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上比売を嫁にもらう(6)

絶世の美女と誉高いヤガミヒメと大国主命は結ばれた。愛に包まれた平穏な日々が訪れるはずだったが、求婚を拒絶された八十神たちは、平穏無事な日々を絶対に許さない。


作戦を練る

「そこで待機してもらってる皆さんが一気に襲い掛かるという……」
「知っていると思うが、我々は陸上ではあらゆる能力が下がる。できるだけ陸に上がりたくはないのだが」
「ええ、陸に上がるのはほんの一瞬です。私が合図するまで海中で隊列を組んだまま待機していてください」
「わかった。どうも陸の上というのは体が重くなって不自由で、何かこう緊張感がないというか、全身がだらーんってなる。それに、陸に上がる時は、ほれ、このように腕脚を出すのだが、慣れないからかずっとむず痒いのだ、このヒョロリとした脚が」
「わかります。我々ウサギ族も今のように人化けしたときには、ヒョロリとして毛のない腕脚に違和感を感じるという者が多くいます」
「サブ、そんなことはいいから、作戦の説明を」
ベンウサギは腕を組み難しい顔をして下を向いた。三郎ウサギは手振り身振りを交えて熱心に作戦の詳細を説明を続けた。サメ族の長は久しぶりの戦に興奮を抑えきれないといった様子。
「で、敵兵の数は?」
「約1000。海岸まで我々が負い込んで、そこで皆さんが……」
「本当に待ってるだけか? 信じて待ってれば良いのか?」
「ええ。山豚族は体が大きく力が強い。特に前線にいる戦士は最強軍団といっていいでしょう。陸上で1対1ならサメ族でも勝てるかどうか。しかし……」
「海の中なら決して負けぬぞ。海中に引き摺り込めば……」
「それはもちろん。ですから海岸まで追い込んだら、そのまま一気に海へ引き摺り落とします。奴ら泳ぎは不得手ですから」
「で、海までどうやって? 最強の山豚軍団を」
「動けぬようにして運びます」
「動けぬように!? どうやって?」
ベンウサギが口を開いた。
「我々ウサギが、山頂付近にある奴らの一番大きな村を襲撃する。山豚は他の村に緊急事態を知らせる狼煙を上げるはずだ。狼煙場を確認したら我々が占拠。我々が嘘の狼煙を上げて敵兵を操って分断。分断した敵兵を気絶させ海岸まで運ぶ、という手筈だ」
「分断? 気絶? そんな簡単に? 全くわからん! もう少し納得のいく説明をしてくれ」
「ちょっと端折りすぎましたね」
三郎ウサギが割って入った。
「山豚が上げる狼煙には、いくつか決まりがあるのです。まず襲撃があったとき最初に上げる黄色の狼煙、これは近隣の村に襲撃があったことを知らせると同時に近隣村にいる兵士に集合を命じる狼煙です。100人程の兵士が集まります」
「どれくらいの時間で集まるんだ?」サメの長が聞いた。
「数分、……5分と言ったところです」
「なるほど。で?』
「もっと応援が必要な場合は、3連の黄色狼煙が上がります。すると少し離れた村からも兵が駆けつけ10分で300人ほどが集結します」
「10分300か、あの山の中でそれだけの召集力とはなかなかだな」
「大小いくつもの村から駆けつけるのですが、山豚は茂みでもなんでも、道がなくても踏破する脚力、突進力を持っているので、速いのです」
「俺が海中で声を上げれば5分で1000は集まるがな」
自慢げなサメ族の長に三郎ウサギはつまならそうに、嗜めるようにぼそり。「さすがです」。
「……で?」サメは少し顔を赤らめた。
「問題は山豚兵の精鋭部隊です。戦闘専門の兵士村がいくつかあります。兵士村はこの3連狼煙見て臨戦体制に入ますが、まだ動きません。100人でも危ういと判断されると赤い狼煙が上がります。そこで精鋭部隊の出動になります。で、赤い狼煙にも種類があって……」
「めんどくせぇ! 全員で攻め込んで、集まってきた兵も何もかも皆殺しにしてしまえ!」
剛力自慢で近接戦を得意とするサメ族らしい言葉に三郎ウサギは、再び捨てるように「お強いですね」。そして続けた。
「大軍で攻め入ってもですね、我々では山中の拓けた“道”を進むしかできません。道を外れた茂みの中は歩くのも困難、罠も仕掛けられているようです。どうしても行軍は細長い列になってしまいます。ですから、村に到着しても攻め込めるのは先頭のせいぜい数十人。後方部隊は呑気に順番待ちです。そこを茂みから襲われ、ゲリラ戦の餌食になっていつの間にか壊滅状態というわけです」
「ほぉ、なるほど厄介だな」
「ええ。で、狼煙ですが、一つだけの赤い狼煙は、襲われた村を囲むように全員集結の合図ですね。2連の赤色狼煙は2団のゲリラ部隊を編成せよとの合図。細長い列の後方部隊を横2箇所から襲う陣形です。3連は同様に3箇所。4連は4箇所で、列の最後方から襲うのです」
「幾つまであるんだ?」
「10部隊編成までできるようです。ただし狼煙は5連まで。それ以上は回数を乗じているようです」
「回数をじょうじている……?」
「ええ、赤色狼煙の間に緑色狼煙を挟むのが乗じる合図です。例えば10部隊に編成する場合は、赤色2連、緑色、そして赤色5連と続けて狼煙を上げる。これで2乗5で10部隊編成です」
「なるほど。それを利用して嘘の狼煙で部隊を分断するわけだ」
「ええ、10部隊に編成してもらえば、1部隊は最大で100。まぁ、そういうことです」
「しかし、狼煙でうまく誘き出したからといって、どうやって倒す? 気絶させると言ったな』
「簡単にいうと、待ち伏せです。狼煙に誘われた山豚兵が隊列に攻め入ったのを見計らって、投石攻撃をします」
「見せかけの隊列? 投石? 石で倒す?」
「ええ、サメ族に化けた我々が進軍して、山豚が襲ってきたらます。石ですけど石ではないのです」
「どういうことだ?」

(続)

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