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リアル生イギリス英語vol. 6<児童書『平たいスタンレー君』>

皮肉屋のイギリス人は普段からブラックジョークシニカルな表現が好きで、日本人並みかあるいはそれ以上に婉曲的です。それは子供向けの絵本や児童書にも表れていて、我が子が毎日学校から持ち帰って来る教材も、時に難解なものがあります。

文化的背景が異なるので、イギリス人には当たり前過ぎるストーリー設定や登場人物のキャラクターなどでも、日本人の私にはピンとこない事が多く、まだ続くと思っていた話が次の瞬間

ジ・エンド♪

と、ページが突然切れており、誤植か何かか?!と何度もページをめくり直したり文脈を読み取るべく、前のページの文章を複数回にわたり熟読してみるのですが、結局オチがサッパリわからないまま、という残念な結果に終わることもあります。

そうして子供向けの教材で既に四苦八苦している日々ですが、久しぶりにまた違和感を覚える、日本のストーリーでは到底思い付かないタイプに出逢ってしまったのでご紹介します。

Lori Haskins Houran作の『Flat Stanley』は、「平たいスタンレー君」とでも訳しましょうか。ある男の子の日常を切り取ったストーリーで、話の展開や終わりには特に難しいこともない普通レベルなんですが、キャラクター設定がぶっ飛んでいます。

そもそもタイトルからして、はたしてこのスタンレーというのは物なのか人の名前なのか、一瞬疑問に思います。それでも仮に人の場合「平ら」というのは外見ではなく、性格といった内面的なことではないか、とある程度の仮説を立てることができます。

ところが、このお話は冒頭から

Stanley had been flat ever since a bulletin board fell on him.
スタンレーは掲示板が彼の上に落ちて潰されて以来、ペチャンコ(平ら)だ。

と、強烈なストレートパンチ並みのジャブで始まります。私の稚拙な仮説は見事に撃ち砕かれました。スタンレー君は厚みが

half an inch thick 半インチ(1.27cm)

であると書かれており、本当に紙のような薄さです。

家族構成は両親に弟がいて、彼も含めて全員普通の人間のようです。想像上の生き物でもないのにこんな平らな子供を登場させるとは、並外れた想像力であります。

Stanley was four feet tall. 身長は4インチ(122cm)

と、背の高さも年齢相応でごく標準

得意技はその「薄さ」を活かしたリンボーダンスで、ハロウィンパーティーの日にはお母さんが手縫いで子供達にコスチュームをこしらえてあげました。弟にはリクエストに応えて、あれこれ試行錯誤しながら懸命に「適度に怖くて怖すぎない恐竜」を仕上げるお母さん。その一方で、スタンレーには意見も聞かずその薄さを逆手にとって有無を言わさずパンケーキの衣装をあつらえました。

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パーティー会場まではお父さんが車で送ってくれるのですが、スタンレーはなんと紐で車の屋根にくくりつけられ、まるで物かのような扱い。安全上、というよりあくまでも「普通の子供」という設定のわりには、そんなことして良いのか?という疑問が果てしなく湧き起こります。無論、弟は車内の座席にフツーに座っており、この弟との扱いの差もシュールで笑え(?)ます。ここら辺がブラックジョークなのだろうか・・。一見、兄弟格差があるように見えますが、本人含め家族は全員幸せそうなので、問題ないのでしょう。

日本人なら誰でも知っている桃太郎やかぐや姫といった昔話を、イギリス人が知らなくても不思議はありません。ストーリー中に出てくるキビダンゴおむすびといったアイテムも、彼らにとってすぐには想像がつかないことでしょう。私たちのような日本人の親が、イギリスの有名な絵本の内容を知らなかったり理解できなくても致し方がないな、と最近では思うようになりました。

この『平たいスタンレー君』が、どの程度イギリス人にとってフツーなのかは神のみぞ知る、ですが。

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