ダラっとした組織変革をピシっとしよう
前回は、「組織変革のエッセンス」のなかの【躍動力】について書きました。
【躍動力】も3つに分解できる、と言いました。下図のとおりです。
こうすれば止まった岩も動く!
組織変革の【躍動力】は、「堅牢なオーナーシップ」、「前向きなリーダーシップ」そして「一点突破の目標」で得られる!
本当にそうです。変革が始まったとき、つまり「止まっている岩を動かす」ときに、この3つが必須になります。
社長や事業トップが堅牢、つまり骨太なオーナーシップを持って「よし、この変革を進めるぞ!」と宣言して自分の時間をそれに使う、それに組織の各リーダーたちが「ちょっと大変そうだけど挑戦してみようぜっ!」と前向きに取り組む、そして全員が同じ方向を向けるよう「一点突破の目標」がはっきりする。こうして「止まっている岩が動く」のです。
それはわかったけど…
「おっしゃることはわかるんですけどね…事業トップを巻き込むところからして、結構、大変じゃありません?」
ある経営改革推進室長の言葉です。会社のあちらこちらで進む改善や改革プロジェクトを【全て】統括するという、とっても大変な役目を持った方です。この方とは、変革のエッセンスのアレコレについて、何度もディスカッションしています。
この方に、前回のnoteでお示しした【トップ巻き込みに必要な6項目】を伝えました。この6つです。
1)変革が目指すこと(経営指標で表せる大きなゴール)
2)ファクトに基づく耳の痛い課題
3)課題の論理的な真因分析
4)フォーカスされた解決策
5)具体的実行計画の事例
6)変革を必ず成功させる強い意思
「いやぁ、理屈はわかるんです。でもなぁ…。」室長さんは、としばらく考え込んで、こう言いました。
「2番のところ、まず社長にとって耳の痛い課題をまとめる、ってやつ。これ時間がかかりません?分析とかでしょ?しかも、似たようなことは経営会議でも出るし、新鮮味もないんじゃないかな…」
変革推進者は忙しい
その通りかもしれません。その室長さんは、何十も同時に走る改革をまとめているので、とても一つ一つの課題分析などやる暇がない。でも中途半端なマクロ分析くらいじゃトップはなびかない。
経営改革推進室長でなくても、例えばある部門で改革・改善担当になった方でも、事情は同じでしょう。現業をやりながらなので、改革活動に割ける時間が限られている。変革推進者は、だいたいやり手が選ばれますので尚の事でしょう。
小さな範囲を深く掘る分析が有効
限られた時間のなかで課題分析をするときに有効なのは、例えばある支店とか部門など、小さな範囲に限定して、そこで深堀りすることです。対象エリアが限られていれば、調査に協力してもらう現場の人も限られる。分析データ範囲も限られる。全社対象でやるより、ずっと時間も短縮できます。
選ばれた支店や部門は、当然、部分です。「部分だけ見たって仕方ないんじゃないですか?」、「その部門の特殊性と組織全体の一般性の折り合いはどうつけるんですか?」という疑問が浮かぶでしょう。先の室長さんもそう言っていました。
経営者は一を聞いて十を知る
しかし経営者には「仮説思考」型の人が多いです。一を聞いて十を知るような仮説思考の人に部分の課題を生々しく見せると、「他もこうなっているのかもしれない」と考えるものです。
T字型の分析で部分と全体を重ねる
そして、ここがキモですが、課題分析は単に部分だけでやるのではなく、T字型でやるんです。T字型というのは、上の方は広く浅く、どこか一点を縦に深く、という意味です。全体は浅く広く分析する。Tの横棒です。支店でいえば、支店間の業績一覧のようなものです。こういう分析は大抵、既にありますので加工の手間はかかりません。その中から、平均的な支店を選んで、選ばれた個店で深堀りする。Tの縦棒です。その分析結果から様々な課題が出てくれば、「平均以下のところはもっとヒドいのかもしれない」と普通は思います。
「深堀りってどうやるんですか?」次に出てきそうな質問です。答えはサンプリングです。小さな範囲のさらに範囲を絞って、例えば支店なら所属する課などで、そこで網羅的に分析する。例えばB2B営業なら顧客カバー率、引合いから受注のコンバージョンレート、失注要因、前向き営業とその他業務に使っている時間割合…。絞るのは範囲だけではありません。期間も絞る。1年分となると大変でしょうが、過去3ヶ月分ならどうです?それでも十分に有効な実績データです。サンプルの範囲と期間を絞ればいくらでも深堀りできます。
要するにズームイン
そういう現場寄りの現状は、普通、上層部の目に触れません。報告の階段を登るうちに丸められる。経営に上がる情報はズームアウト情報なんです。だから敢えてズームインする。ズームインして見える課題を示す。だからこそ現場寄りの現状分析は価値があります。
分析対象部門のリーダーを味方につける
「でも、そんな現場の生々しい課題を支店長が見せたがるはずがないですよね」
いや、持って行き方次第です。敢えて自部署の現状の問題を洗い出そうとする責任者や管理者は立派であり、その態度は褒められるべきことです。「問題は今どうなのか?ではない。きちんと課題を掴み、それを解決しようと挑戦することだ」という正論に乗ってくる部門リーダーを見つけて、タッグを組みましょう。
もちろん、事業トップや社長にも「敢えてそうしている」立派な態度を認めてもらい、出てきた課題をとやかく言わないという前提条件を整えましょう。その分、この課題はこうして克服する、という解決策もきちんと練り込まないといけないですね。
そのために前述の6項目でいえば、
3)課題の論理的な真因分析
4)フォーカスされた解決策
5)具体的実行計画の事例
が重要になります。
ズームアウトはどこで?サンプルをどうスケールするか?
先の室長さんも、ここまではわかってくれました。でもまだシックリこないご様子。曰く「いつまでも部分の話では、経営レベルの話にはなりませんよね?ズームインしたものを、どうやってズームアウトします?」お節ご尤も、です。
ズームアウトする【場所】は2つです。1つ目は3)課題の論理的な真因分析です。イシューツリーを書いていけば真因に辿り着きます。この【真因】の表現を一般的なものにすると、「それは他にも当てはまりそうだ」という印象が増します。実際、大抵当てはまります。
2つ目は、4)フォーカスされた解決策です。先ほど、分析はT字で行うと言いました。ここで横棒、つまり広く浅い分析結果を組み合わせ、この解決策がその他の、特に平均点以下の部署にも当てはまりそうかどうかを議論します。特殊事情のある部署もあるでしょうが、それは少数です。提示された解決策が的を得ていれば「その解決策はどこにでも通用しそうだ」という流れになってくるはずです。
オーナーシップの堅牢化の仕上げ
ここから先は、前回のnoteに書いたとおり、オーナーシップの堅牢化を図りましょう。
トップ巻き込みのためのメッセージが伝わり、「わかった、やってみなさい」ゴーサインを出してもらったとしても、それだけでは不充分です。巻き込むだけでなく、トップには変革のオーナーになってもらわなければなりません。「これはトップ主導の変革活動」という位置取りをすること、そして関与し続けてもらうことが重要です。これが堅牢なオーナーシップの意味です。
そうそう、オーナーシップの堅牢化に意外と効く、2つの簡単ツールをお伝えしておきましょう。
変革推進体制図
一つは【変革推進体制図】です。
こんな一枚紙で表現できる程度の粒度で構わないので、変革推進に誰がどんな役割を果たすのかを示し、当事者の合意をとりつけます。組織変革がプロジェクト化され、アクションがより細分化されていくにつれ、誰が何をするのかの規定も細かくなります。細かくなると元々の役割がぼやけることが往々にしてあるので、骨太な役割は何か?に立ち返られるように、つくっておきましょう。
トップミーティングを含んだプロジェクトスケジュール
プロジェクトのスケジュールは、ガントチャートや、さらに細かいWBS(Work Breakdown Sheet)に落とし込まれるでしょう。その大元となるスケジュールに、トップミーティング日程を入れ込んでおきましょう。「月に一回は必ず1時間、このプロジェクトのために時間を割いて下さい」、「変革に取り組む実務者の報告を直接聞いて下さい」と口約束するだけでは、トップが忙しさを理由に離れていく可能性があります。プロジェクト・スケジュールにトップミーティング日程を入れ込み、社長スケジュールも押さえてしまいましょう。
当たり前を当たり前に
以上、色々と書いてきましたが、どれも地味で当たり前のことばかりです。新味がないなぁ、とお感じかもしれません。Something newを求めて読んで頂いた方には申し訳ありませんが、このシリーズはずっとこんな地味で当たり前の話が続きます。
数百の組織変革を付託され、デザインし、成果創出まで伴走してきた私が信じて疑わないこと。それは、地味で当たり前のことをきちんとやり切ることこそが組織変革の要諦である、ということです。
それで宜しければ、これからもどうぞご贔屓にお願いします。
次回は(次回こそ)「前向きなリーダーシップ」について書きます。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
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