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0103 アンジェイ・ムンク監督『パサジェルカ《ふたりの女船客》』聖地巡礼

2019年8月10日(土)にポーランドのオシフィエンチムでアンジェイ・ムンク監督『パサジェルカ《ふたりの女船客》』(Pasażerka)の聖地巡礼をしてきました。

この映画は61年に39歳で交通事故死したアンジェイ・ムンクの遺志を継いで、親交を結んでいた映画人が残された脚本と撮影素材に基づいて63年に完成させた傑出した作品。アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所でのドイツ人看守リーザ(演:アレクサンドラ・シロンスカ)とポーランド人収容者マルタ(演:アンナ・チェビェレフスカ)の共生関係と戦後の邂逅?を描く。

因みに、Pasażerkaは英語Passengerのポーランド語の女性名詞。日本語訳は(女性の)乗客。因みに男性名詞はPasażerów。公開当時の東和のポスターを確認してみたら《ふたりの女船客》というサブタイトルが付いてました…知らなかった。

ストーリーは、戦後のスチルのみのアメリカからヨーロッパに向かう船上(リーザの乗っている客船にマルタ(本人なのか似た他人なのかは?)が後から乗船する)と戦時中のアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所の2ヵ所で展開していきます。

強制収容所のロケ地はアウシュビッツ強制収容所とビルケナウ強制収容所(本物)。
Auschwitz-Birkenau – Wikipedia, wolna encyklopedia
1947年7月2日に博物館として開設されました。
Auschwitz-Birkenau
仮設のセットでは無くて、バリバリの本物といってもCAMPなので収容所の建物自体が仮設に近いのですが、この辺は戦後イタリアのネオ・リアリスモみたいな感じです。

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所は「映画によくでるキャンプ」として知られています。※キャンプの定義=①テントやその他の一時的な構造物の一時的な宿泊施設として機能する屋外の場所②テントや一時的な宿泊施設で行われる組織的なイベント③必ずしも一時的なものではない軍事グループの拠点。なお「映画に最もよくでてきたキャンプ」なのかどうかになると、撮影許可がおりた海兵隊や陸軍の同一のキャンプ=駐屯地で撮影された戦争(?)映画があるかもしれないので判りません。因みに海軍と空軍はベース=基地です。

Filming and Photographing / Press / Auschwitz-Birkenau
こちらのリンクにある通り、敷地内の長編映画撮影は許されておりません。当該の『パサジェルカ』と『戦いのあとの風景』(聖アンジェイ・ワイダ)、『否定と肯定』(ミック・ジャクソン)の3作品は例外的に同収容所=同博物館敷地内に於いて撮影が認められた劇映画となります。※スティーヴン・スピルバーグの『シンドラーのリスト』のビルケナウ強制収容所本部棟前のシーンは敷地外撮影。

映画では、リーザとマルタ二人の間での共生と相克が描かれてますが、モブキャストが兎に角すごい。助監督が優れていたのかもですが、主人公が二人の場面・一人の場面問わず、背景に写り込んでいる、看守・カポ・収容者が「お前ら強制収容所にいただろ!」というぐらいドキュメンタリータッチでリアルもいいところ。出演者の殆どが本人が収容所のサバイバーか身内に収容者いました系だと思います。同じ体裁でタイでロケした『キリング・フィールド』(ローランド・ジョフェ)をカンボジアの田舎ロケで集団農場サバイバーとポル・ポト派元看守で撮ったら物凄い映画になるだろうなと思うくらいモブキャラがモブモブしてない。

収容所内での一般的な図式は「被害者たるユダヤ人(&シンティ・ロマ)、加害者たる元ナチス、傍観者たるポーランド人(念のため断っておくと占領地とはいえポーランド領内なので仕方ないんですが対ナチス抵抗者=政治犯が多くユダヤ民族に次いでポーランド人の収容者が多かった)」に大別されます。この映画でも傍観者たるポーランド人の(政治犯)マルタはユダヤ人犠牲者の没収物の整理を主たる囚人業務としておりユダヤ人に比すればかなり安全な立ち位置にいて、国内にトンデモナイものを設置されてしまい傍観せざるを得なかった複雑なポーランド人の立場が描かれてます。

まずはビルケナウ強制収容所の本部棟。

アウシュビッツ収容所では、11号棟に逃亡者や収容所内でのレジスタンス活動を行った者に対して銃殺刑を執行するための「死の壁」があって、流石に本篇では銃殺シーンは無かったものの銃殺後の血の洗い流して拭き取り掃除をするカットがあったり

ここで絞首刑者が見せしめで吊るされていたんですよという場所で、映画本篇では3人ぶら下がっていたり

セットじゃ本物には勝てっこないよな…。

ビルケナウ収容所でも、ガス室にチクロンbを充填するドイツ兵とか列車から降ろされてそのままガス室に歩き進むユダヤ人を遠目で眺めるリーザとか本物の収容所ロケならではの日常的描写で観るもの心を揺さぶります。

©Filmoteka Narodowa, Studio Filmowe „OKO” , Studio Filmowe „TOR” , Studio Filmowe „KADR” , Studio Filmowe „PERSPEKTYWA” , Studio Filmowe „ZEBRA” ,
©2019 プッチー・ミンミン


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