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大林宣彦監督のこと

ぷらすです。

4月10日、映画監督の大林宣彦監督が肺がんのため、82年の生涯に幕を閉じられました。

正直に言うと、僕は大林作品の熱心なファンではないし観ている作品自体も少ないので、この記事も書こうか書くまいか悩んだんですが、少なくとも思春期という最も多感な時期に大林作品と出会い、後の人生に影響を受けた世代の1人として「追悼」なんておこがましいものではなく、あくまで個人的な思い出の記録として、この記事を書き記しておこうと思います。

大林監督の個人的な印象を一言で言うなら「ヘンテコな映画を作る人」です。それまでの邦画の文脈とは違う演出と世界観で、オリジナルの世界観を描く監督と言えばいいのか。
多くの映画を「物語」の映像化だとすれば、大林作品は「詩」の映像化という印象。

それは、大林監督が元々映画畑の人間ではなく、CMディレクターから商業映画の世界に入ってきた人だからなのかもしれません。

大林宜彦監督は成城大学で映画を学び、まだその当時「自主映画」という概念がなかった在学中から8㎜フィルムで自主映画を作っていたそうで、自主映画界の先駆者として知られた有名人だったそうです。

その後、映画館で作品を上映するため8㎜から16㎜にフィルムを映し、藤野一友氏との共作『喰べた人』でベルギー国際実験映画祭審査員特別賞を受賞。仲間と実験映画製作上映グループ「フィルム・アンデパンダン」を結成、当時のアングラブームに乗って、様々な前衛作品を発表したようです。

その後、CMディレクターとして多くの人気作品を手掛けたあと、1977年公開の『HOUSE ハウス』で商業映画デビューするんですね。

『HOUSE ハウス』は、当時18才だった池上季実子主演のホラー映画で、7人の少女が生き物のような"家"に食べられてしまうという物語。
ソフトフォーカスを使ったCF的技法や、実写とアニメを合成するなど様々な特撮技法を使ったポップな映像や、アイドル的若手女優をメインキャラに配した「アイドル映画」的側面も手伝って、当時の若者に支持されたんですね。

僕はこの作品を後にテレビかビデオで観たと思うんですが、とにかくまぁ、ヘンテコな映画で、メインキャラの7人の名前もオシャレ、ファンタ、ガリ(がり勉)、クンフー、マック、スィート、メロディーですからねw

また、それぞれの女の子に、ドジっ子やメガネっ子、食いしん坊、ボーイッュなどのキャラづけをしていて、そういう意味でこの作品は現代の美少女アニメの先祖とも言えるんじゃないでしょうか。

ちなみにこの「HOUSE ハウス」、映画会社の人に当時大ヒットした「JAWS/ジョーズ」みたいな映画の企画はないかと聞かれた大林監督が、「だったらサメを家に変えて、家が人を食べる映画にしよう」という思いつきから生まれたのだとか。つまり「JAWS/ジョーズ」の派生作品だったんですね。それは気づかなかったわーw

そこから2本の作品を挟んで大林監督が角川春樹と組んだ第1作が『金田一耕助の冒険』(1979)です。
この作品は、一言で言うと金田一耕助シリーズのパロディー映画で、観客が金田一に対して思うあるあるをふんだんに詰め込んだ作品ですね。

で、この作品の後に作られた大林x角川映画第2弾が、薬師丸ひろ子主演の『ねらわれた学園』(1981)です。

この作品は大林監督独自のスタイルを確立した作品とも言われていて、松任谷由実の歌うED曲「守ってあげたい」も大ヒット。また、薬師丸ひろ子をアイドルに押し上げた作品と位置付けられているようなんですが、個人的にはあまり印象に残っていないんですよね。

それは映画の出来不出来の問題ではなくて、僕が薬師丸ひろ子のファンではなかったからなんですけどね。

その翌年の1982年、大林監督が故郷の尾道を舞台に撮影し、後の「尾道三部作」第1弾となる『転校生』が公開されます。

勘違いされがちですが、本作は角川映画ではありません。
主演は尾美としのりと小林聡美で、クラスの人気者の男子と転校生の女の子の体が入れ替わってしまうというドタバタ青春コメディーです。
この設定はその後、様々な漫画やアニメなどで使われるようになり、あの大ヒット劇場アニメ「君の名は。」へと続いていくんですね。

その翌年の1983年に公開されたのが、尾道三部作第2弾『時をかける少女』です。

いやー、この作品が公開された時の衝撃たるや。
彗星のごとく現れた原田知世という美少女の登場にオタク界隈が騒然となる、「原田知世ショック」が巻き起こりましたからね。
僕の記憶だと、ゆうきまさみ、とり・みきなどいわゆるオタク畑出身の漫画家がこぞって彼女をイラストに描き、原田知世的美少女を漫画に登場させ、ショートカット=ボーイッシュという概念をもひっくり返してしまったのです。

それ、映画関係ないやん(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」と思われるかもですが、さにあらず。
原田知世が、(僕を含めた)多くの青少年にここまで鮮烈な印象を与えたのは、(もちろん彼女自身の魅力もありますが)原田知世の魅力を見抜き、それまで他の「アイドル映画」で培ってきたテクニックや演出法で彼女の魅力を120%引き出してみせた大林監督の手腕に他ならないんですよ。

筒井康隆原作の「時をかける少女」は、「タイムトラベラー」というNHKのドラマになっていますし、その後もキャストを変えてドラマ、舞台、映画、アニメなどになってますが、この1983年以降の「時かけ」は全ての作品が“大林版のリメイク(リブート)”なのです。

なので、(観た人は分かると思いますが)こんなにヘンテコな映画なのに、大林版の「時かけ」を“超える”作品は、この37年間1本も出ていないのですよ。それって凄い事だと思いませんか?

この勢いに乗って1985年に公開されたのが、尾道三部作完結編『さびしんぼう』です。

「アイコ十六歳」でデビューした富田靖子を主人公に据えて撮られた本作は、「時かけ」ほどの爆発的な人気とはなりませんでしたが映画ファンだけでなく映画製作者にも人気があり、あの黒澤明も本作を気に入って“黒澤組”のスタッフにも観るよう指示したんだとか。

本作を含めた尾道三部作全てに、尾美としのりが主演の女の子の相手役としてキャスティングされていて、ある意味で“尾美としのり三部作”とも言えるわけですが、大林監督はこの三部作で、彼が演じる男の子に監督自身を投影しているように思いましたねー。

この尾道三部作を経て、スター監督となった大林監督はその後もほぼ年一本ペースで作品を発表するわけですが、この「さびしんぼう」を最後に、僕は大林作品を観てないんですよね。

なので、今回この記事を書くのを躊躇っていたのです。

2016年、余命三か月の肺がんと告知を受けた後も精力的に作品を撮り続け、「花筐/HANAGATAMI」(2017)、「海辺の映画館―キネマの玉手箱」(2020公開予定)の2本を完成させた大林宜彦監督。
個人的には、映画監督として優れているとか好きというより、「自主映画」「アイドル映画」「美少女ホラー」「男女入れ替わり」「ショートカット美少女」など、今の(オタク)カルチャーにおける人気ジャンルのひな型を作り上げた偉大な先駆者としての印象の方が強いんですよね。

それって、例えば「スター・ウォーズ」の生みの親ジョージ・ルーカスや、「モダンゾンビの父」ジョージ・A・ロメロと同じで、彼らの発明した“ジャンル”そのものを、その作品に影響を受けた多くのクリエイターが引き継いで新たなコンテンツを生み出していくという事で。
自身の優れた作品を後世に残す作家は沢山いますが、これが出来る作家は本当に一握りしかいません。
そういう意味で、大林宜彦監督は日本が世界に誇る映画監督の一人だと言えるのではないでしょうか。

というわけで、大林宜彦監督のお話でした。
大林宜彦監督のご冥福を心からお祈りします。

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