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ツクツクボウシと本の記憶

処暑を過ぎても暑さがおさまる気配がないが、虫の鳴き声は、秋の訪れを知らせてくれる。

夜に耳をすますと、コオロギの鳴き声が聞こえる。
にぎやかだったクマゼミ、アブラゼミの鳴き声はいつのまにかおさまり、
ツクツクボウシの鳴き声が聞こえる。

ツクツクボウシの鳴き声には、聞き入ってしまう。
鳴き方が変化し、曲を聞いているようだ。

随分前になるが、小説を読んでいて、ツクツクボウシについて、言い得て妙だなぁ、と感じた描写があったことを思い出す。
植物がたくさん出てきて、四季の移ろいとともに話がすすむ。
どの本だっただろう?
手放さずに持っているはず。

本棚に向かい、背表紙を眺める。
そうだ、梨木香歩さんの本だ、と思い出す。
いくつか並ぶ本をめくってみる。
見つけた。

つくつくほうしは、鳴き始めは落ち着いていても、最後は必ずリズムがとれなくなって、ごまかして終わりにする。鳥のほととぎすにもそういうところがある。でも最後まで崩れないつくつくほうしもほととぎすも聞いたことがないので、それが彼らの正調というものなのかもしれない。

梨木香歩『からくりからくさ』(新潮社)

そうそう、まさにその通りだ。

日常のふとしたことをきっかけに、呼び起こされる本の記憶。
どの本だったかなと、本棚の前で過ごすのは、幸せな時間だった。


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