人の心を一瞬で掴む方法

レビュー

部屋に入ってきただけで場を明るくする人もいれば、反対に皆をしらけさせてしまう人もいる。できることなら前者になりたいと望む人は多いことだろう。ではその違いはどこにあるのだろうか?

 本書では、その要因は「強さ」と「温かさ」の2つの観点で説明される。「強さ」と「温かさ」は、そのどちらかだけを備えていても魅力に欠けてしまい、両者のバランスが人を惹きつけるポイントとなる。しかし、両者をバランス良く発揮することは、容易なことではない。

 ハーバード・ビジネス・スクールの必読書となっている本書では、心理学をベースに、人々の印象を左右するポイントについて解説がなされ、性別や年齢・ルックスなどの様々な要因が与える影響について知ることができる。もちろん単なる分析に終始せず、「強さ」と「温かさ」を両立するためには、姿勢や表情、ジェスチャーなどどんなところに気を配れば良いかについても言及されている。特に、聞き方、話し方の実例については大奥ページが裂かれているので、ビジネス・スピーチの教科書としても役に立つはずだ。

 本書を読めば、「強さ」と「温かさ」を兼ね備えた人物はいかに稀有で貴重な存在であるか、その存在自体が、人々をいかに勇気付けるかがわかる。他人を魅了する人物になりたいと願うとき、きっと本書はその手引きとなってくれるだろう。


本書の要点

要点1

我々は人を「強さ」と「温かさ」という2つの観点ではかる。「強さ」は能力の高さや物事を成し遂げる意志の固さを指し、「温かさ」は相手にもっと近づきたいと思わせる優しさや親近感のことを言う。


要点2

「強さ」「温かさ」の印象は、性別やルックスといった変え難い要素のよってアウトラインができてしまうが、そのほかの振る舞いで上書きすることは十分可能である。


要点3

「強さ」と「温かさ」を示すには、無意識に行なっている非言語コミュニケーションをコントロールすることが大切だ。表情や姿勢を変えることで、自分の感情も変化させることができる。


要約

「強さ」と「温かさ」は両立できるのか
「強い人」は世界を動かすーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

強さとリーダーシップは切っても切れない関係にある。カルロス・ゴーンやスティーブ・・ジョブズ、マーガレット・サッチャー.....。強さを感じさせる有名人は数多く、皆業界を牽引する人物ばかりだ。「強さ」とは、その人がどれだけ世の中を思い通りに動かせるかを測る尺度なのである。

 「強さ」は2つの基本要素ーー世界を動かす「能力」と「意志の力」ーーから成る。ここでいう「能力」は、体力や資格など技術的スキル、社交術などのあらゆる資質を指す。一方「意志の力」は、障害や抵抗を乗り越えて行動を貫き闘争とする熱意のことで、筋肉と同様、鍛えることができるものである。

 「強さ」が物事を成し遂げるための「ツール」なら、意思はツールを動かすための「動力」となる。この2つを両輪として「強さ」のシグナルは発せられ、我々はそうした人物に敬意を抱くようになる。

「温かい人」は安らぎを与えるーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しかし「強さ」だけでは人々の好感を得ることは難しい。「敬意」を「畏怖」でなく「称賛」にまで引き上げるのに欠かせないのが「温かさ」である。

プリンストン大学のジャニン・ウィリスとアレックス・トドロフによれば、私たちは初対面の人に出会ってわずか10分の1秒のうちに、相手が「温かい人」であるかどうかの判断を下しているという。「温かさ」は「共感」「親しみ」「愛」の3つの感情によって生まれる。相手の身になって考え、馴染み深い存在となり、まるで家族や親友のような「愛着」が発揮される時、我々はその人物を「温かい人」として評価するのだ。

「強さ」と「温かさ」のジレンマーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「強さ」と「温かさ」の間には相互作用が働いている。好感を持てる人物は能力も高い、と言う判断がされることもあれば(ハロー効果)、強さを演出しようとすれば温かさがマイナスとなり、温かさを表に出せば強さが損なわれるという側面もある(シーソー効果)。また「強さ」をもたらすホルモンであるテストステロンは、「温かさ」を生み出すホルモンであるオキシトシンの分泌を阻害する働きがある。

一見両立しにくい「強さ」と「温かさ」。しかし、どちらか一方をフルに発揮している時、もう一方の特性も同時にアピールできるように成ることもある。アイン・ランドは個人の権利を何より重んじる小説世界を構築した。その「強さ」の絶対性が多くの支持者を集め、連帯感という「温かさ」を生み出した。ビートルズは、圧倒的な「温かさ」である愛を説いた音楽で影響力を手に入れ、社会を動かす「強さ」を発揮した。

 「強さ」と「温かさ」は、人間の魅力を表す万国共通の指標となる。目指すべきは、その両方を兼ね備えた人物なのだ。


「強さ」と「温かさ」を決める「見た目」とは

性別による「強さ」と「温かさ」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「強さ」と「温かさ」の印象は、あった瞬間にほとんど瞬時に決まってしまう。そのため、性別や体型、ルックスなどの所与の条件によって大きく左右される。

 例えば、男性と女性であれば、残念ながら女性の方が不利と言える。男性は「強さ」と、女性は「温かさ」と紐づけられることが多いが、研究によれば男性の方が「強さ」と「温かさ」のバランスが取れていると判断されやすい。女性の場合「温かさ」の強い古典的なタイプの女性は同情や哀れみを受けやすく、逆に男まさりで、「強さ」のうかがえる女性は、シーソー現象により冷たい女性とみなされてしまう。また、人はステレオタウイプから逃げられないものだから、「強さ」を発揮する女性を見た場合、「ステレオタイプ違反」を感じ、ますます冷たい印象を持ってしまうのだ。そのため、女性が「強さ」を発揮する際は、「温かさ」を失わないことがポイントとなる。例えば「強さ」を示す際には、仲間との連帯感や周囲への献身など、「温かさ」(従来の女性像に見合ったもの)と関連おある事柄について自己主張すると、周囲に許容されやすい。

 さらに、性差による印象の違いを克服するためには、女性は能力や意欲において、同じポジションにいる男性をはるかに上回る必要がある。こうした性差に苦しめられた人物の代表がヒラリー・クリントンだ。彼女の圧倒的な「強さ」は多くの人々に反発を呼んだが、ある日演説の中に感極まった態度が、彼女の「温かさ」を周囲に知らしめることになった。彼女のエピソードは、女性が反感を買わないためには、「強さ」と「温かさ」を男性以上にコントロールする必要があることを示す好例である。

顔立ちが与えるインパクトーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

顔立ちは2通りの形で「強さ」と「温かさ」を感じさせる。一つは顔立ち自体の強さ、温かさであり、もう一つはそのものズバリ、ルックスの良し悪しだ。では、美しい人は、その外見において与える印象で得をしているのだろうか?

 もちろん外見的魅力は、大きな意味を持っている。女性は特にその傾向が強い。例えば文章を評価する場合、作者の外見が魅力的な方が、ハロー効果により評価が高まるという研究結果がある。

 「強さ」「温かさ」を測る旧狂句の尺度は、「その人を見た瞬間にどんな感情が湧き起こってくるか」である。我々は美しい人を見たときに賞賛の念を抱く。これは、「強さ」と「温かさ」を兼ね備えた人に対して沸き起こる感情と一致している。つまり美しい人は、外見だけで「強さ」と「温かさ」を共に手にしていると言えるのだ。

しかし美しい人が常に得をしているわけではない。美人は時々「無能で退屈な人間」「頭が良くない」というステレオタイプなレッテルを貼られる。また美しさが賞賛ではなく嫉妬を呼び起こすこともあるだろう。

 美の基準は一様ではない。人は皆、なじみの顔に基づいて、独自の美の基準を自分の中に作り上げている。見栄えは最初の評価を決めるが、その後会話を交わすうちに、その行動や人との接し方によって、評価は微調整されていくのだ。

【必読ポイント】「強さ」と「温かさ」を同時にアピールするために

非言語コミュニケーションを活用せよーーーーーーーーーーーーーーーー

我々が無意識のうちにおこなっている行動の多くは、意識的にコントロールが可能である。他人に好印象を与えるためにまず活用したいのが非言語もキュニケーションだ。

 メラビアンの法則によれば、我々が相手の気持ちを判断する際に用いるシグナルの内訳は、視覚情報が55%、聴覚情報が38%であり、言語情報が占める割合はわずか7%に過ぎない。我々は発話内容よりも非言語行動を重視しているし、それはそのまま信頼感につながる。非言語シグナルに一貫性があればメッセージが本物であることを確信できるし、食い違っていれば、話し手の弱さや自信のなさを嗅ぎつけてしまうのだ。

態度が性格を作り出すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

非言語シグナルには、顔の表情や姿勢、ジェスチャーなどがある。例えば「強さ」をアピールしたいなら、空間を支配することが大切だ。自由に伸び伸びと部屋を動き回ったり、手や肘を体から離すようにしたりすることで、占領するスペースを広く取ると効果的だ。

さらに、姿勢も重要な要素だ。背筋を伸ばして「休め」のポーズを取るだけで、本人の自信を物語ることができる。また、非言語シグナルと感情は分かち難く結びついているから、意識的にある姿勢をとり続けると、感情も姿勢に合わせて変化する。パワーが溢れるポーズを取れば、実際にパワーがウチからみなぎってくるのだ。

 また、「温かさ」を伝えるために欠かせないのが「笑顔」の表情である。笑顔は万国共通の表情であり、笑うことそれ自体が幸せを生み出す。また伝染力もあるため、相手にも幸せを伝えることができるのだ。

 しかし、笑顔にはバリエーションがあり、作り笑い山の抜けた笑顔に陥ってしまう危険性もある。受けては笑顔の違いを見抜くことに長けているから、適切に使用する必要がある。

聞き手を動かす「輪」のテクニックーーーーーーーーーーーーーーーーー

「言葉」もまた「強さ」や「温かさ」のシグナルを発している。優れた話し手はまず「温かさ」をアピールするところから始める。相手に共感を示して聴衆の心をつかんでから、弁論術=「強さ」を発揮して相手の感情を揺さぶるのだ。

 聞き手の心を動かすには「輪(サークル)」の内側に入る必要がある。「輪」の内側には同じ価値観を持った人々が集まっており、「輪」の外側からの声は届かない。

 「輪」に入るために必要なのは、相手の立場への深い共感と理解である。そのためには、聞き手と同じ目線で立っていることを伝え、相手に感情移入する。敵意が強く感情移入が難しい場合は、感情そのものではなく、敵意の底にあるフラストレーションに理解を示すと良いだろう。

 「輪」の概念を用いた説得術は、聞き手を自分の立場に寄せる綱引きではなく、聞き手の側に歩み寄った上で、心を掴み自分の側に誘導する技術である。

「物語」と「ユーモア」を使って語ろうーーーーーーーーーーーーーーー

レトリックを活用することによっても、「強さ」と「温かさ」を同時に発揮することができる。有効なのは「物語」と「ユーモア」の2つだ。

 物語という形式には、我々の批判精神を和らげ、警戒心を解く働きがある。そのため、他人と物語を分かち合う行為は、本質的に温かみを伴った行為だ。物語は思想やアイディアを伝える強力な手段であり、まるでトロイの木馬のように、我々の心に忍び込んで、その価値観を強く揺さぶるのである。

 一方、ユーモアは、話術=「強さ」を示し、笑いという感情体験の共有=「温かさ」を実現することができるレトリックだ。いわゆる「内輪ネタ」には、前述の「輪」を作り出し、人々の結びつきを強める機能もある。タイミング良くユーモアやジョークを使うことで、馬の緊張を和らげ、頭の回転の速さをアピールすることができるだろう。

一読のすすめ

冒頭でも触れたが、本書は「存在するだけで場を明るくする人と、逆に白けさせる人の違いは何か?」という非常に素朴な疑問から出発している。その疑問に共感できる人にとって、本書は非常に興味深く実感を伴う記述の多い一冊となるだろう。

 プロローグにまず「強さ」と「温かさ」のセルフチェックシートが用意されているので、先に自己評価を行なってから読み進めると良い。また、身の回りの「強さ」と「あたたかさ」を兼ね備えた人物を思い浮かべながら、その振る舞いにメスを入れるつもりで読むのもいいかもしれない。「次に人に会うときには注意しよう」と思えるポイントがいくつも見つかるはずだ。


得られたポイント

・人の心を掴む人になるには、強さと温かさが必要である。
・温かさと強さを手に入れるには、非言語コミュニケーション(見た目、動作、表情、態度)を重視しよう。
例えば、背筋を伸ばしてみたり、のびのびと動き回ってみたり、ポジティブな態度をとる。これら非言語シグナルは、感情とも深く結びついているので、感情も姿勢に合わせて変化する。無意識に行う行動には注意して生活してみよう。

・聞き手の心を動かすには、相手の立場への深い共感と理解が必要である。
聞き手に同じ目線に立っていることを伝え、相手に感情移入するのがポイント。相手に敵意がある場合は、敵意に底にある、フラストレーション(欲求が叶わない不満感)に理解を示すとよい。

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