見出し画像

トモさんのスラム散歩

ケニア在住12年、塚原トモさんの街歩きツアーに参加しました。トモさんいわく「スタディーツアーなんかやったことはなく、散歩なのよね。」スラムをズンズンと進んでいく姿は散歩界のプロだと思いました。そんなプロ散歩士トモさんと歩いたケニア、ナイロビのスラムの景色の記録です。

訪れたのは主に2箇所、キベラスラム(Kibera)とギコンバ(Gikomba)です。

キベラはアフリカ最大級のスラムと言われており、2.5平方キロメートルの土地に100万人の人々が暮らしていると言われています(*1)。まずンゴングロード(Ngong Road)からトイマーケット(Toi Market)という大きな市場を通過します。実は前職にてンゴングロードで働いていたのですが、トイマーケットを自転車で颯爽と通過して通勤していたのでした(笑)。かの有名なキベラスラムがすぐ脇にあるとも知らずに!ちなみにキベラ(kibera)、トイ(toi)はそれぞれ、キベラに最初に住んだヌビア人の言葉で「ジャングル」、「泥」という意味だそうです。ヌビア人はエジプトの被差別民で、イギリスのケニア統治のために連れてこられ、第一次世界大戦後にキベラに住み始めました。

古着に埋め尽くされたトイマーケットをどんどん進みます。
キベラスラムにて、見渡す限りのトタン屋根。

キベラではトモさんツアーの名物、突撃家庭訪問を行いました。ひと休みしたホテル(*2 Hotel : ローカル食堂のこと)で、トモさんがマンダジ(*3 Mandazi : 揚げパン)を10個も買っていました。その時は、トモさんはマンダジが大好きなんだなとのんきに思っていました。スラムの通りから道を一本入って、子供が僕たちムズング(*4 Mzungu :白人)を見て驚いたのか、号泣して家に逃げ込みました。トモさんはその子どもについていき、家から出てきたお母さんについ先程買ったマンダジを全て渡し、家の中を見せて欲しいとお願いしました。

ホテル(食堂)でチャイを飲みながら一息つきました。

彼女はメル(Meru)から母親を訪ねて2ヶ月ほど前からキベラに来ているそうです。メルでは1日200シリング(約200円)でお茶摘みの仕事をしていました。ナイロビでは仕事がなく、メルに戻りたいと言っていました。ただメルでも常にお茶摘みの仕事があるわけではありません。6畳ほどの部屋を3人で寝泊まりしているといい、それでもキベラではかなり広くスペースが使えている方だそうです。

トモさんの突撃家庭訪問の成功率は今のところ100%だそうです。トモさんがあまりにも躊躇なく入っていくので以前からその家庭を知っているのかと思っていましたが、突撃というだけに初めての訪問だったと聞いて驚きました。実はこれは非常に重要で、同じ家に出入りしないように気をつけているそうです。白人が通っているというだけで、お金をもらっているという噂が広がってその家に泥棒が入ってしまうなどの問題が起きる可能性があります。私達がスラムの人々と関わるということは、その周囲の人々を含めた影響に細心の注意を払う必要があるのです。今回はマンダジをお母さんにあげていましたが、何もあげないときもあり必ずしも手みあげは必要ないそうです。

次に足を運んだギコンバは、迷路のように入り組んだ市場の冒険でした。ギコンバはマジェンゴというスラムの真ん中に位置し、ケニアで最大のミトゥンバ(Mitumba/古着市場)として知られています。こちらのスラムも1952年にまで遡る古いスラム街で、モンバサ港からギコンバを通じてケニア中に中古衣類が運ばれるそうです。世界中からケニアに輸入される古着は、非常に安価で取引されるため、ケニアの衣類産業の成長を阻害しているという問題があります。

ギコンバで印象に残っているのは、古着にペイントやデザインを施し付加価値をつけている人々です。スワヒリ語で強いという意味のNguvuという言葉をペイントしたり、スプレーの先に丸い型をつけ次々と丸を繋げて模様を作ったり、ストリートのデザインを高速で描いていました。普通に古着を売っているだけでは競争に勝てないので、こういった工夫を凝らしているのだそうです。

丸い型をスプレーの先につけて白シャツに吹きかけていきます。洗濯ですぐ落ちそうです(笑)

またオドワ(Odowa)と呼ばれる食べる白い石にも出会いました。ケニアでは妊娠した女性がこの石を食べる習慣があるそうです!オドワには妊婦に必要な栄養が含まれていると信じられています。実際に1つもらって食べてみましたが、非常に柔らかく食感は食べやすかったです。味は砂でした。

言われないとまさか食べ物だとは思いません。周辺の空き缶も売り物です。
ギコンバ内の魚市場。ビクトリア湖の魚をルオ族が販売しています。写真中心近くの丸い形をした魚の唐揚げは、豊坂のストリートフードランキング in ケニア1位の味でした!
ウフル(Ufulu)というオメナ(Omena)より少し大きい小魚を買い、
家でお手伝いさんに調理してもらいました!
ウガリ(Ugali)に合って美味しかったです!

ツアーが終わり再びンゴングロードに戻ってくると、信号待ちや渋滞している車をターゲットにしたストリートの物売りがこれまで見たことのないほど大量発生していました。ンゴングロード沿いは物売りがもともと多いですが、ここまで多いのは初めて見たので驚きました。ケニア人にとってクリスマスは一年で最も大きなイベントであり、特にナイロビの人々はクリスマスになると田舎の家族のもとに帰ります。みなそのためにお金を貯めなければいけません。物価高、石油高、増税、経済の停滞、それによる失業など様々な要因からケニアの経済は今非常に悪いと言われています。そんな中で定職のない人々が、クリスマスに向けて一斉にストリートで物売りを始めているのです。「(アフリカでサバイブしたいのなら)こういう変化に敏感にならないとね」というトモさんの言葉が心に残っています。

ナイロビではクリスマスに向けて治安の悪化が予想されるそうです。常に自分が肌の色でとても目立ってしまうことを意識し、細心の注意を払って行動しなければと思います。

スラム散歩術メモ
・集団のほうが目立って危険。一人でささっと通り過ぎるほうが安全。
・地図を見ている、道に迷っている素振りは絶対に見せない。迷っても絶対に自信満々の表情を崩さない。
・貴重品は持ち歩かない。
・盗られても良いフェイクの買い物袋を持っておく。
・小銭、小額紙幣を常備。
・カメラを向けると言い争いになることがあるので、言い返すスキルがなければ許可を取る。
・突撃家庭訪問は同じ家に通わない。
・雨季は足元が泥濘むので長靴が必須。

*1 キベラの人口 : 公式な統計がないため正確な人口や面積は不明です。
*2 Hotel : ナイロビではスラムや周辺の低所得エリアでよくHotelと書いた薄汚い小屋を見かけます。なんて汚い宿なんだきっと超安いんだろういつか泊まってみようと思っていたのですが、食堂のことをHotelと言うそうです!泊まりに行かなくてよかったです(笑)。
*4 Mzungu : アフリカではアジア人も白人です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?