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「サンクチュアリ -聖域-」の素晴らしさと大相撲的な突っ込み

先日の記事で、いつもインタビューなどメディアに登場するときは必ず着用しているサガミオリジナルのTシャツが切れてしまったのでHさんご相談させてください、と物欲しげなことを書いたわけだが、それを見た相模ゴム工業のHさんが、新しいTシャツを会社に送ってくださった。

サガミオリジナルキャップまでお送り頂いた。

いつもながら本当にありがとうございます。これで自分は完全体になったような気がします。
娘の幼稚園の父兄の間でめっちゃ話題になっても、私は着用し続けます。

というわけで、この、サガミオリジナルのTシャツを私が着用し続けているのは、15年前にもなるのか、サガミオリジナルの広告作品である「LOVE DISTANCE」を担当させて頂いてからの御縁だ。

実際に遠距離恋愛をしているカップルが、東京と福岡から2週間かけて走り続け、最終的に大阪で合流して「愛の距離」が0.02mmになる、というもので、2週間のランニングの模様の中継と、その間の2人のチャットの公開、身体情報の同期など、デジタルでの仕掛けをいろいろやった。デジタル部門の開発責任者をやっていたのが私ということになる。

一方で、この2週間のランニングを含めたドキュメンタリーCMとして映像にまとめる、CM・映像チームがあって、そちらで映像監督をされていたのが江口カン監督だ。私はデジタル側だったので、密接に関わることはなかったが、最後の撮影現場には当然いたので、その際にもご一緒させて頂いている。当時、ギックリ腰か何かをやってしまっていて、横臥しながらメガホンを取っていらっしゃった。

そんな江口監督はその後ドラマや映画の監督でも活躍されるようになって、ちょこちょこ拝見させていた。そしてその江口監督の最新作が、私にとっては他ならぬ、大相撲を題材にしたNetflix作品「サンクチュアリ -聖域-」だ。

私は中学2年生、平成2年春場所の6日目に霧島が千代の富士を吊り出した一番以来、大相撲を観続けてきた。

そして、そもそも大相撲というのは実写化が極めて難しい題材であるということは4年前、記事にも書いた。

一方で、それほど難しい題材であるがゆえに、それを実現できるのは今ではNetflixくらいのものではないかとも思っていたところに、江口監督+Netflixというなんかすごい組み合わせでリリースされたのがこのシリーズだ。


以下、やりすぎない程度にネタバレあります。話の筋はあんまりわからないくらいですがご注意ください。


正座して一気見せざるを得ないので、ゴールデンウィークでどこも混んでいて出かけられない中、「お相撲なんか見たくない!」と子供らに文句を言われながら、正座して一気見した。

感想としては、もうとにかく、この難しい題材をよくぞここまでの映像にして頂いて、さらに世界にそれを伝えることができるプラットフォームでリリースしてくれた、ということで、関わられたすべての方々に尊敬の念しか無い。

かなりハードな話で、観ている人の溜飲が下がるのがかなり後半になってからなので、相撲ファン以外、ことに海外の方々がそこまで耐えられるかが問題だなーとは思ったが、少なくともガチの大相撲ファンだとは自認できる自分にとっては、終わり方も含め最高だった。

1つの取組に至るまでにどれほどのプロセスや葛藤があるのか。長く相撲を観ていると、それに圧倒される機会は何度かあったし、それは相撲観てて良かった、という経験そのものなので、それを中心に据えて描ききってくれたことについては、大相撲全体を箱推ししている人としては感謝のほかない。

「Blue Giant」の映画の影響で、友人が経営しているジャズバーは客足が伸びたらしい(原作があまり得意ではないので、私は映画は観てない)し、「サンクチュアリ」の影響で本場所や巡業の客足が伸びて最終的に入門者が増えると良いなあと思う。それにつながる「良さ」が伝わりそうな描き方だった。

それはさておき、これを書いている時点で筆者は一度しか通し見していないが、日々大相撲を観ている者として、「あれ? ちょっと変だぞ」と思ったところはちょこちょこあった。いやむしろ、漫画とかでもこういう題材だと通常はもっともっと変な突っ込みどころはたくさんあるものなので、むしろ突っ込みどころがそんなになくて、ちゃんとしてるなあ、くらいの印象は持っているが、それでも気づいたところはあったので、折角なので列記しておく。

まだ海外のランキングではそんなに伸びていないようだけど、もうちょい海外で流行ったら英訳記事にしてみようかと思う。

最初の本場所のシーンで、猿桜の取組の二番後の三段目の最初の取組に静内が出てくるのは無理がある

静内はこの時点で、デビューから14連勝しているはず。

実際の大相撲だと、直近で尊富士が14連勝(最終的に17連勝まで行った)しているが、デビューから14連勝すると、番付的には三段目上位(10枚目とかそのへん)で取ることになるので、これより三段目の最初の取り組みで静内が相撲を取るのはおかしい。

猿桜は7連勝直後で、序二段上位にいるはずで、あの位置で相撲を取るのは変ではない感じがするが、2番後に静内が出てくるのは演出とはいえちょっと無理がありそう。

猿谷が支度部屋で静内の取組を観ている

これは実際のところちょっとよくわからないのだが、この場所で、4勝目で「十両復帰確実」とされた猿谷は最低でも幕下3枚目以上にいるはずで(4枚目で4勝だと、よほどのことがない限り早い段階で「確実」みたいにはならない。)、つまり毎日十両土俵入り後の幕下上位五番で相撲を取っているはず。

つまり、猿谷の取り組みは概ね14:30以降なはず。

一報の静内は、三段目の上位取り組みでも、13時前後にやってるはずで、そうなると、猿谷はそんなに早い時間に支度部屋に入っていて良いのか疑問が残る。

幕下以下は支度部屋での準備のテンポが結構早いはずで、こんな時間から幕下上位の力士が支度部屋にいるのってもしかして変なのではないかと思った。

支度部屋の一番奥のところは横綱専用

これは、敢えて知識がなくてしきたりを無視するそういう描写をしている可能性があるが、猿桜が横臥して煙草を喫う、支度部屋の奥のところはしきたり的に横綱以外座ってはいけない場所なはず。

敢えて触れなかったのかもしれないし、実際、若い力士でしきたりを知らない力士も結構いるらしいので、これで良いのかもしれないけど、周りがもうちょい「オイオイ」的なリアクションを取ったりしても良かったような気がする。

先日、ひよの山も一番奥に座ってた。

猿桜の三段目の優勝決定戦の客席

猿桜の三段目の優勝決定戦の収録映像が登場するのだけど、十両以下の各段の優勝決定戦は、序ノ口でも千秋楽の中入り後に行われるので、客席の観客数がおかしい。

千秋楽の中入後なので、三段目の取り組みとはいえ、客席はいっぱいでなければおかしい。

龍貴が静内の相撲を客席から観ている

現役力士、その上関取が客席から他の力士の相撲を観戦することって、たぶんあり得ないのではないか。
しかもこの際、龍貴は大銀杏を結っている。大銀杏で客席出てくるのとか、かなりの目立ちたがり屋だ。

大銀杏の関取が本場所の客席で観戦していたら、客席混乱しそう。

犬島親方による静内と猿谷の取組の操作

幕下以下の対戦は、原則上位から相星同士(勝数負数が同じ力士)で対戦するように、アルゴリズミックに組まれていくはず。なので、劇中にあるように審判部の親方が恣意的に特定の一番の割を変更するのは結構難しいんじゃないかと思うけど、あの場合、例えば幕下上位の力士を十両で取らせたりすることでそのアルゴリズムにイレギュラーをつくることもできるので、あれはそういうことだったのだと捉えようと思えば捉えられる気もする。

朝青龍問題

劇中にも登場するように、このドラマの世界線には第68代横綱朝青龍が存在する。

現実の朝青龍は、2010年に引退していて、猿桜の少年時代(見た感じ10歳くらい?)が朝青龍の現役時代とかぶることになり、劇中終盤の猿桜は未成年、という描写もあったかと思うので、ドラマの舞台は遅くとも2018年から2019年くらいのように察せられる。もうちょい早いかもしれない。

なんにせよ、朝青龍が実在してしまうと、恐らく劇中の松尾スズキとかピエール瀧の世代は、朝青龍のふた周りくらい上の世代、今の理事長(横綱北勝海)くらいの世代になるはずで、そうすると、相撲史はだんだんカオスになってくる。松尾スズキ vs 小錦とかめっちゃ見てみたい。

猿谷 vs 静内

突っ込みどころとかではないが、このドラマには元力士の俳優が何人も出演しており、猿谷役は元幕下の千代の眞、静内役は元十両の飛翔富士で、年齢も3歳違い。

劇中では印象的なシーンとなった取組だが、現実の大相撲で千代の眞 vs 飛翔富士はあったのかと調べたら、無かった。千代の眞の弟の千代の国と飛翔富士の取組はあったっぽい。


繰り返し観てみたら他にも無いことはないのかもしれないが、かなりご都合主義な展開も多かったりする大相撲漫画とかよりはよほど突っ込みどころが少なくて、「相撲考証」的な興醒め感はかなり少ない映像になっているようには思えた。

5/8現在、「サンクチュアリ -聖域-」は日本のテレビドラマランキングでは1位になっているが、海外のNetflixのランキングではようやく10位に登場したところだ。日本のNetflixって、どうしても海外の流れに対してガラパゴス化する傾向があるので(「フィジカル100」とか日本以外ではめっちゃ盛り上がっているのに日本では誰も観てない気がする)、このまま日本でしか観られなかった感じになっちゃうのは心配だし残念なので、どうにか海外でも観てもらえると良いなあと思うし、全体的に成功してくれるとすぐにシーズン2が決定したりするわけなので、どうにか頑張って欲しい。

何はともあれ、来週には本物の大相撲夏場所も始まろうという中で、とても素晴らしいコンテンツをつくり上げ提供された皆様に賞賛をお送りしたい次第です。


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