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現代オタクと近代オタク

週刊少年ジャンプに連載されている『ウィッチウォッチ』に、クックというあだ名の女の子が出てきます。

彼女はいわゆるオタクであり、作中に出てくる漫画『うろんミラージュ』(通称うろミラ)の大ファンであることが高じて、ついには自分で二次創作をはじめ、同人誌を作る決意をしたのですが、その同人誌の原作をお願いしたのは、なんと担任の真桑先生。

真桑先生はおそらく20代後半くらいの女性ですが、彼女もまたオタクであり、クックと同じく『うろミラ』の大ファン。

教え子と先生という関係でありながら、ふたりは同志であり、定期的に喫茶店で『うろミラ』トークを繰り広げる仲です。

そんな仲良しで息が合うふたりですが、ひとつだけ決定的に違うところがあります。

クックは自分がオタクであり、『うろミラ』の大ファンであり、漫画も描いていることをすべてオープンにしています。

別に彼女が開放的な性格というわけではなく、むしろ休み時間に本を読んでいるようなおとなしい子なのですが、全く恥ずかしげもなく公然と『うろミラ』愛を語るし、喫茶店のテーブルで堂々と『うろミラ』グッズを広げたりする。

対して、真桑先生のほうは自分がオタクであることを直隠しにしている。それは、「オタクは日陰者であれ」という旧世代の価値観を持っているから。

この「オタクは日陰者であれ」という雰囲気は、自分が学生だった2000年代中盤までは、まだなんとなく残っていたように思います。

それよりも昔にあったという、いわゆるオタク=犯罪者予備軍のイメージはすでに払拭されてはいたものの、教室の隅っこでボソボソ喋っている暗い奴らという認識は、確かにまだあった。

自分の当時の友達もほとんどオタクでした。ということは、自分も端から見れば、たぶんオタクだったのですが、数ヶ月ごと新作が出てくるアニメをことごとくチェックして、どれの視聴を打ち切って、どれを継続して、というのをわざわざ吟味する作業の時点でもうついていけず、畏れ多いので、オタクを自認することができない。

しかも、アニメには2期や3期というものがある。それらをすべて追っていくとなると、とてつもない話数になる。当時はアマゾンプライムもネットフリックスもないので、毎週のように録画予約しておかないと、ついうっかり見逃した時についていけなくなる。

まあ裏技として、当時は著作権なにそれおいしい?状態の無法地帯だったニ◯ニコ動画にアップロードされているものを視る手もありましたが、これもまた、いつ消されるかわからないので、見逃したらそれでおしまい。

動画が削除されると画面が真っ黒になり、Fooさんという謎の人物による笛の音が流れるのですが、あの頃にあの笛の音を何度きかされたことか。違法アップロード、ダメ、絶対。

ぷらーなおにいさんの昔の愚痴はともかくとしても、今のほうがライトにオタクになれることは確かだとは思います。

夜更かしして深夜アニメをリアルタイムで視聴したり、1万円前後もする円盤ことDVDを買ったりすることは、わざわざ労力を使わないとできないが、今は誰でもすぐにスマホで視られるので、さほど大変なことではない。

『推しの子』とやらが流行っていると聞いた瞬間にその本放送を視られるわけで、それに比べれば、やはり、常にDVDの録画予約をチェックしっぱなしのあの時代は、遠くなりつつあるのでしょう。我々は、現代オタクの前の世代の、近代オタクなのだ。

確かに、アニメを視ているだけで犯罪者予備軍と呼ばれた昭和末期や、オタクという呼称がまだなく、そういう趣味をビョーキと呼び合っていたという一本木蛮先生の学生時代に比べれば、近代オタクはユルいしヌルいのでしょう。

しかし、真桑先生とわりと世代が近い自分としては、あの恥ずかしがり方に妙に共感してしまうし、クックみたいな現代っ子を見かけると、なんだかモゾッとしてしまう。

別にオタクっぽくもない、髪を染めてギャツビーで顔を拭くようなフツーにオシャレっぽい高校生男子たちが、コンビニの棚で一番くじの景品を見て友達どうしで話しているのを見かけると、こんなの2000年代前半に見たことあったかなあという気持ちになる。あれ?やっぱり愚痴になっているな……。

ともあれ、ちゃんとした手段でアニメを視て、好きなものを隠すことなく素直な自分のままで過ごしている今の子供たちは、本当に恵まれているなあとは思うのです。

サブスクのせいでアーティストの取り分が大幅に減ったという問題はあるそうですが、ファイル共有ソフトの悪用方法を書いた本がごく当たり前にコンビニの本棚に並んでいた頃よりは、時代は確実にマシになっている。良くはなっていないかもしれないが、マシにはなっている。

そういう環境の中で今を生きるオタクの中高生の皆様には、是非とも素晴らしい青春を謳歌してほしい。

私もマインドは14歳なのでそれに混ざりたいのですが、生物学的には真桑先生のちょっと上くらいの年齢だと思われるので、なんだか振りきれない。

せいぜい、パスケースに付けたマイキーくんのストラップをジャラジャラさせるのが精一杯なのです。

以前に缶コーヒーのキャンペーンで、東京卍會のジャンパーが抽選で当たるというのがあったのですが、もし当たっちゃったらどうすんだと日和ってスルーしてしまった。マイキーくんにおこられる。

旧世代の価値観に育てられている近代人のオタク道は、険しくはないけど、なんか曲がりくねっているのです。オタクってしんどい。オタクがよく使う意味でのしんどいではなく、ふつうにしんどい。

いやそんなこと気にしなけりゃいいじゃんというのはもちろんごもっともなのですが、身に染み付いてしまった臆病な自尊心と尊大な羞恥心があるのです。なので、私は真の意味でのオタクにはなれない。

サウナはたのしい。