【読書感想文】崖っぷちのところで生きる人たちの泣き笑い (822字)

『アウトロー俳句』は、新宿歌舞伎町で開かれている句会に寄せられた作品を集めています。元ホスト、バーテンダー、ニートなどこの世からはみ出している人たちが参加しているそうです。句会の名前も屍派という凄い名前がついています。

もともと俳句には、アウトロー的なところがあります。松尾芭蕉がそうでした。「一家に遊女もねたり荻と月」という句は、その一例ではないかと思います。普通の生活からははみ出した者同士の出会いを書いた句で、『アウトロー俳句』の作品と共鳴するものを感じます。

駐車場雪に土下座の跡残る

添えられた説明によるとホスト同士の小競り合いで、こんな光景をよく見るそうです。いかにも歌舞伎町らしいと思います。普通はきれいなものとして描かれる雪が土下座という言葉と組み合わさって、ユーモアと哀愁を感じました。

春一番次は裁判所で会はう

この句も春一番と裁判所の組み合わせが絶妙。全く異質なものどうして俳句の中で一つになって、斬新さを感じます。説明によると離婚の調停のことだそうですが、それを知らなくても俳句特有の詩情を感じます。

蚊柱にぶつかりあやまつてしまふ

これはユーモアを感じて、クスリとしました。くすんだ詩情もあります。詠んだ人はいじめられっ子だそうで、それを考えると悲しいものがあります。俳句を詠むことで生きづらさを昇華している感じです。

傷林檎君に遭へないは死にたし

この句集の中で一番好きな句です。恋の俳句を詠むのは難しい気がしますが、これは見事に成功しています。傷林檎という言い方が、心の苦しさを鮮烈に表現しています。誰かに夢中な時は、こんな気持ちになることもあるでしょう。

新宿の情景や句会のモノクロの写真も多く収められており、味わい深い本です。この本を読んで、俳句は、崖っぷちで生きている人たちの救いになりうるのだと気づきました。文学の中でも特に懐の深い表現です。この本を読むのは2回目です。またいつか読み返して、一つ一つの俳句を噛みしめたいです。



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