落語の話

二代目 桂枝雀の噺

ぷらすです、明けましておめでとうございます。

突然ですが、古典落語が好きです。

まぁ、好きと言っても、落語や落語家さんに詳しいわけではなく、ただ聴くのが好きっていうだけなんですが。

落語を観られるテレビって今はNHKか「笑点」くらいですけど、僕が子供の頃は民放でも落語の番組が結構あって、夜のゴールデンタイムに30分前後の大ネタをやってたりしてたものです。

で、基本、落語の名人ってみんな高齢者じゃないですか。
なので、子供の頃の僕は、お笑いとか芸能というより、お爺ちゃんの昔話的な感覚で観ていたような気がします。
僕はお婆ちゃんっ子だったので、テレビで落語を観るときって大抵、祖母が隣にいて、子供だから分からない部分も、横で祖母が笑ってるから「ああ、面白いんだな」って思って、分からないなりに一緒に笑ってたり。
つまり僕にとって落語の思い出って祖母との思い出とセットで、そんな祖母の好みに影響をうけたのか、新作落語より古典落語の方を好むようになったんですね。

そんな僕が子供の頃大好きだったのが、二代目 桂枝雀(かつら しじゃく)さんです。

この人は関西の噺家なんですが、とにかく表情や体全体を大きく使って落語をする人で、それは関西の名人ですからもちろん「上手い」んですが、それだけじゃなく、とにかく「面白い」印象があります。
古典も新作も両方演る人で、海外公演では英語で落語をする才人でもあったそうです。

家庭の事情で高校は働きながら夜学に通い(成績、特に英語はかなり優秀だったとか)、大学に進学するも一年で「大学がどんなとこか大体分かりました」とあっさり中退、後の人間国宝、3代目 桂米朝に弟子入りして落語の世界に入りし、十代目 桂小米としてデビュー。
噺の内容の設定を深く掘り下げ、大阪では珍しい繊細で鋭角的なインテリ的な落語だったそうです。

その後、二代目 桂枝雀を襲名したのを機にスタイルを大きく変えて、高座では笑顔を絶やさず、時にはオーバーアクションを用い、それまでの落語スタイルの概念を大きく飛躍させ、どんな客も大爆笑させて人気者になったんだとか。

これは素人考えなんですが、本来落語は「語り」の芸というか、特に古典落語だと「笑わせる」事よりも、(ネタにも撚りますが)演目のストーリーを「語って聴かせる」ことが本分なんだと思うんですね。
ところが、枝雀さんは(「語って聴かせた」上で)「笑わせる」「ウケる」ことにこだわった。
そのために、「緊張と緩和」や「サゲ(オチ)の4分類」など、独自の理論を構築し、落語の笑いを理論的に追求していったそうです。

プライベートでも練習熱心な人で、子供を連れて散歩してるときや電車に乗ってるときでも練習して、稽古の熱が入りすぎて大きなアクションで叫びまくり警察を呼ばれた事もしばしば。
とにかく、高座を降りれば稽古に明け暮れているくらい真面目で、落語に対して非常にストイックな人であったそうです。

元々頭が良くて(人前では)愛嬌のある人だったので、テレビのバラエティーや、NHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」を始めとした数々のドラマ、映画「ドグラマグラ」に役者として出演して好評を得ましたが、あくまで主軸は落語であってバラエティーやテレビの仕事を多くするようなことは最後まで無かったそうです。
ただ、それだけ真面目でストイックに落語を追求する姿勢が災いし、重度のうつ病を二度に渡って発症。1999年、残念ながら自ら命を絶ってしまいました。(参考 ウィキペディア)

枝雀さんは僕の地元に二度公演に来てくれて、僕は両方観に行ったんですが、なんと二回とも同じネタだったんですよね。なのに、二回とも面白いという。
背が小さくて、ハゲ頭。人好きする愛嬌のある明るいキャラクターで誰からも愛される人だったと思います。

体全体を使い、オーバーアクション、オーバーリアクションで演じる枝雀さんの落語は、時に落語好きの人に批判される事もありました。
僕が思うに、いわゆる名人の落語が「語り」に重点を置いたストーリーアニメなら、枝雀さんの落語はキャラクターをデフォルメしたカートゥーンアニメなんだと思います。
これはただの想像ですが、古典のネタの構造を一旦解体し、現代に合うように設定をリブートして、登場キャラクターもデフォルメ化した上で組み立て直すことで、子供からお年寄りまで誰でも楽しめるように作り替えて行ったんだと思います。

枝雀さんの評価では千原ジュニアさんの話が個人的に一番腑に落ちたので転載します。

『小さいときから、なぜかは分からないけど、すごいことをやってる気がしてましたね。(中略)間口を広げて、敷居を下げて、オーバーアクションで落語を演っていて、それも枝雀師匠のサービス精神の表れだと思うんですよ。
落語が上手な噺家さんはいっぱいいらっしゃるけど、枝雀師匠は”面白い”。ほかの人は一眼レフで撮ってるのに、『写ルンです』ですごくいい写真を撮る、みたいな感じですよね。
ファミレスなのに高級フレンチ並みの料理を出すような、すごいんだけどお手軽に見せている感じなんですよ。』(ウィキペディアより)

おそらく、枝雀さんほどの噺家なら、普通にやっていればそれだけで大名人と呼ばれる人になっていたと思うんです。
なのに、このスタイルを選んだのは、サービス精神はもちろんですけど、「漫才」や「コント」という「現代の笑い」に食われ、時代に取り残されつつある落語という「笑い」のスタイルに危機感があったんじゃないかなと思ったりします。
だから、テレビやラジオで顔を売り、噺の中に「現代」の感覚を組み込み、敷居を下げ間口を広げることでご自分が、落語を知らない、または興味のない新しいお客さんを呼び込むための「入口」になろうとしていたのではないかと、そんな風に邪推する次第です。

「落語」というと、今は、中々出会う機会がないかもしれませんが、枝雀さんくらいの人なら多分レンタルDVDのお店や、DVDの観られる図書館とかに作品が置かれているかもしれないし、あまり大きな声では言えませんが、「桂枝雀」で検索すれば、観られる動画があるかもしれません。

もし、枝雀さんに興味が沸いて機会があれば、まずは手軽な方法で一度触れてみて、もし気に入ったなら他の作品も是非、ご覧下さい。

#落語






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