホを既に契約しているお客様には、通常よりも安く電気料金をご案内しますよ、だから契約しろ、と電話で言うのが、我々のお仕事らしい。社員にはノルマがあるが、バイトにはないのでご安心を、などと言われたが、信憑性は低い。

オフィスの中にはパソコンデスクがずらりと並んでいた。各デスクに1つずつ電話器が配置されていた。椅子に座ると、1枚のコピー紙を渡された。まずはそのコピー紙に書かれている通りに読んでください、と言われ、それに応じた。

「お世話になっております。株式会社ハードエニイの代理店ユーエイの本口と申します。先日は、ハードエニイのスマートフォンをご契約いただき誠にありがとうございました。本日はお客さまに、お得な電気サービスのご案内を……」

しばらく1人で復唱した後、今度は、山崎さんに電話をしているつもりで、感情を込めて読んでくださいと言われた。小学校の国語の宿題で出た音読みたいだ。まさか高校生になって音読をやらされるとは。しかしその行為は、この業界ではロープレと呼ぶらしい。コピー紙のセリフをひたすら喋った。もともと、6行ほどの短い文章である。記憶力が良いわけではない俺でも、繰り返し口にしていれば、身体が覚えてくる。

結局、バイト初日は、それだけで終わった。時給1500円で3時間、日給4500円。シフトの融通はかなり効かせてくれるらしく、根気がない俺は週3とか週4では入れないだろうということで、週1、水曜日のみ、ということにしてもらった。4500円が月3回くらいとして、13500円くらいか。まあ、親からもらっている8000円と足せば、20000円を超える金額だ。悠々自適である。

マクドでは安いハンバーガーかチーズバーガーばかり食べていた俺だが、今後はマックグランが食える。ちなみに関西人もマックグランのことはマックグランと言う。マクドグランとは言わない。

映画だって観に行ける。

学校はもちろん、バイトを始めたことについては親にも内緒だ。保護者の同意書というものを出すように言われたが、実はソータに頼んで、彼のお兄さんに代筆してもらった(※真似してはいけません)。お兄さんとは高校生になってからは一度も会ったことがないが、浪人生らしい。受験シーズンの今は日夜ずっと猛勉強しているとのことで、そんなお忙しい中で申し訳なかったのだが、隠し事がバレても困らない人としては、いちばん身近な大人だったのだ。

「ただいま」

「たっくん、今日はえらい遅かったやないの」

もう高校生なんだから、たっくん、はやめろよ。全く。うちのオカンは、いつまで俺のことを子供だと思っているのだろう。

「ああ、ちょっと、友達と喋っててな……」

中学生の頃なら「うっさい。ほっとけや」などと返していたものだが、反抗期はもう過ぎた。最近は、ちゃんと「ただいま」と言うし。俺も丸くなったものだ。

「冷蔵庫に肉じゃがとかサラダとかがあるから、テキトーに食べや。今日はお父さんが早よ帰ってきたから、たっくんが帰ってくる前に晩は済ませたんや」

オトンは、流し台の手前で新聞を拡げてタバコを吸っている。

「お父さん、何本吸うねんや。臭いわ。なんやっけ?アイコスとかゆうのに変えたんちゃうん?煙たないやつ」

オカンが鼻を摘まんだ。

「あれは、どうも吸った気がせんのや。やっぱり、こっちに戻ってまう」

オカンと逆の方を向いて、オトンが煙を吹き出した。どこで吹き出そうが、台所のどこかに副流煙は散らばっていく。

「なあ、たっくんも思うやろ?タバコなんか吸うても、何も得あらへん」

だから、たっくん、はやめろ。

「うん」と生返事をして、温まった肉じゃがとよそったご飯と冷蔵庫から出したサラダの乗った皿をテーブルに運び、すぐに食べ終えた。いつもより食のペースが早い。やっぱり、労働の後のメシというのは美味いものだな。労働といっても、ひたすら同じことをぼやいていただけだが。お世話になっております、株式会社ハードエニイの代理店ユーエイの本口と申します……。

山崎さんの胸ポケットのAMERICAN SPIRITという文字が脳裏をよぎった。俺も会社で働くようになったら、タバコを吹かすのが気持ち良く思えたりするのだろうか。

「たっくん、お風呂上がったら換気扇付けといてや」

だから、たっくん、はやめろっての。

またもや、島本から召喚命令を受けた。今日は、高校の最寄り駅から5駅はなれたところの周辺をしばらく散策した後に、イズミヤに入った。イズミヤというのは近畿地方にたくさん点在するスーパーマーケットチェーンであり、西友のローカル版みたいなものである。関西は西友よりイズミヤの方が圧倒的に多い。

イズミヤの2階でスリッパとかカーペットとかを見た。そんなものを見てどうするのかよくわからないが、島本はあの柄が可愛いとかあんなカーペットが家にある部屋はお洒落だとか言っていた。が、俺が辛うじて興味を引かれたものはTHE NORTH FACEと書かれたリュックだけで、その理由もただ単純にこれを背負っている人をよく見かけるから、というだけだった。

なぜか、屋上にある駐車場に行こうと言われたので行ってみた。もちろん高校生の島本が車を持っているわけがないし、駐車場にわざわざ行くということは車が好きなのかと訊いたがプリウスしか知らないらしい。結局、喉が乾いたのでグリーンダカラ1本のみを買ってイズミヤを後にした。

俺はダルいとも言わなかったしめんどくさそうな素振りも見せなかった。だがその代わりに、とうとう気になっていたことを訊いた。

「なあ。別に、遊びに行きたいだけなら、仲いい女子誘ったらええんちゃうん?クラスに仲ええ奴何人かおるやろ?」

「…………」

島本は、無言のままだった。女子の無言というのはなんだか困る。こういう時、デキる男はセンスに溢れたジョークの1つや2つ繰り出して場を盛り上げたりするものなのだろうか。

「………………………………フィッシャーズで誰が好き?」

それがセンスに溢れたジョークなのかはわからないが、クラスの女子がよく話しているのはフィッシャーズのマサイが好きとかモトキが可愛いとかなんだかそういうことだ。ちなみに俺はフィッシャーズのメンバーの顔と名前が一致しない。

「……家が近い女子があんまおらんねん。ウチ、だいぶ遠いとこから通ってるし。ギリ隣の市との境やし。あと、・・・」

そっぽを向いて、島本はこう続けた。

「男子の方が、都合がええねん」

「……?」

「ウチ、親が厳しいから、ほんまは門限6時とかやねん。でもそんなん早すぎるやん。この前イオンに遅くまでおったのも、夜のイオンが見たかったから。閉まる直前のイオンとか、初めて見た。警備員の人が来て、シャッター閉めて。スーパーだけはずっと開いてんのとか、知らんかった」

「……そんなん、おもろいかあ?ていうか門限あるんやったら言うてや」

「…………わかってへんなあっ!もうっ!」

それから、島本は再び黙りこくってしまった。女子の無言は本当に困る。それ以降、その日にお互いに発した言葉は、別れ際の「じゃ」だけだった。

ソータは工場、ヨドは宅配業者、そして俺は電気サービスの案内。3人とも無事に職を得た。株式会社ユーエイの面接があまりにもあっけなく進んでその場で受かったことを2人に話したところ、ソータは「そこ裏があるんちゃうん?」と眉をしかめ、ヨドは特に何もコメントしなかったがやはり微妙そうな顔をしていた。正直なところ俺も、大丈夫かなあという不安定な気持ちのままでいた。

さて、バイトを始めたものの、あくまで俺の本職はエロ本収集家である。

今日はアダルト雑誌、月刊バズクイーンの発売日なのだ。エロマンガ誌の悦楽バッファローと違って、セクシー女優のグラビアやインタビューが載っているリアルな雑誌だ。日本のポルノ業界を支えるべく、売り上げに貢献せねばならない。本日も午前中から地元から遠い駅へと乗り込み、書店にて意気揚々と月刊バズクイーンをゲットした。ちなみに俺は必ず書店で購入する。エロ本界だけでなく書店業界にも貢献すべきだと考えているのだ。コンビニからエロ本が撤去されようが、痛くも痒くもない。コンビニ業界に貢献はしないのかという疑問については……まあ、コンビニは他にもおにぎりとかスイートとかたくさんあるからそこで粗利を取れば良いのではないか。いや知らんけど。

本来ならこれでミッションは完了なのであるが、今日はもうひとつのミッションを、ソータとヨドと3人でこなす必要があった。

「あの……、メイドカフェ、って、行ってみたいと思わへん……か?」

あまり自分から提案することのないヨドが、もじもじと切り出したのが先週の木曜日。ソータはすぐに乗っかった。こいつは可愛い女の人ならたぶん誰でも好きなのだ。俺も、メイドというものはよくわからないが、やめておこうというほど嫌なわけでもなかった。試しに店舗のオフィシャルホームページを検索してみたところ、予想以上に可愛い人だらけで素敵な気分になったのも事実だった。

学校の帰りにイオンやジャンカラに寄ることはあったが、休日にこいつらと遊びに行くというのは久しぶりだ。ここには書けないようなどうしようもないエロトークをした。

やっぱり男同士というのは、気兼ねがなくて良いものだ。メイドカフェに可愛い人がいるなら行こう、オムライスに「LOVE」って書いてくれるなら是非ともお願いしよう。実にわかりやすい。島本みたいにめんどくさくない。

メロンソーダ1杯400円というのは高額すぎる気がしなくもないが、猫と人間のハーフだというミウたそがメロンソーダの甘味が280倍に拡がるミウミウニャオニャオマジックとかいう魔法をかけてくれて嬉しかったのでそれで満足した。じゃんけんに5回連続で買ったらミウたそとの2ショットチェキを撮らせてくれるということで挑戦したのだが、3回めで負けたので残念だった。ソータはあと一歩のところでリンナさんに負け、ヨドは速攻でカナちに負けていた。

とても有意義な休日のお昼であった。

俺たちの相手をしてくれた3人のメイドさんは、全員で「行ってらっしゃいませ」とエレベーターまで見送ってくれた。

もちろん我々だって馬鹿ではないので、実際にミウたそが猫と人間のハーフだなどとは思ってはいないし、裏ではもしかしたらキモがられていて、今ごろリンナさんやカナちと陰口を叩いているのかもしれないという気持ちは少しはあった。が、ミウたそは可愛くて優しくて癒されたということは紛れもない事実なので、それだけで満足した。俺たち3人の野郎どもはデレデレしながらメイドカフェを後にした

ミウたそは欅坂46の人に似ていたのだが誰だか思い出せず、誰だっけと話していたところ、ヨドが推測するに菅井友香という人らしいという結論に達したところで、ソータは「あれ?」と口にした。

「あれ、うちのクラスの島本とちゃうか?」

なんメートルか先に、見覚えのあるツインテールの後ろ姿が見えた。確かにあいつは島本だ。俺は、目が合わないように遠くの方を見た。この間の件があるので気まずい。

「こんなとこ来て、何しとるんやろ?」

この辺りは繁華街で、建ち並ぶ店舗のほとんどはバーやキャバクラなど夜のお店で、本来はあまり高校生が来るべき場所ではない。メイドカフェに年齢制限はないものの、ほんの少しだけ、大人っぽい場所に入るという冒険心があったからこそヨドの提案に乗っかった部分もあった。

「おい、島本、何しとんねん、こんなとこで」

ソータは単刀直入に話しかけた。こいつのこういう性格は、俺が見習わなければいけないところかもしれないな。

「うん、ちょっと……。人を待ってて」

島本は、スマホをいじりながらそう返した。ソータは少しだけ首を捻っていたが、「あ、そう」と言って、「帰るか」と、俺とヨドの方を見た。ヨドはもう少しこのあたりを探索するとのこと。俺はソータと共に帰ることにした。

「ああ、俺、バイトあるから、どっちにしても帰らなあかんし」

と、立っている島本を通り過ぎようとしたところを、「あ、本口くん、ちょっとだけええかな?」と呼び止められた。ソータは「え?何?なんの用?」と首を突っ込んできたが、島本にあっさりと「岸辺くんは関係ないねん」と跳ね返された。やっぱりこいつを見習ってはいけないかもな。

「じゃ、ごゆっくり」と、ソータは1人で帰って行った。何か勘違いをされているような気がする。

「えーーーっ、と…………」

何をどう切り出せば良いのかわからない。この間は喧嘩別れのような形になっていたが、どうしてあのようになったのか、あれから自分なりに考えてはみたが整理ができなかったし、LINEで問いただしたりなどすればますます逆鱗に触れかねない予感がした。

「……………」

無言が1分ほど続いたのち、ついに島本の方から口を開いた。

「こないだのこと……やけど、…………」

言葉に詰まりながら、島本は、長いツインテールを思い切り振り乱して、頭を下げた。

「ほんっまに、ごめんっ!」

頭が下がっているので、顔は見えない。ここまで来てやっときちんと、俺は島本の頭にきちんと目線を合わせた。ぐすん、という音が聞こえた。鼻をすすったのか、それとも泣いたのか。前者であってほしい。理由はさっぱりわからないが、もし女の子を泣かせたのだとしたら、なんとなく辛い。

「あの、……謝らへんくてええから、なんでここにいるん?それだけ教えて。この時間にここに来てもメイドカフェくらいしか開いてへんかったで?」

「うん。……ほんま、ごめんな……」

「謝らへんでええって」

「えっと……」

なんとか落ち着いてくれたらしい。俺の方も、気持ちが落ち着いて、島本の顔を見られるようになってきた。ホッとしたような表情をしている。なんだかわからないが、その一瞬、かわいい、と思った。

世の中には可愛い人はたくさんいる。麻倉ももやミウたそや欅坂のゆっかーは可愛いし、エロ本に出てくるセクシー女優の皆様ももちろん可愛い。でも、そういうのではない。なんだこれ。

ぼんやりしていると、島本はぽつりと話し出した。

「ウチの親、このへんで働いてんねん。ウチ、パパしかおらんねん」

「パパ……、あ、ああ、オトンか」

オトン・オカンではなく、パパ・ママと呼ぶ家庭で育ったのか。そして、離別か死別かはわからないが父子家庭のようだ。謎だらけだった島本について少しだけわかった。なぜか、ちょっと嬉しい。そして、もっと知りたい。俺は黙って聞いていた。

「パパは若い頃からバーテンダーで生活が夜型やねん。夕方6時に起きて、ウチが起きるくらいの時間に帰ってくる。ウチの門限が6時なんは、パパが出勤前にウチの顔を見たいから、っていう理由。アホやろ?」

アホやろ?と同意を求められても、俺は島本のパパ上を見たことがないのでなんとも言えないのだが、「ああ」と生返事をした。

「でも、高校生やねんから、たまには夜出歩いたり、ちょっと遠く行ったりしたいやん。パパは過保護やから、ウチが遊びに行ったりすんの、嫌がんねん。で、心配性やから、友達と行くってゆうても、女子ばっかしやったらあかんとか。時代錯誤やねん」

だいぶ謎が解けた。だから、男子である俺を誘って、夜のイオンとか、ちょっと遠いイズミヤとかに行ったのか。

「最初に本口くんがエロ本買ってるん見た時は、そのことでパパと喧嘩しててん。で、勢いで家出て、でも途中で怖なって、7駅先までで下りたのが正直なとこや」

「じゃあ、別になんか目的があってあそこ行ったわけとちゃうんや?」

「うん。散歩するつもりもなかった。その晩、普通にパパと仲直りしたし。イオンに行った日は夜遅かったけど、あの時はオープン前の知り合いのバーの手伝いに行ってて何日か家におらんかってん。バーテンダーって横の繋がりが強いらしくて、そうゆうの多いねんて」

「……そうなんか」

島本のパパって、どんな人だろう。いや、それよりもこの、ちい散歩ならぬしまもと散歩は、今後も放送されるのだろうか。

「……で、その散歩は、いつまで続けるん?」

その問いに対し、島本はしばし考えて、こう答えた。

「フィッシャーズはモトキ派やな」

ああ、そんな話を振ったっけ。いや、今はその話はしていない。モトキってダンスが上手くてあんまり出てこないレアキャラの人?あ、それはザカオか。

「また、LINE送るわ。送ったり送らんかったりでごめんな」

そう言って、島本は繁華街へと消えて行った。まだ夕方の5時過ぎだというのに暗くなってきた。

長いこと立ち話をしていたせいで、指先が悴んでいた。冬は苦手だ。2月がまだ20日以上も残っていると思うとうんざりした。2月なんて早く終われ。

さて、今日はまだミッションが残っていた。さっき、3つめのミッションができてしまったのだ。激務の1日だ。

メイドカフェで、天使の愛が込められたやすらぎカルボナ~ら、とかいう名称の、たぶん普通のおいしいカルボナーラをいただいている最中に、山崎さんからLINEが送られてきたのだ。どうやら、今月の数字が足りておらず、少しでも人手が欲しいのでテレアポを手伝ってほしいとのこと。予定があるならば出勤しなくても良いそうだが、時間が空いている日はなるべく出勤したい。まだバイト2日めな上に、初日はロープレとかいう音読の練習だけだったのであまり自信はないが、とりあえずお給料はほしい。かといって週1の固定を週2とか3とかに増やすほどのやる気はないが。

というわけで電話をかけまくったものの、全く契約は取れなかった。午後8時になる少し前に、今日のテレアポはこれで終了です、と、マネージャーの方から合図があった。法律上でテレアポは午後9時までと決まっており、更にマナー上その1時間前の午後8時で切り上げるのが主流なのだそうだ。

全員で一斉に起立し、礼をした。学校の終礼みたいだ。もっとも、終礼をしたからといって、社員の方々はまだ帰れないらしい。山崎さんはそそくさと喫煙所の方へと向かった。いちおう「お先失礼します」とは言ったのだが、たぶん聞こえていなかっただろう。社長室では、何やら荒ぶった声が聞こえていた。少なくとも平穏な雰囲気ではなかった。

ビルの前に今日も黒い車が停まっていた。初日に山崎さんに教えてもらったのだが、あれは社長の車で、レクサスとかいうらしい。車に詳しくない俺でも、かなり高級そうだということはわかった。

まだ2日めではあるが、このバイトはもう辞めようと思った。どうせ俺は根気がないさとり世代なのだよ。ただ、バックレはやめておこう。契約書に保護者の電話番号を書く欄があって、勝手にオトンの携帯番号を書いているのだ(※真似してはいけません)。下手したら会社から親に通告が行ってバイトのことがバレてしまう。

少しだけ大人の世界を垣間見たが、なんだか大変そうだなあ。そうぼんやりと思いながら歩いていると、ふと、今日の夕方の島本の表情がよぎった。あの瞬間になんとなく沸いた感情は、なんだったのだろうか。

プロエロ本収集家として5年近くのキャリアを誇る俺だが、クラスの女子だとか知り合いの女の子をエッチな目で見たことなどは全くない。私はストイックな紳士なのだ。……というのは嘘で、そりゃあまあミウたその胸元の膨らみを見て期待(何をだ)したりとかそういうのはあるのだが(どういうのだ)、なんというか、そういうアレ(ドレやねん)ではない。

なんというか、うーん、……生物的に、かわいい、と思った。なんだこれ。

もしかして俺は、変態だったのだろうか。ちなみに生物学的に変態とは……、すみません、俺、文系クラスですから。わかりません。

「え?マジかよ?」

「ああ、俺はこの高校を変える」

教室が騒がしい。そして、なにやら大きく出たな。今日は珍しく始業5分前に登校した殊勝な俺だが、早めに教室に入れば革命児に出会えるのか。その革命児は……野江だ。

なんだ、野江かよ。どうやら、生徒会長に立候補するらしい。そして、創立して以来ずっと続くアルバイト禁止の校則を撤廃する計画を立てており、それがスローガンなのだそうだ。表向きは、学業のみでなく社会経験も学生のうちに積んでおくべきであるという考えに共感する、といったところだが、まあ俺も含めてクラスの半分くらいは隠れてバイトをやっているので、その支持率はかなり高いだろう。俺も支持さぜるを得ない状況なので、選挙ではほぼ確実に野江に投票するだろう。

そういえば昨日、テレアポのバイトを辞める旨を告げた。なので次の職場を探さなければならない。

辞める際には直に伝えた方が良いと思い、シフトが入っていない日だったが会社に赴いた。事務の人に山崎さんを呼んでもらうように伝えたら、山崎さんは今週から別のオフィスに出向したのでもういないと言われた。出向ってなんだ。特に引き留められはせず、それどころか、わざわざ来なくても電話で良かったのに、というような反応をされた。まあ、アットホームな職場とかいうものではないことは十分に理解した。

ソータには、予想通りの勘違いをされていた。メイドカフェに行った翌日の第一声が「おまえ、島本と付き合ってんの?」だったのだ。

まあ、こいつにはエロ本の件がバレても構わないので、それまでは言わなかった一部始終を説明した。これも予想通り、大爆笑された。「さすがプロエロ本収集家!ぎゃははは!」おい、声がでかいぞ。全く。ソータに話したということはつまり、ヨドもこの秘密を知ったということだ。別にいいけどさあ。

生徒会長選挙は、2月の末に行われるのが例年の日程だ。まだ先のお話だな。その前に、我が校の入学試験がある。そして、入学試験当日は、俺たち在校生にとっては、貴重なお休みなのである。まあたぶん、お馴染みの地元のジャンカラに集まるのだろう。

2月14日。

それは、人によってはとてもとても大切なイベントがある日だということは、俺も知っていた。

だが、そんなものは関係なく、俺たち野郎どもはジャンカラにいた。ジャンカラというのは、関西圏で最も店舗数の多いカラオケチェーン店であり、関東でいえば歌広場である。ちなみに、飲食物の持ち込みOKで有名なまねきねこの店舗は関西にはあまりない。ジャンカラは以前は持ち込み禁止だったのだが少し前にOKになった。たぶん、どうせみんなこっそり持ち込んでいるから、禁止しても無駄だと思ったのではないか。

今日は、いつものソータとヨドに加え、隣のクラスの中津(なかつ)がいる。通称ナカやん。1年生の頃は同じクラスだったのだが、数学が得意な彼は、文系から進路変更したいと申し出て、2年生の4月から隣の理系クラスへと移った。学内で話す機会は減ったが、教科書を忘れた時などにお互いに貸し合ったりする。

未だ見ぬ新1年生たちは今ごろ、うちの学校の机で運命の分かれ目と対峙しているようだ。がんばってくれたまえ。俺も3年前に経験して緊張した。高校入試というのは、中学3年生にとって、とてもとても大切なイベントだ。だが先輩がたはカラオケを楽しませていただく。すまない。あと、世のカップルたちも、勝手に楽しんでいてくれ。

ソータはカラオケ好きだ。思えば初めてカラオケに行ったのは、当時はまだ大学生だったソータのお兄さんに連れられてのことだった。

トイレに入ると、久しぶりに見かける顔が用を足していてびっくりした。ナカやんと同じく、2年生から隣のクラスに移った1年生の頃のクラスメイトの塚本(つかもと)だ。ナカやんと仲が良かった繋がりで、俺も絡むことがわりと多かった。

「おう、おまえらも来てたんか」

「ああ、ナカやんと、ソータとヨドと」

学校の近くの遊び場は、イオンとジャンカラくらいしかない。同じ学校の生徒とこんなふうにバッティングするのは、たまにあることだった。

「俺ら、206号室やねんけど」

「え?マジで?隣やん?俺ら、207」

「え?そうなん?なら、ちょうど良かったわ」

「?」

「部屋、交換せんか?」

「え?なんで?」

「実はな」塚本は俺の耳元に口を近づけて小声で言った。「うちのクラスの山田(やまだ)っていう女子が、ナカやんのこと、好きらしいねん。だから、同じ部屋にしたってや」

「そっち、女子もおるん?」ちょっと羨ましくなって、訊いてみた。

「ああ。俺のクラスやからお前知らん奴もおるかもやけど、山田と豊津(とよつ)と北浜(きたはま)と……」

 「待って、……そんなにいんの?」

「パーティー部屋やからな」  

「わかった。行くわ」

正直なところ、こんな日にオタクくさい野郎3人どもでカラオケにこもっているのも侘びしい、という気持ちが多少はあった。ソータとヨドには悪いが、せっかく誘われたのだから、なるべく華やかな場所に行きたいと思うのは人情だろう、と。

トイレから帰った俺は、おずおずと206号室のドアを開けた。

塚本の言っていたことは大嘘だった。206号室はパーティー部屋などではなく、むしろめちゃくちゃ狭い、頑張っても鮨詰めで3人が精一杯のしょぼい部屋だ。外壁がはがれてコンクリートが見えていた。関西のベッドタウンのジャンカラには、たまにこういう部屋がある。

そして、1人でうつむいて座っている少女がいた。…………島本だ。他には誰もいない。豊津とか北浜とか、俺はよく知らないおそらく隣のクラスの女子もいない。

島本は、チラッとこっちを見た。どういうふうに返したら良いかよくわからないので、とりあえず素直な感想を言った。

「…………え?なんで?意味がわからん」

「……なんでもええやろ」

何がどういうことなのか、よくわからなかった。まさか、ソータは未だに勘違いをしているのだろうか。   

「あの、俺、隣の、207号室やねんな?さっき塚本に、こっち来い、言われて来てんけど、そのこと、ソータとかに言ってへんから……」

やっぱり無断で部屋を移動するのは良くないな。店員さんに迷惑がかかかるだろう。女子がいっぱいいるようなことを塚本に言われて来たが、俺を騙しやがったなあの野郎。そう思って部屋から出ようとする前に、シャツの裾を島本に引っ張られた。  

「待って。ええから、待って。このこと、みんな知ってるから。岸辺くんも淀屋橋くんも中津くんも塚本くんも、それから、あさみも知ってる」

「…………?……あさみ、って、誰?」

「隣のクラスの山田さんの、下の名前や。中学一緒やって、今でも仲ええねん。ほんまはあの子に散歩に付き合ってもらお思てたけど、女子やから無理ってパパが……いや、それはええねん」

「…………?」

モニターでは、フィッシャーズのインタビュー動画のようなものが流れていた。JOYSOUNDのイメージキャラクターのようなものを務めているとのことだった。モトキって誰だ。わからん。

とりあえず、カラオケに来たからには歌わねばならない。2人でカラオケにいる場合、まず誰が歌うのかという会話が始まるのがお馴染みだろう。たぶん。人にもよるのだろうが、トップバッターで歌うというのはなんとなく恥ずかしいものなのだ。

そして、大人数なら誰が何を歌おうがあまり気にならず自分もわりと大らかに選曲できるが、2人しかいない場合、入れる曲も相手の音楽性によって多少は左右したりするものだ。いやまあこれはもちろん俺の場合だが。ここは島本先生の音楽性について伺う必要があると考えた。

「えーーっ、と。自分、先入れる?何入れる?誰が好きなん?」

「…………あなたが、好きです」

「……え?」

いや、あの、好きな歌手とかバンドとかについて訊いたのだ。もしかして、あなたが好きです、という名前のアーティストがいるのだろうか。

「えーっと、……あなたが好きです、が好きなん?」

「はあああ?」

「えっ?ほら、ヤバイTシャツ屋さん、とか、オメデたい頭で何より、とか、ずっと真夜中だったらいいのに。、とか、そういう感じのグループ名多いやん?やから、あのう、あなたが好きです、っていうバンドがいるんかと……」

「バーカ!バカ!バーーッカ!」

「うううっ……!」

関西人にとって「バカ」とは、最大級の侮蔑の言葉である。いや、でも、じゃあ、だから、つまり……。ん?これはつまり。

「えーと、あなたが好きです、を、俺、わたくし、拙者、に対して、言っていると!」

「アホ!アホォ!ドアホォォォォッ!」

関西人にとって「アホ」とは、ある意味では最大級の愛情表現である。相手のことをアホと呼べるほどの深い仲を結べたという裏返しなのだ。この風習はかなり古くから存在し、少なくとも宮川大助と花子が結婚した1976年には既に定着していたといわれている。

「……これ」

そっぽを向きながら、島本が紙袋を差し出した。

「阪急の袋やん」

「袋はどうでもええわっ!ウチももっと可愛いのに入れてくるべきやったと思ってるわっ!……中のアルミ……めくってみて……今日は、何の日やったっけ?」

「え?」

阪急百貨店の紙袋には、黒く四角い箱が入っていた。

「この箱、セリアで買ったやつやな。シールついたまんまやん」

「うっさい!今朝になって袋と入れ物がないことに気づいたんや!家に阪急の袋と100均の箱しかなかったんや!ええから早よ開けて!」

箱を開けると、中には、アルミホイルに包まれたハート型のものが入っていた。

「……もしかして、……」

ようやく、俺は理解した。そして、自分で自分にツッコんだ。鈍感すぎるやろ俺。

「……めくるで?」

「ゆっくり、めくってや。中身壊したら許さへんから」

言われた通りにゆっくりアルミホイルをめくると、中から出てきたものは、予想通りにハート型のチョコレートだった。真ん中には、3つの文字が赤いホイップクリームで書かれていた。

「エ、ロ、本……」

文字をそのまま読むと、島本はニヤニヤ笑った。たぶん最初に話した日、7駅先の本屋で俺の秘密を知った時と同じ顔だ。

「最初はフツーに名前を彫ろ思てんけどな。逆にした方がおもろいかな、って」

「アホかっ!」

すかさずツッコんだ。

「……食べてみて」

「……うん」

あえて文字の部分には触らずに、ほんの端っこの部分をポチっと折って、口に入れた。見かけよりも、ずっとずっと甘かった。

「……クリームって、甘いな」

幼児か俺は(本日2度めのセルフツッコミ)。そして、ものすごく大事なことを言わなければならないと、今、気づいた。

俺、島本のこと、好きだ。

メイドカフェに行った日の夕方に抱いた感情の原因は、それだったのだ。そして、もっと、この人のことを知りたい。

端っこから食べていったチョコレートは、真ん中の「エロ本」の部分だけがごっそりと残っていた。

「あの、これな、……バレンタインやねんな?」

「……………」

俺がチョコレートを食べ始めてから、島本はずっと黙っていた。この状況で無言というのはなんとも恥ずかしいというか照れるというか、間が持たない気がして、言ってみた。

「……来年は、フツーに俺の名前書いてな」

「……うんっ」

よし、言えた。順序がおかしいとは思うが、女の子に告白されるなんて生まれて初めてで、勝手がさっぱりわからない。だが、これだけは今、言わなければならない。

「あの……」

「うんっ」

島本の声が普段より1オクターブ高くなっているように思えた。そういえば俺の声もいつもと違うような気がするのだがそんなことよりも今するべきことは……。

息を思いっきり吸った。そして、一瞬だけ目を閉じた後、目と口を一気にカッと開いて、ついに言った。

「ぼくは、島本さんが、好きです!」

小学生か俺は(本日ラストのセルフツッコミ)。

しばらく、やっぱり無言の時間が流れた。チョコレートは、文字の部分も食べきった。

「ありがとうございました」

いや、ごちそうさま、と言うのが正しいのだが、照れくさくなって、しかし感謝の意は述べねばなるまいと思って、こういう言い方になってしまった。

「……あの、なんか、入れる?曲?……そういえば、誰が好きなん?俺は、特別誰が好きとかなくて、てゆうか、音楽あんまわからへんねん。だからカラオケとか、基本人のを聞いてんねんけど……」

じゃあソータの歌をもうちょっと真面目に聞いてやれよ、と自省した。

「……ウチ、歌ったらアニメ声やねん……」

「……そうなん?ええやん。聴かして。ヨドがフツーにボカロとか歌うから、そうゆう系のでも全然俺行けるし」

「……ちょっと、びっくりする思うで?アニソンでもボカロでもないけどな」

「うん、びっくりさして!」

島本の音楽の好みとかって、どんな感じなのだろう。あいみょんとか好きなのかな。コレサワとかかな。あるいは、The Oral Cigrettesとか……

「…………………?!?!??!??!?/?/"2"5900473472985778487575238929895854858349090]………」

いや、別に俺がいきなり正しい円周率を唱え始めたわけではない。大体3から始まっていない時点でおかしいし。

頬に、島本の…………が触れた。

「えーーーーーーーっと……………、これは、何だっけ?その、いわゆるひとつの、接吻という、アレ?」

「わざわざ難しい言い方しようとすな」

いや、わざわざ難しい言い方をせぬと、耐え切れぬのだ。いわゆるひとつの、KISSというアレだ。初めてはミントの味がするとかいうのは嘘だ。別にミント感はなかった。でも。

「……すごく、気持ち良かった」

なんつー気持ち悪い感想だよ。ただのエロオヤジかよ。

「……ごめん、もっかい、しよ」

だからエロオヤジかよ。

「次は、俺から、していい?」

どんどんエロオヤジになっていくぞ俺。ああもうどうにでもなれ。

ミントの味はしなかった。だけど、不思議な世界に連れていかれるような気がした。

「……初めてのキスはミントの味って、あれ嘘やな」

ようやくストレートな表現で言えた。

「……うん」

島本も照れているようだった。

「次は、ミンティア食べてからやる?」

「うん。きつめの味のやつがええな」

レモンライム味とかなら本当にミント味のキスができるかもしれない、という、頭が悪すぎることをしばらく話した。というか、そんなアホな話でもしないと気絶しそうだった。

207号室に戻ると、みんな酔っ払っていた。

塚本の親はファミリーマートのオーナーであり、たまにお店の廃棄商品をいただくことがあるのだと言っていた。高校生ながら、お酒やタバコが合法的に(※全く合法じゃないし真似してはいけません)入手できるのだそうだ。

ナカやんと山田は先に退室し、2人でどこかに出かけたらしい。

ソータとヨドは、「ちっ」というような感じで、向かい側で腐っていた。

「おいヨド、またメイドカフェ行くぞ」

「おう!」

「俺も」と言ったが、「リア充は誘わん!」と一蹴されてしまった。

ソータの手元にはタバコの箱があった。AMERICAN SPIRITと書かれていた。山崎さんが胸ポケットに入れていたタバコと同じ文字だが、色が違う。山崎さんが持っていたのは黄色い箱だったが、机に置いてあったものは水色だった。

「俺も、1本……」と、水色のAMERICAN SPIRITとやらの箱から拝借した。箱の横に添えられていたライターを受け取り、火を点けようとしたが、どうにも上手く点かなかった。

「いや、咥えながら火ぃ点けるんやって」呆れた顔でソータがアドバイスした。「ええか?俺が吸うから、よう見とけよ?」

ソータは慣れた手付きでタバコを咥え、ライターを器用に操り、一瞬で点火した。「美味いな」と、思いっきり副流煙を吐いた。煙たかった。流し台にいるオトンが醸し出すのと同じ匂いがした。オカンがあんなに嫌がる気持ちも少しわかった。でも同時に、この白い細い棒を吸い込んで煙を吐くというのはどんな感覚なのか試してみたくもなった。

今度はちゃんと口にしっかり咥えて、無事に点火できた。だが。

「ゲホゲホゲホゲホゲホッッッ………!!!!!!!」

めちゃくちゃに噎せた。気持ち悪くなった。

ゲラゲラと笑ってソータは「それ強いやつやからな。12ミリやし」と、再び美味しそうにタバコを燻らせた。

ヨドは「俺はもういらない……さっき1本吸ったから一応タバコの経験はした。それだけで充分」と感想を述べた。そして、「やっぱタバコは良くないわ」と俺に内緒話をするように言った。「俺も、もうええわ」と返した。

塚本はThe Oral Cigarettesの曲を熱唱していた。『気づけよBaby』…………。はい。なんかすみません。

きっと、裏で手を回してくれていたのだろう。トイレでばったり会ったのも偶然ではなく、たぶんLINEで伝達していたのだろう。ソータもヨドもナカやんもバレンタインのドッキリのために知っていて知らない顔をしてくれていたのだ。今日のカラオケ代は俺がぜんぶ払おう。それくらいの感謝の気持ちは見せないといけない。

体育館内は盛大な拍手に包まれていた。特に、我が2年A組の列の者たちは激しく手を叩き、檀上に立つ野江隆史新生徒会長の誕生を祝った。

これで学校や親に隠さずに、堂々とバイトができる。次は何をしようか。どうせどこに行ったって、お金をいただく以上はきつい部分があるのだ。あえて接客業とかも良いかもしれない。生まれてこのかた家庭科の授業でしか料理なんてやったことないもんな。

朝礼を終えて教室に戻ったら、何やらざわついていた。

「知ってる?今日、転校生が来んねんて?」

「江口、っていうらしい」

マジかよ。

「おまえのあだ名、変えなあかんな」

そう言ってソータはすぐに、いくつかの俺の今後のあだ名の候補をノートに書き連ねた。持つべきものは友人である。

・モトやん(笑)
・たっくん(笑)
・元祖エロス(笑)

なぜすべての候補の後ろに(笑)が付いているのか。あと、たっくん、はやめろ。ソータはうちのオカンをよく知っているので、俺がこの呼び名を嫌がっているのを理解した上でイジっているのだ。モトキがいい、と俺は言ったのだが、それは本家に失礼だ、本家に謝れ、などと大ブーイングを喰らって却下された。フィッシャーズの皆様ごめんなさい。

「たっくん、がいいと思う!」

ニヤニヤしながら、ツインテールの女が近づいてきた。……島本だ。付き合うことになってから、教室内でもフツーによく話すようになった。そして、予想通りだが、ソータとヨドがつられてニヤニヤした。

「よーし!たっくん、で決定やな!」

「勝手に決めんなや!」

オカンと同じ呼び方はやめろ。

「なんで?ええやん?」島本は、真面目な表情になって、続けた。

「彼女やのに、本口くん、ってのも、よそよそしいやろ?かといって、たくみくん、ってのは、なんか恥ずいし」

いきなり下の名前を島本に呼ばれて、俺は急に照れくさくなった。でも、もう一度、読んでほしいとも思った。

「……あの、もっかい言って。もっかい呼んで」

「え……?たっくん!」

「ちゃう!オカンか!そうやなくて……、たくみくん、って……」

「……いやや!恥ずいもん!たっくん!」

「……ムカつく!……みほちゃん!」

「…………」

一部始終を横目で見て、ソータが言った。

「幼稚園児かおまえらは」

ヨドも続けた。

「アホやなこいつら」

……もうすぐ、春が来て、3年生になる。ちょっとだけ大人の世界を覗いたりもしたけれど、俺はまだまだ子供だったことに気づいた。

「なあなあ、たっくん♪」

「うっさい!たっくん、はやめろや!」

「たっくん♪たっくん♪」

…………………………。

もうしばらく、子供のままでもいいかもしれない。

さて、バイトだ。3日めにして最終日。当然のごとく、やる気ゼロだった。後から知ったのだが、バイトを辞めるには最低でも2週間前には通告しなければならないそうだ。「そこはなんとかしておきます」と事務の人は無感情に言った。3日で辞める奴なんか、ざらにいるのだろうな。 

もう契約を取ろうという気概など0.0001ミリもなかったが、それでも仕事をしている振りはしなければならない。最後の3時間をなんとか乗りきった。が、ついに1件も契約が取れなかった。お力になれず申し訳ないという気分と、こんなにたくさんの人にアピールしてもダメなら仕方がないのではないかという気分が交錯した。まあ、もう辞めるわけだけど。

帰りに喫煙所のそばを通ると、山崎さんがいたのでびっくりした。

「あっ」と、思わず声が出てしまった。向こうも俺に気づいたらしく、「ども」と、軽く返ってきた。初日のようなきびきびしたビジネスライクな感じではなく、砕けた雰囲気だ。 

「あの、……出向になった、って、聞きました」

出向がおめでたいことなのかそうでないことなのかよくわからないので、どんな顔をしたら良いのかわからない。しかし、山崎さんの表情は穏やかだった。

「はい。同じ系列の京都の会社で人事部の仕事をするようになりまして。新卒採用とか、研修のサポートをすることになりまして」

「元気そうで良かったです」

あ、「元気」じゃなくて「お元気」か。こういう言葉遣いの雑さが、まだ子供なところなんだろうな。しかし実際に、山崎さんは以前よりも顔の艶が良く見えた。少し砕けた話し方なのは、もう上司と部下という関係性ではなくなったからなのか。

「どうも、数字を日夜追っかけて、というのは、僕の性に合わないみたいで。だから、出向して部署が替わって、むしろホッとしてるんです」

「それは、良かったですね」

どうにも、大人の会話をするには、俺はまだまだボキャブラリーが貧弱だ。

「本口さんも、辞めてしまわれるんですね。まあ、数字とか競争とかを思いっきり楽しむ才能のある方もいて、これが天職だ、って言う人もいるし、1日で飛んじゃう人もいるし……どの選択が正しい、ってわけじゃないんですけどね」

それからしばらく、俺は山崎さんと話した。色んなことを聞いた。山崎さんは元々は20代にして株式会社ハードエニイの部長職まで昇りつめた人物で、かつては年収1000万プレイヤーだったこと。どうやらもうすぐ結婚されるらしく、その相手の女性は京都に住んでいて、出向はむしろありがたいということ。時期を見て京都に移り住むらしいこと。今日はその旨を社内の人たちに伝え、お別れしに来たのだそうだ。

「京都といっても、そう遠くはないんです。円町のあたりですから。稼ぎはだいぶ減りましたけど、彼女と過ごす時間がだいぶ増えたので、感謝してるんです」

お幸せに、と言って、山崎さんと別れた。今後、会うことがあるかどうかはわからない。初日にいただいた名刺はもう捨てようと思っていたのだが、いちおう取っておこう。テキトーに財布の中に突っ込んだ名刺はクシャクシャになっていた。やっぱり俺は、まだまだ子供だ。ろくに常識をわかっていない。

ビルの前のレクサスは、今日は外出していた。そういえば、社長は近いうちにビジネス系のテレビ番組に出演する予定だと社内掲示板に書いてあった。その収録に行ったのだろうか。全国放送されるらしく、オフィスにもテレビ局の撮影が来たらしいが、俺はその日はいなかった。まあ、別に映りたくはないが。

最初の業務説明の時に山崎さんが話していたが、社長はひとつ前の事業を失敗させて巨額の借金を抱えて自己破産、知人の伝手を巡り回って株式会社ハードエニイに紹介してもらい、そこでトップ営業マンになり、やがて子会社のユーエイを設立した、とのことだ。東証二部に申請中だとか言っていたような気がするがよくわからなかった。でもたぶん、テレビに呼ばれるということは、これから有名になるのだろう。

今日、とうとう、進路希望調査用紙、なるものが配られた。一応は進学校のここに入学した時点で、いずれ目にするものだとはわかっていたが、いざその1枚を手にすると、予想以上に戦慄が走った。

進学を志望する大学はどこなのか、具体的に書かなければならない。今まではのうのうと中くらいの成績で赤点をまぬがれて安心していたが、今後はそれだけでは済まなくなるのだ。就職という道ももちろんなくはないのだが、バイト3日しか職務経験がない俺に何ができるのか。

そういえば、ソータのお兄さんは無事に大学に合格したのだそうだ。そして、ソータは少し前から予備校に通っていて、そこでなんと2つ歳上の彼女さんができたらしい。お兄さんと同い年だが、なんと、お兄さんの高校生の頃の同級生なのだという。社会のことはまだよくわからないが、意外と狭いのかもしれない。

ヨドにはまだ春が来る気配がないが、彼は成績が良いので、国立を目指すと言っている。なんと第一志望は京都大学だという。Twitterで拡散されていた学園祭の楽しそうな様子や、自由な校風に憧れているらしい。

ナカやんと山田は順調なようで、たまにノロケ写真のLINEを送ってくる。めんどくさい時は既読スルーしているが、そうするとなぜか見歩に怒られる。「あさみが幸せだと自分も嬉しい」らしい。 

塚本は予備校を2つ掛け持ちしている。実は努力家なのだ。やはり理系の大学を志望している。

もう少ししたら、俺たちは3年生になる。

エロ本収集は、しばらくお休みすることにした。そんな暇はなくなった。もちろん大学受験が控えているのもあるが、それ以前に。それ以前に、誰かさんのせいで。でも、誰かさんの方が、ずっと…………

「いや、エロ本と比較すんなや。失礼な!」

「痛っ!」

デコピンされた。小学生か。

「たっくん……どこの大学受けるん?」

「まだ決めてへん……、一緒の大学やったらええけど、ちゃうくなるかもしれへんし」

「どっちにしても、ずっとこんなふうにいよな?」

「うん」

実は、彼女はものすごく成績が良く、クラス内でトップクラスである。そもそも、元々はもっと偏差値の高い学校を受験していたのだが、当日に酷い風邪を拗らせてしまって実力が発揮できなかったのだそうな。滑り止めで受けた高校が、ここだったのだ。自宅から遠いのでパパさんは嫌がっていたそうだが。

同じレベルの大学に進学しようと思ったら、中の下くらいの成績の俺には猛勉強が必要なはずだ。バイトもしたいのだが、予備校も行った方がいいのかなあ。

これからも、迷いながら歩いていくのだろう。知らない駅の周りとか、夜中のイオンとか、繁華街とか、散歩を続ければ続けるほど、知らないことは増える。いきなり大人になれるわけじゃないけど、少しずつ自分が変わっていくような、そんな気がしている。

島本「見歩」という名前は、「見て歩く」という意味で付けられたらしい。この前、初めてパパさんに会った時に、そう話してくれた。

パパさんが経営するというバーに、昼間の営業時間外に特別に入らせてもらって、ポテトチップスを3人でつまんだのだ。当然ながらアルコールはダメだと言われたが、代わりにホットコーヒーを挽いてくれた。パパさんはカフェで働いていたこともあるらしい。

そんな願いを込めて「見歩」という名前を付けたのに、実際は過保護になりすぎて束縛していたということに最近になって気づいたと言っていた。だけど、1人しかいない娘はとっても可愛いから、とも言っていた。パパさんは、事あるごとに「みほたんは可愛いからねえ」を繰り返し、その度に見歩は「みほたんって言うな」と繰り返していた。よし、今度、絶対にみほたんって呼んでからかおう。

あと、10年前に病気で亡くなったというママさんは「見絵(みえ)」という名前で、「見」という漢字はそこから取ったらしい。

見歩の門限は、夜9時まで。ただし、俺と共に行動するのが条件、ということで、話がまとまった。

地井武男も加山雄三も高田純次も出て来ないが、散歩はまだ続く。

「今日はどこ行く?」

「スタバ」

「……ドトールじゃあかんの?」

「あの、やたら難しい名前のフラペチーノ飲みたいねん!」

夢は叶っていく。俺の財布のお金は減っていく。やっぱりバイトしよう。実は、ホワイトデーに渡すために、こっそりミニオンのぬいぐるみを買ったところなのだ。メルカリで買ったのは内緒な。

「たっくん♪」

「……………」

「あれ?嫌がらへんの?」

「……最近慣れてきて。むしろ、ちょっと嬉しい気になってきてん」

「なんや、おもんなっ」

「みほたんっ♪」

「……………ッッッ!!!!!!!!」

「って、呼ばれてんねやろ?パパに?」

「やめ!やめて!マジ恥ずいから!」

「みほたんっ♪」

すぐには大人にはならないけど、この子の気持ちを、見て歩こう。

「みほたん」

「たっくん」

もっと、小さい頃から出逢っていれば良かったのに。

2022年に成人年齢が上がっても飲酒と喫煙が20歳を超えてからなのは変わらないらしいが、その頃には俺は20歳を迎えている。どんな世界なんだろう。見歩と一緒にお酒が飲めるんだ。タバコは……。

「チョコレートクリームドーナツが食べたかってん」

「それ注文するのんは、全然難しないやろ!」

「たっくんも、ちょっと食べる?」

見歩の口元には、チョコレートの跡がちょっと付いていたけど、かわいかったので、しばらく指摘しなかった。やっぱりまだ、タバコはいいや。チョコレートでいい。cigarette、chocolate....,スペル合ってるよな?どこの大学を受けるにしろ、英語は必須科目なんだよなあ。ちゃんと勉強しないと。

「チョコレート、口に付いてるで?」

「自分もな?」

「そういえば、だいぶ前にメイドカフェ行ってたやろ?あそこって女子でも行ってええもんなん?」

「別に大丈夫やと思うけど」

「今度、一緒に行こや?」

散歩は、まだまだ続きそうだ。   

-CHOCOLATE≠CIGARETTE』Complete End-

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